喪主だから葬儀費用を払う義務がある?

喪主かどうかではありません。申込書に署名した人が、葬儀社への支払義務を負います

喪主だから葬儀費用を払う義務がある?

「喪主なんだから、あなたが払ってください」。そう言われて困っている方がいます。

結論から言うと、喪主であること自体では支払義務は生じません。葬儀社にお金を払う義務を負うのは、契約した人です。

ただし、喪主が契約者になっていることが多いのも事実です。まず書面を確かめてください。

喪主かどうかではなく、署名したかどうかで決まる
喪主かどうかではなく、署名したかどうかで決まる(作図: 弁護士による葬儀ガード)

まず、申込書の署名欄を見てください

判断は記憶ではなく書面で行います。臨終直後は、誰がどの書類に署名したのかが曖昧になりやすいためです。

署名欄に書かれた名前が、葬儀社に対して義務を負う人です。押印だけで署名がない場合や、誰かが代筆している場合は、誰の意思で契約したのかが問題になり得ます。

請求書の宛名は、判断の基準になりません。宛名が自分でも、契約者が別の人なら、義務を負うのはその人です。

書面がない場合はどうなるか

契約書を交わす前に搬送が始まっている。葬儀ではよくあることです。

根拠となる考え方 — 書面がなくても契約は成立します

契約は、内容を示した申込みに対して相手が承諾したときに成立します(民法522条1項)。書面の作成は必要ではありません(同条2項)。

したがって、口頭で依頼していれば契約は成立しています。問題は「誰が」「どこまで」依頼したかです。

そして、契約が成立したことと、その内容を主張する側、つまり請求する葬儀社の側が、その経緯を説明する立場に立ちます。

「搬送だけを頼んだつもりが、葬儀一式の契約になっていた」という食い違いは、この段階で生じます。

書面がない場合は、当日の経緯を時系列で整理してください。誰が病院で対応し、誰が搬送を頼み、誰が打ち合わせに立ち会ったのか。着信履歴やメールと突き合わせると、はっきりします。

契約者以外でも義務を負う3つの場合

原則は契約者ですが、例外があります。

場合内容
連帯保証人になっている契約書の保証人欄に署名した。自分自身の債務
債務を引き受けた「代わりに私が払います」と伝え、葬儀社が承諾した
故人が生前に契約していた故人の債務を相続人が引き継ぐ(放棄すれば負わない)

2つ目に注意してください。口頭でも成立し得ます。葬儀社との会話で、軽い気持ちで言った一言が義務につながることがあります。

3つ目は、生前契約や互助会の未払分が該当します。相続放棄をすれば引き継ぎません。

図で整理: 契約者以外でも義務を負う3つの場合
図で整理: 契約者以外でも義務を負う3つの場合(作図: 弁護士による葬儀ガード)

支払期日と、遅れた場合

義務があるとして、いつまでに払うのかも確認しておきます。

葬儀費用の支払期日は、葬儀の後1週間から10日ほどに設定されることが多くあります。請求書か約款に書かれています。

期日を過ぎると遅延損害金が発生します。契約で利率を定めていればその利率、なければ法律で定められた利率によります。

手元の資金が足りないときは、香典・葬祭費・埋葬料・故人の口座からの仮払いで不足を減らせないか先に確かめてください。凍結された口座からも、金融機関ごとに150万円までは払い戻せます。

払わずにいると、どうなるか

放置した場合の流れも知っておくと、判断がしやすくなります。

段階内容
1葬儀社から督促の連絡
2書面による催告、内容証明郵便
3支払督促・少額訴訟・通常訴訟
4判決が確定すれば強制執行
根拠となる条文 — 時効は原則5年

債権は、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年で時効により消滅します(民法166条1項)。

2020年4月1日施行の改正前にあった、葬式費用の2年の短期消滅時効(改正前170条2号)は廃止されています。

なお、期間が過ぎただけでは権利は消えません。当事者が援用しなければ、裁判所はそれによって裁判をすることができません(民法145条)。

また、一部を支払ったり支払猶予を申し入れたりすると、債務を認めたと評価され、時効が更新される可能性があります(民法152条)。

家族の中の負担は、別の話です

ここを混ぜると、話す相手を間違えます。

層相手誰が負担するか
葬儀社への支払い葬儀社契約した人
家族の中の負担他の相続人話し合いで決める

家族で「費用は長男が出す」と決めていても、契約者が次男なら、葬儀社は次男に請求できます。次男が払ったうえで、長男に求めることになります。

根拠となる考え方 — 誰が負担するかに条文はありません

葬儀費用を誰が負担するかについて、民法に明文の定めはありません。裁判例も分かれています。

東京地方裁判所平成19年7月27日判決は、葬儀を自己の責任と計算において手配し挙行した葬儀主宰者が負担すべきものとしました。

名古屋高等裁判所平成24年3月29日判決は、費用を分けています。通夜や告別式の費用は儀式を主宰した者が、遺体の火葬・埋葬の費用は祭祀を主宰すべき者が負担すべきものとしました。

祭祀を主宰すべき者は、被相続人の指定があればその者、なければ慣習に従って定まります(民法897条)。

請求内容そのものに疑問があるとき

支払義務があるとしても、請求額が正しいとは限りません。義務の有無と、金額の当否は別の問題です。

まず、数量と単価が入った明細をもらってください。「葬儀一式」としか書かれていなければ、何にいくらかかったのか確かめられません。

明細が出たら、当初の見積書と項目ごとに並べます。増えた項目は3つに分かれます。

種類例払う義務は
人数・日数で増えた料理、安置料、搬送費あります(計算は確かめられる)
その場で頼んだ花の追加、遺影の変更あります
頼んだ覚えがない説明なく加わった項目争える部分です

3つ目について聞くときは、責める形にしなくて大丈夫です。

「この項目について、いつ、どなたにご説明いただいて、どのように了解したことになっているか教えていただけますか」

事実を尋ねているだけなので、対立になりません。

立て替えた分を求める方法

契約者として払った後、他の家族に負担を求める場合です。

法律上の根拠としては、合意に基づく請求、事務管理に基づく費用償還請求、不当利得返還請求といった構成があります。いずれも、請求書・領収書・振込記録が必要です。

協議が整わない場合は、書面での請求、内容証明郵便、少額訴訟または通常訴訟という段階になります。

相続放棄をしても義務は残るか

ここは取り違えやすいところです。契約の当事者が誰かで結論が変わります。

誰の契約か相続放棄をすると
自分が契約した義務は残ります(自分自身の債務)
故人が生前に契約した引き継ぎません

相続放棄をすると、その相続に関して初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。しかし、自分が結んだ契約の効力には影響しません。

したがって、相続放棄を検討しているなら、葬儀の契約を自分の名義で結ぶかどうかは重要な判断になります。

喪主と支払義務 — 請求されたときに確認する項目
喪主と支払義務 — 請求されたときに確認する項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

相談できる窓口

支払義務があるのか分からない、請求内容に納得がいかない。そうしたときの相談先です。

相談先内容費用
消費生活センター電話188。相談員が間に入る無料
弁護士義務の有無と争える範囲を確かめる事務所による

こうした相談は特別なことではありません。国民生活センターが2026年6月3日に公表した資料によると、葬儀サービスに関する相談は2025年度に917件ありました。うち52.6%が料金に関するものです。

相談するときは、契約書・見積書・請求書・約款を持っていってください。誰が署名したのかが分かる書面が、いちばん重要です。

弁護士に相談するというと大ごとに感じるかもしれませんが、多くは「自分に義務があるのか」を確かめる段階で終わります。裁判にするかどうかは、その後に決められます。

喪主を引き受ける前に決めておくこと

これから葬儀を行う方は、次の4つを家族で決めておくと、後の争いを避けられます。

参考までに、調査による平均額は次のとおりです。

形式平均
一般葬122.01万円
家族葬96.39万円
一日葬74.43万円
直葬・火葬式49.56万円

全体の平均は96.73万円です。この金額にお布施は含まれていません。別に用意するものと考えてください。

契約の前に家族で共有しておく4点

これから葬儀を手配する方は、契約の前に次の点を家族で共有しておくと、後の争いを避けられます。

まず、誰が契約者になるかです。資金を出す人が契約者になるほうが、精算は単純になります。

次に、費用の見通しです。見積書の総額に、火葬料・式場代・お布施を足した金額を把握してください。プランに含まれない費目は、必ず一覧で出してもらいます。

そして、支払いの時期です。葬儀費用の期日は葬儀の後1週間から10日ほどが多く、葬祭費や埋葬料の入金はその後になります。立て替える現金が必要になります。

最後に、香典の管理者です。誰が受け取り、総額をどう記録するかを決めておいてください。

葬儀社から強く求められたとき

「喪主なのだから払ってください」と繰り返し言われることがあります。対応の考え方を整理しておきます。

まず、感情的に応じる必要はありません。確かめるのは事実だけです。

「契約者はどなたになっていますか。申込書の写しをいただけますか」

契約者が自分でなければ、その旨を伝えれば足ります。契約者が自分であれば、次は金額の当否に話が移ります。

支払いを督促されている場合でも、争いのない分を先に払うことで、立場は保てます。全額を止めると遅延損害金がつき、相手が法的手続に進む動機にもなります。

やり取りは電話ではなく、メールなど記録の残る方法に切り替えてください。何を言われ、何と答えたのかが残ります。