葬儀費用は誰が払う?|2つの話を分けて考えます

葬儀社に払う人と、家族の中で負担する人は別です。混ぜると話が進みません

葬儀費用は誰が払う?|2つの話を分けて考えます

「葬儀の費用は誰が出すのか」でもめている。よくある相談です。

このとき、実は2つの別々の話が混ざっています。分けないまま話し合っても、かみ合いません。

ひとつは葬儀社への支払い。もうひとつは家族の中での負担です。順に見ていきます。

葬儀社への支払いと、家族の中の負担は別の話
葬儀社への支払いと、家族の中の負担は別の話(作図: 弁護士による葬儀ガード)

話は2階建てになっています

まず、この図式を頭に入れてください。

層誰が相手か誰が払うか
1階:葬儀社への支払い葬儀社契約した人
2階:家族の中の負担他の相続人話し合いで決める

1階は契約の話です。申込書に署名した人が、葬儀社に対して支払義務を負います。

2階は相続や家族の話です。契約者が払った後、他の家族にどう分担してもらうかという問題になります。

この2つを混ぜると、話す相手を間違えます。葬儀社に「兄に請求してください」と言っても通りませんし、兄に「契約が高すぎる」と言っても解決しません。

1階:葬儀社に払うのは契約した人

葬儀は臨終直後に進みます。その場にいた家族が申込書に署名し、後から「喪主は別の人」となることがよくあります。

よくある食い違い実際は
喪主だから払うと思っていた喪主でも、契約者でなければ義務はない
長男が出すと家族で決めた契約者が次男なら、請求は次男に行く
請求書が自分宛てに来た宛名ではなく、署名欄で判断する

まず申込書の署名欄を確かめてください。そこに書かれた名前が、葬儀社に対して義務を負う人です。

2階:誰が負担するかに、決まりはありません

ここが多くの方の想像と違うところです。

根拠となる考え方 — 条文がありません

葬儀費用を誰が負担するかについて、民法に明文の定めはありません。

民法885条は、相続財産に関する費用は相続財産から支出すると定めています。しかし葬式費用は亡くなった後に生じるもので、実務上この「相続財産に関する費用」には含まれないと理解されています。

被相続人が生前に負っていた債務でもないため、当然に相続人が引き継ぐものでもありません。

関連するものとして、民法306条3号と309条があります。309条は、債務者のためにされた葬式費用のうち相当な額について先取特権が成立すると定めており、立て替えた人が一定の保護を受ける場面はあります。ただし、負担者そのものを決める条文ではありません。

明文がないため、解釈に委ねられています。そして裁判例も分かれています。

裁判例は3つの考え方に分かれます

議論はおおむね次のように整理されます。

考え方内容
喪主が負担する葬儀を自分の責任と計算で手配し行った人が負担する
相続人で分ける共同相続人が相続分に応じて分担する
遺産から出す相続財産から支出されるべきものとする

下級審の裁判例では、1つ目を採るものが多く見られます。

主な裁判例

東京地方裁判所平成19年7月27日判決は、葬儀費用は葬儀を自己の責任と計算において手配し挙行した葬儀主宰者が負担すべきものとし、相続財産から差し引くことを認めませんでした。

東京地方裁判所令和3年9月28日判決も、葬儀費用等は当然に共同相続人が相続分に応じて負担すべき性質の費用とはいえないとしたうえで、葬儀を主宰したと認められる者が負担すべきものと判断しています。

名古屋高等裁判所平成24年3月29日判決は、費用を性質ごとに分けました。通夜や告別式といった追悼儀式に要する費用は、その儀式を主宰した者が負担すべきものとしています。一方、遺体の火葬・埋葬など遺体を処理する行為に要する費用は、祭祀を主宰すべき者が負担すべきものとしました。

祭祀を主宰すべき者は、民法897条により、被相続人の指定があればその者、なければ慣習に従って定まり、慣習が明らかでないときは家庭裁判所が定めます。

なお名古屋高裁の事案は、被相続人が生前に葬儀の契約を結んでおらず、関係者の間で費用負担の合意もなかったものです。前提が違えば結論も変わり得ます。

つまり、「判例ではこうなっている」と一方的に主張しても、話し合いは進みません。事実を整理したうえで、納得を得やすい処理を探すほうが現実的です。

図で整理: 香典と公的給付を引いてから話し合う
図で整理: 香典と公的給付を引いてから話し合う(作図: 弁護士による葬儀ガード)

話し合う前に、実質の金額を出す

もめている場面でよくあるのが、総額のまま議論していることです。実際の持ち出しはもっと少ないはずです。

まず香典を引きます。香典は弔問者から喪主に渡された贈与と考えられ、故人の遺産には入りません。実務上は葬儀費用に充てられます。

次に公的給付を引きます。申請すればもらえるお金です。

加入していた保険もらえるもの金額
国民健康保険・後期高齢者医療葬祭費自治体による。東京23区は7万円
健康保険(協会けんぽ等)埋葬料5万円
仕事中・通勤中の死亡労災の葬祭料31万5000円+給付基礎日額30日分

いずれも申請しないともらえません。期限は2年です。

この2つを引いた金額が、話し合いの対象になります。ここまで絞れば、議論はずっと具体的になります。

争いが長引きやすい3つの場面

相談を受けていて、こじれやすい場面には共通点があります。あらかじめ知っておくと避けられます。

ひとつ目は、香典の扱いが不透明な場合です。誰がいくら受け取ったのかが分からないまま総額を議論すると、疑いが生まれます。受付の記録を残し、総額を共有してください。

ふたつ目は、契約内容を1人だけが把握している場合です。見積書と請求書を家族で共有していないと、「高すぎる」「そんなことはない」の応酬になります。書面を回覧するだけで収まることがあります。

みっつ目は、生前の関わりの差が背景にある場合です。介護をしていた、していなかったという感情が、費用の話に乗ってきます。この場合、費用だけを切り離して決めるのは難しくなります。

いずれも、金額そのものより情報の共有不足が原因です。まず事実を並べることから始めてください。

相続放棄を考えている人がいる場合

家族の中に相続放棄を検討している人がいるなら、支払い方に注意が必要です。

故人の預金から葬儀費用を出すと、遺産に手をつけたと評価され、放棄ができなくなるおそれがあります。

資金の出どころ相続放棄への影響
香典から遺産ではないため、影響しにくい
相続人自身のお金から影響しません
故人の預金から判断が分かれます
根拠となる考え方 — 相当な範囲なら処分にあたらないとした例

相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号)。

もっとも、大阪高等裁判所平成14年7月3日決定(家庭裁判月報55巻1号82頁)は、相当な範囲の葬儀費用の支出について、相続財産の処分にあたらないとしました。

ただし金額や使い道によっては判断が分かれます。放棄を検討しているなら、資金の出どころを分けておくのが安全です。

相続放棄の期限は、自分が相続人になったことを知った時から3か月です(民法915条1項)。

立て替えた分を求めるには

契約者として払った後、他の家族に負担を求める場合の進め方です。

法律上の根拠としては、合意に基づく請求、事務管理に基づく費用償還請求(民法702条1項)、不当利得返還請求(民法703条)といった構成があります。

いずれにしても、請求書・領収書・振込記録が要ります。捨てずに保管してください。

なお、葬儀費用は当然には遺産分割の対象になりません。相続人全員が「遺産から出して残りを分ける」と合意すれば、その内容で処理できます。合意した内容は、遺産分割協議書に書いておくと後の争いを防げます。

葬儀費用の負担 — 話し合う前に確認しておきたい項目
葬儀費用の負担 — 話し合う前に確認しておきたい項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

生前に契約していた場合は前提が変わります

故人が生前に葬儀の契約を結んでいた、または互助会に入っていた。この場合、議論の出発点が変わります。

契約上の立場は相続人が引き継ぎます。故人が自分の葬儀費用を自ら用意する意思を示していたと評価でき、遺産から出すことについて合意が得られやすくなります。

名古屋高裁の判断も、生前の契約がなく、費用負担の合意もなかった事案についてのものです。前提が違えば結論も変わります。

まず確かめてください。通帳の引落し履歴、届いている郵便物、会員証の有無から分かります。

加入があれば、その内容と、施行時に追加で必要になる金額も確認しておくと、話し合いが具体的になります。

税務では「遺産から引く」扱いです

相続税の計算では、葬式費用を遺産の総額から差し引けます。裁判例の議論とは別の枠組みです。

差し引けるもの差し引けないもの
火葬・埋葬・納骨の費用香典返しの費用
遺体や遺骨の運搬費用墓石・墓地の購入費、借入料
通夜など葬式前後の通常の費用初七日などの法要の費用
読経料などのお布施医学上・裁判上の特別の処置の費用

差し引けるのは、実際に負担した人の取得財産からです。したがって、誰が負担したかで各人の税額が変わります。

領収書の宛名と、実際に払った人を一致させておいてください。お布施のように領収書が出ないものは、日付・金額・相手先をメモに残します。