葬儀費用は誰が払うのか|法律上の定めと裁判例を弁護士が解説
条文はない。裁判例は喪主負担説を中心に分かれ、名古屋高裁は費用を性質ごとに分けた
葬儀費用を誰が負担するのかについて、民法をはじめとする法律に明文の定めはありません。裁判例は分かれていますが、下級審では「葬儀を主宰した者(喪主)が負担する」という考え方を採るものが多く見られます。ただし、これは相続人どうしの内部的な負担の話であり、葬儀社に対して代金を支払う義務を負うのは契約をした人です。この2つは別の問題として切り分けて考える必要があります。
法律には「誰が払う」という条文がない
民法には、相続財産に関する費用は相続財産から支出する旨を定めた885条があります。しかし葬式費用は被相続人の死亡後に生じるものであり、実務上、この「相続財産に関する費用」には含まれないと理解されています。被相続人が生前に負っていた債務でもないため、当然に相続債務として相続人が承継するものでもありません。
関連する規定としては、民法306条3号と309条があります。309条は、債務者のためにされた葬式費用のうち相当な額について先取特権が成立すると定めており、葬儀費用を立て替えた人が一定の保護を受けられる場面はあります。とはいえ、これは債権の優先順位に関する規定であって、負担者そのものを決める条文ではありません。
明文がないため、誰が負担するかは解釈に委ねられ、裁判例が積み重なってきました。
裁判例の主な考え方は3つに分かれる
議論はおおむね次の3つに整理されます。
- 喪主(葬儀主宰者)負担説 — 葬儀を自己の責任と計算で手配し執り行った者が負担するという考え方。下級審裁判例で採られることが多い立場です。
- 相続人分担説 — 共同相続人が相続分に応じて分担するという考え方。
- 相続財産負担説 — 相続財産から支出されるべきものとする考え方。相続税の実務や、遺産分割の中で精算する運用と親和的です。
喪主負担説を採った例として、東京地方裁判所平成19年7月27日判決があります。同判決は、葬儀費用は葬儀を自己の責任と計算において手配し挙行した葬儀主宰者が負担すべきものであるとし、相続財産から差し引くことを認めませんでした。近年でも、東京地方裁判所令和3年9月28日判決が、葬儀費用等は当然に共同相続人が相続分に応じて負担すべき性質の費用とはいえないとしたうえで、葬儀を主宰したと認められる者が負担すべきものと判断しています。
名古屋高裁は費用を2種類に分けた
名古屋高等裁判所平成24年3月29日判決は、費用を性質ごとに分けて判断した点で注目されます。
同判決は、通夜や告別式といった追悼儀式に要する費用については、その儀式を主宰した者、すなわち自己の責任と計算において儀式を準備し手配して挙行した者が負担すべきものとしました。一方で、遺体の火葬・埋葬など、遺体を処理する行為に要する費用については、祭祀を主宰すべき者が負担すべきものとしています。
祭祀を主宰すべき者は、民法897条により、被相続人の指定があればその者、なければ慣習に従って定まり、慣習が明らかでないときは家庭裁判所が定めます。同判決も、祭祀承継者が定まらない限り埋葬等の費用の負担者は確定しないという立場をとりました。
なお、この判断は、被相続人が生前に自分の葬儀に関する契約を結んでおらず、関係者の間で費用負担の合意もなかった事案についてのものです。前提となる事情が違えば結論も変わり得ます。
葬儀社への支払義務は「契約した人」が負う
ここまでは相続人どうしの内部的な負担の話です。葬儀社との関係はまったく別で、代金を請求されるのは葬儀社と契約を結んだ人、つまり申込書・契約書に署名した契約当事者です。
家族の話し合いで「費用は長男が出す」と決めていても、契約者が次男であれば、葬儀社は次男に請求できます。逆に、契約者が支払ったうえで他の相続人に負担を求める場合は、改めて求償の問題になります。この整理は喪主に葬儀費用の支払い義務はあるかで詳しく扱っています。兄弟に負担を求めたい場合の進め方は葬儀費用を兄弟に請求できるかを参考にしてください。
香典と公的給付を先に差し引いて考える
負担者を議論する前に、実質的にいくら持ち出しになっているかを確定させておくと、話し合いが具体的になります。
香典は、弔問者から喪主(葬儀主宰者)に対する贈与と解され、被相続人の相続財産には含まれないのが一般的な理解です。もっとも実務上は葬儀費用に充てられるのが通常ですから、まず香典の総額を葬儀関連の支出から差し引いてください。考え方は香典は誰のものかにまとめています。
さらに、公的な給付を受けられる場合があります。国民健康保険や後期高齢者医療制度の加入者が亡くなったときは、葬祭を行った人に対して各自治体から葬祭費が支給されます。健康保険(協会けんぽなど)の被保険者が亡くなったときは、埋葬を行った家族に埋葬料が支給されます。いずれも申請が必要で、期限がある点に注意してください。
香典と公的給付を差し引いたうえで、なお残る持ち出し分について誰がどう負担するかを話し合うのが、現実的な順序です。
合意と税務上の扱い
裁判例が分かれる領域であるだけに、実務では関係者の合意が大きな意味を持ちます。相続人全員が「葬儀費用は遺産から支出し、残りを分ける」と合意すれば、その内容で処理して差し支えありません。遺産分割協議書にその旨を記載しておけば、後の争いを避けられます。実際の支出方法については葬儀費用を相続財産から支払えるかにまとめました。
税務上は別の扱いがあります。国税庁のタックスアンサーNo.4129によれば、火葬・埋葬・納骨の費用、遺体や遺骨の運搬費用、通夜など葬式の前後に生じた通常必要な費用、読経料などは相続財産から控除できます。他方、香典返しの費用、墓石や墓地の購入費・借入料、初七日などの法会に要する費用は控除の対象になりません。
相続人分担説・相続財産負担説を採る考え方
喪主負担説が下級審で多く採られている一方、他の考え方にも実務上の支持があります。それぞれの根拠を押さえておくと、話し合いの場で相手の主張の位置づけが分かります。
相続人分担説は、葬儀が被相続人のために行われるものであり、その利益は相続人全員に及ぶという理解に立ちます。誰が喪主を務めるかは事実上の役割分担にすぎず、費用まで一人に負わせるのは公平でない、という発想です。相続人の間で事前に合意がある場合には、この考え方に沿った処理が自然になります。
相続財産負担説は、葬儀費用を相続財産から支出すべきものと捉えます。相続税の実務がこれに親和的です。国税庁のタックスアンサーNo.4129は、葬式費用を相続財産の価額から差し引ける債務控除の対象としており、税務上は遺産から支出されるものとして扱われています。遺産分割の中で精算する運用も、この考え方に近い発想です。
裁判例が分かれているということは、どの立場も一定の合理性を持つということでもあります。実際の争いでは、被相続人の意思、家族の合意の有無、香典の扱い、遺産の規模といった事情を踏まえて判断されます。したがって、「判例はこうだ」と一方的に主張しても、話し合いは進みません。事実関係を整理したうえで、どの処理が納得を得やすいかを検討する方が現実的です。
遺産分割の場で葬儀費用を扱えるか
親族間で費用負担が問題になる場面では、遺産分割の手続でまとめて解決したいと考えることがあります。しかし、家庭裁判所の実務では、葬儀費用は当然に遺産分割の対象になるわけではありません。
遺産分割は、相続開始時に存在し、分割時にも存在する被相続人の財産を分ける手続です。葬儀費用は被相続人の死亡後に生じた債務であり、相続財産そのものではありません。したがって、相続人全員の合意がない限り、遺産分割審判の中で葬儀費用の負担を決めることは難しいとされています。
もっとも、相続人全員が「葬儀費用は遺産から支出し、残りを分ける」と合意すれば、その内容で処理して差し支えありません。実務では、この合意を遺産分割協議書に明記する方法が広く使われています。
合意が得られない場合、立て替えた相続人は、別途の請求として求償を検討することになります。この場合、遺産分割とは切り離した民事の請求になり、手続も別になります。協議書への記載方法は遺産分割協議書の書き方にまとめました。
立て替えた場合に何を根拠に請求するか
相続人の一人が葬儀費用を支払い、他の相続人に負担を求める場合、法律構成を選ぶ必要があります。
第一が、事前または事後の合意に基づく請求です。「費用は三人で分ける」という合意があったのであれば、その合意が請求の根拠になります。口頭の合意でも成立しますが、立証のためには記録が必要です。
第二が、事務管理に基づく費用償還請求です。民法697条は、義務なく他人のために事務の管理を始めた者は、その事務の性質に従い最も本人の利益に適合する方法によって管理をしなければならないと定め、702条1項は、管理者が本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対しその償還を請求することができると定めています。
第三が、不当利得返還請求です。民法703条に基づき、他人の財産または労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者に対して返還を求める構成です。
いずれの構成でも、支出の内容と金額を示す資料が不可欠です。請求書、領収書、振込記録を保管してください。進め方は葬儀費用を兄弟に請求できるかに、書面での請求方法は葬儀費用を内容証明で請求するにまとめています。
祭祀を主宰すべき者はどう決まるか
名古屋高裁平成24年3月29日判決が、遺体の火葬・埋葬に要する費用の負担者として挙げたのが「祭祀を主宰すべき者」です。これは民法897条が定める概念で、喪主とは別のものです。
同条1項は、系譜、祭具および墳墓の所有権は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継すると定め、ただし被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継するとしています。同条2項は、慣習が明らかでないときは、家庭裁判所が定めるとしています。
つまり、順序としては、被相続人の指定があればその者、なければ慣習、慣習が明らかでなければ家庭裁判所の審判ということになります。指定の方式に決まりはなく、遺言でも、生前の口頭でも足りると理解されています。
実際には、喪主を務めた人がそのまま祭祀承継者になることが多いものの、両者は概念として別です。墓地の使用権の名義や、位牌・仏壇の承継が問題になる場面では、この区別が意味を持ちます。名古屋高裁の判断は、祭祀承継者が定まらない限り埋葬等の費用の負担者も確定しないという立場をとりました。
香典の扱いを正確に押さえる
負担を議論する前提として、香典の性質を確認しておきます。
香典は、弔問者から喪主(葬儀主宰者)に対する贈与と解され、被相続人の相続財産には含まれないのが一般的な理解です。被相続人が生前に有していた財産ではないためです。
税務上も、社交上の必要によるもので、社会通念上相当と認められる香典については、贈与税を課さない取扱いがされています。受け取っても課税されないという整理です。
その反面、香典返しの費用は相続税の計算上、葬式費用として控除できません。国税庁のタックスアンサーNo.4129は、香典返戻費用を控除できないものとして明示しています。収入側が課税されない以上、対応する支出も控除しないという整理です。
実務上、香典は葬儀費用に充てられます。したがって、負担の話し合いをする際は、まず香典の総額を確定させ、支出から差し引いてください。この作業をしないまま総額で議論すると、実態と合わない前提で話が進みます。詳しくは香典は誰のものかと香典返しが相続税で控除できない理由を参照してください。
公的給付でいくら戻るか
香典と並んで差し引くべきなのが、公的給付です。金額は制度によって決まっています。
国民健康保険または後期高齢者医療制度の加入者が亡くなった場合、葬祭を行った人に葬祭費が支給されます。金額は自治体の条例で定まるため地域差があり、東京23区では国民健康保険・後期高齢者医療のいずれも7万円です。
健康保険(協会けんぽなど)の被保険者が亡くなった場合、被保険者によって生計を維持されていた方で埋葬を行う方に、埋葬料5万円が支給されます。該当者がいない場合は、実際に埋葬を行った方へ上限5万円の埋葬費が実費で支給されます。
業務上または通勤による死亡であれば、労災保険から葬祭料または葬祭給付が支給されます。労働者災害補償保険法17条に基づき、31万5000円に給付基礎日額の30日分を加えた額(それが給付基礎日額の60日分に満たないときは60日分)です。
いずれも申請しなければ支給されず、時効は葬祭費・埋葬料が2年、労災の葬祭料も2年です。制度の切り分けは葬祭費と埋葬料の違いに、労災の扱いは労災の葬祭料・葬祭給付にまとめました。
相続放棄を検討している場合
相続放棄を考えている相続人が費用を負担する場面では、注意が必要です。
民法921条1号は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなすと定めています。故人の預金から葬儀費用を支払う行為が、この「処分」にあたるかが問題になります。
しばしば引用されるのが、大阪高等裁判所平成14年7月3日決定(家庭裁判月報55巻1号82頁)です。相当な範囲の葬儀費用の支出について、相続財産の処分にあたらないとした裁判例です。もっとも、金額や使い道によっては判断が分かれるため、安全とは言い切れません。
一方、香典から支払う場合や、相続人自身の資金から支払う場合には、相続財産の処分にはあたりません。相続放棄を検討しているのであれば、この区別を意識して資金の出どころを分けてください。
相続放棄の熟慮期間は、民法915条1項により、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月です。判断がつかない場合は、期間内に家庭裁判所へ伸長を申し立てることができます。詳しくは相続放棄をしても葬儀費用は払えるかと相続放棄の期限は3か月を参照してください。
話し合いを進める順序
親族間で意見が分かれている場合、次の順序で整理すると議論が噛み合います。
第一に、事実の確定です。葬儀社と契約したのは誰か、実際に支払ったのは誰か、香典はいくら集まり、誰が管理しているか、公的給付は申請したか。この四点を数字で押さえます。
第二に、実質の持ち出し額の算出です。支出総額から香典と公的給付を差し引きます。この額が、話し合いの対象になります。
第三に、負担の考え方の確認です。相続人全員が「遺産から支出する」と合意できるのであれば、それが最も単純です。合意できない場合に、喪主負担説と相続人分担説のどちらに近い処理をするかを議論します。
第四に、合意内容の書面化です。口頭の合意は後から争いになります。遺産分割協議書に記載するか、別途の合意書を作成してください。
金額が大きい場合や、感情的な対立が背景にある場合は、早い段階で第三者を入れる方が結果的に早く収まります。弁護士に依頼できる範囲は葬儀のことを弁護士に相談するにまとめました。
契約と負担を分けて考える理由
最後に、繰り返しになりますが、葬儀社との契約関係と、相続人間の負担は別の問題です。
葬儀社に対して代金を支払う義務を負うのは契約者です。請求書が誰宛てに届いているかではなく、申込書・契約書に誰が署名したかで決まります。契約者が支払わなければ、葬儀社は契約者に対して請求し、必要であれば法的手続をとります。
これに対し、相続人間の負担は、契約とは無関係に、相続人どうしの内部関係として決まります。契約者が支払ったうえで他の相続人に負担を求めるのが、実務上の通常の流れです。
この二層構造を混同すると、争う相手を取り違えます。葬儀社に「他の相続人に請求してほしい」と求めても応じてもらえませんし、他の相続人に「葬儀社との契約が不当だ」と主張しても解決しません。
請求内容そのものに疑問がある場合は、葬儀社との間で、見積書と請求書を突き合わせて確認することになります。手順は葬儀の見積もりと請求が違うに、支払義務の整理は喪主に葬儀費用の支払い義務はあるかにまとめています。
被相続人が生前に契約していた場合
被相続人が生前に葬儀の契約を結んでいた場合、負担の議論は前提から変わります。
生前契約や互助会の加入があれば、契約上の地位は相続人に承継されるのが原則です。この場合、葬儀費用は被相続人が自ら負担する意思を示していたと評価でき、相続財産から支出することについて合意が得られやすくなります。
名古屋高等裁判所平成24年3月29日判決の判断は、被相続人が生前に自分の葬儀に関する契約を結んでおらず、関係者の間で費用負担の合意もなかった事案についてのものです。前提となる事情が違えば、結論も変わり得ます。
したがって、まず確認すべきは、生前契約や互助会の加入がなかったかという点です。通帳の引落し履歴、郵便物、会員証の有無から確認できます。加入があれば、その内容と、施行時に追加で必要になる金額を確認してください。互助会の扱いは互助会を解約すると返金はいくらかにまとめました。
まとめ
葬儀費用の負担者を直接定めた条文はなく、裁判例は喪主負担説を中心に分かれています。名古屋高裁平成24年3月29日判決のように、追悼儀式の費用と埋葬等の費用を分けて判断した例もあります。
まず確認したいのは、葬儀社と契約したのは誰か、費用負担について家族の合意があったか、香典をどう扱ったかの3点です。ここが整理できていれば、話し合いの土台ができます。金額が大きい場合や親族の意見が対立している場合は、資料をそろえて弁護士に事実関係を確認してもらうのが確実です。
