「約款に書いてあります」は本当に有効か

書いてあれば必ず有効、ではありません。無効になる条項の型は決まっています

「約款に書いてあります」は本当に有効か

「約款に書いてありますので」。そう言われて引き下がった経験はありませんか。

書いてあれば必ず有効、というわけではありません。法律が無効と定めている条項の型があります。

葬儀の約款で問題になるのは、主に3つです。順に見ていきます。

無効になる条項の型は3つ
無効になる条項の型は3つ(作図: 弁護士による葬儀ガード)

型① 責任を全部免除する条項

事業者が自分の責任をすべて免れる条項は、無効です。

根拠となる条文 — 消費者契約法8条

事業者の損害賠償責任を全部免除する条項、または責任の有無や限度を事業者が決められるとする条項は、無効です(消費者契約法8条)。

故意または重大な過失による場合は、一部を免除する条項も無効になります。

2022年の改正で加わった同条3項により、軽い過失の場合にだけ適用されることが明らかでない一部免責条項も無効とされました。「当社に過失がある場合でも賠償は◯万円を上限とする」とだけ書き、重過失を除外していない条項は、これにかかる可能性があります。

さらに同法8条の2は、消費者の解除権を放棄させる条項や、事業者が解除の可否を決められるとする条項を無効としています。

葬儀の場面では、次のような書き方が該当し得ます。

  • 「当社は理由のいかんを問わず一切責任を負いません」
  • 「損害の有無は当社が判断します」
  • 「契約後はいかなる理由でも解約できません」

遺体の搬送中の事故、預かった遺品の紛失、式の進行の不備。実際に損害が生じたときに問題になります。

型② 解約金が高すぎる条項

いちばん問題になりやすい型です。

根拠となる条文 — 消費者契約法9条1項1号

解約に伴う損害賠償額や違約金を定めた条項は、その事業者に実際に生じる「平均的な損害」を超える部分が無効になります。

この意味について、最高裁判所平成18年11月27日判決(民集60巻9号3437頁)が判断を示しました。大学に入学を辞退した学生が学納金の返還を求めた事件です。

同判決は、平均的な損害とは、同じ事業者が結ぶ多数の同種契約を類型的に見たときの損害の平均額であり、解除の事由や時期などで同じ区分に分類される契約について算定されるものだとしました。

そのうえで、解除の時期が入学年度の始期より前か後かで結論を分けています。時期が違えば損害も違う、という前提です。

2022年の改正で、消費者から求められたら算定根拠の概要を説明するよう努める義務も加わりました(同条2項)。

葬儀にあてはめると、契約の翌日と施行の前日を同じ料率で扱う条項には、説明が必要になります。

実際に生じる費用は限られています。

費目いつ発生するか
生花・料理・返礼品のキャンセル料発注の締切を過ぎてから
搬送・安置・ドライアイスの実費すでに行われた分
契約手続の事務費用契約時(額は限られます)

契約直後で、搬送も発注もまだなら、生じているのは3つ目だけです。

型③ 一方的に不利な条項

8条にも9条にも当てはまらない条項の、受け皿になる規定があります。

根拠となる条文 — 消費者契約法10条

法令中の任意規定が適用される場合と比べて消費者の権利を制限し、または義務を重くする条項であって、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効です(消費者契約法10条)。

該当するかは、条項の内容と契約全体のバランス、説明の状況を総合して判断されます。一律の答えはありません。

なお、民法にも同じ趣旨の規定があります。定型約款のうち、相手の権利を制限したり義務を重くしたりする条項で、取引の実情などに照らして信義則に反し一方的に相手の利益を害するものは、合意しなかったものとみなされます(民法548条の2第2項)。

葬儀の約款で問題になりやすいのは、次のような書き方です。

  • 「当社が必要と認めた費用は別途請求できる」(単価も算定方法も示さない)
  • 施行後の異議申立てを、極端に短い期間に制限する
  • 遅延損害金を、法定利率を大きく超える水準に設定する
  • 契約者に無断で内容を変更できるとする
図で整理: 無効になっても、契約そのものは残ります
図で整理: 無効になっても、契約そのものは残ります(作図: 弁護士による葬儀ガード)

無効になった後の計算

条項が無効と判断されても、契約全体が無効になるわけではありません。ここは誤解されやすいところです。

無効になった条項その後どうなるか
解約金の条項平均的な損害に相当する額は支払う
責任免除の条項民法の原則に戻って賠償の可否を判断
追加費用の包括条項追加分に合意があったかを個別に判断

つまり、無効の主張は「払わなくてよくなる」ことに直結しません。「何を基準に計算し直すか」を変えるものです。

だから交渉では、「この条項は無効です」と言うより、「実費相当額は理解します。それを超える分の根拠を教えてください」と伝えるほうが、話が進みます。

約款は求めれば見せてもらえます

そもそも約款が手元にない、ということがよくあります。申込書の裏や別紙にあることが多いのですが、渡されていない場合もあります。

根拠となる条文 — 内容を示す義務

定型約款を準備した側は、定型取引の合意の前、または合意の後の相当な期間内に相手から請求があった場合、遅滞なくその内容を示さなければなりません(民法548条の3第1項)。すでに書面を交付していた場合などは除きます。

また、契約期間が長い取引では、途中で約款が変わっていることがあります。変更には要件があり、相手の一般の利益に適合する場合か、変更の必要性や内容の相当性などに照らして合理的な場合に限られます(民法548条の4)。

互助会のように長期にわたる契約では、解約時にどの時点の約款が適用されるかを確かめてください。

「約款の写しをいただけますか」と伝えるだけで足ります。渋られた場合、その反応自体が判断材料になります。

読むのは2か所だけ

約款は長いものですが、確かめるのは限られています。

解約条項では、契約からいつまでならいくらか、時期で分かれているかを見ます。一律の料率なら、その点自体が検討の対象になります。

追加費用の条項では、「当社が必要と認めた」といった包括的な書き方になっていないかを見ます。

約款の確認 — 契約前に見ておく項目
約款の確認 — 契約前に見ておく項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

進め方

条項の効力を争うときの順序です。

2つ目を整理すると、主張が明確になります。「責任の免除なら8条」「解約金なら9条1項1号」「それ以外の一方的な条項なら10条」という順に当てはめてください。

話が進まない場合は、消費者ホットライン188から最寄りの消費生活センターに相談できます。相談は無料です。

取消しとは別の制度です

混同されやすいので整理しておきます。消費者契約法には、性質の違う2つの仕組みがあります。

何を問題にするか使う規定
契約の成立過程(説明のしかた)取消権(4条)
契約の内容(条項そのもの)不当条項の規制(8条〜10条)

「追加料金はかかりませんと言われた」のであれば取消権、「約款の条項が一方的だ」のであれば不当条項の規制です。両方に当てはまることもあります。

取消権には期限があります。誤解していたと気づいた時から1年、契約した時から5年です(同法7条1項)。

一方、条項が無効であることには期限がありません。ただし、払いすぎた分の返還を求める権利には時効があります。原則5年です。

互助会の約款で問題になること

長期にわたる契約では、解約時の条項がとくに争点になります。

互助会の契約は、掛金を長期間積み立てる仕組みです。解約すると手数料が引かれ、残りが戻ります。加入から日が浅いと、ほとんど戻らないこともあります。

ここでも、消費者契約法9条1項1号の考え方が使えます。事業者に実際に生じる損害を超える部分は無効です。

葬儀社のキャンセル料と違うのは、施行に向けた手配がまだ何も始まっていない点です。生花の発注も車両の確保もありません。事業者が挙げるのは、募集にかかった費用や、掛金の管理費用が中心になります。

募集費用は加入時に一度きり生じるもので、積立期間の長さとは関係しません。この点を尋ねると、金額の根拠がはっきりします。

過去には、互助会の解約手数料条項について消費者団体訴訟が起こされ、一部が差止めの対象になった例もあります。

契約前に見ておけば防げます

条項の効力を争うのは、時間も手間もかかります。契約前に確かめておけば、その多くは避けられます。

見るのは2か所だけです。解約に関する条項と、追加費用に関する条項。どちらも数分で確認できます。

見る条項気をつける書き方
解約時期の区分がなく、一律の料率になっている
解約実費が別建てになっておらず、内訳が分からない
追加費用「当社が必要と認めた費用」とだけ書いてある
追加費用変動する費目の単価が示されていない

問題があれば、契約前に確認しておくよう求められます。

「解約する場合、時期によって金額はどう変わりますか。実費は別途かかりますか」

一言聞くだけで、後の争いはかなり減ります。回答はメモに残し、できればメールで確認しておいてください。

消費者団体による差止めという仕組み

個人が争う以外に、団体が動く仕組みもあります。

適格消費者団体は、事業者が不当な条項を含む契約を締結しようとしている場合に、その差止めを求めることができます。過去には、葬儀や互助会の分野でも提訴された例があります。

自分の契約が直接解決するわけではありませんが、同種の条項が問題視されてきた分野かどうかを知る手がかりになります。

消費生活センターに相談すると、こうした過去の経緯を踏まえた助言を受けられることがあります。まずは無料の窓口から始めてください。

記録を残しておく

条項を争う場合も、やり取りは記録の残る方法にしてください。

約款の写しを求めた日、回答があった日、内訳の開示を求めた日。これらが残っていれば、後の手続きでそのまま使えます。

相談できる窓口

条項の効力は、文言だけでなく契約全体の事情から判断されます。判断に迷う場合は、約款と契約書を持って相談してください。

消費者ホットライン188から最寄りの消費生活センターにつながります。相談は無料です。金額が大きい場合や、事業者が譲らない場合は、弁護士に確かめると争える幅がはっきりします。