香典は誰のもの?|遺産には入りません
喪主に渡された贈り物と考えられています。だから相続の対象にはなりません
香典は誰のものか。相続でもめたときに、よく問題になります。
結論としては、香典は喪主(葬儀を主宰した人)に渡された贈り物と考えられています。故人の遺産には入りません。
だから、遺産分割の対象にもならないのが原則です。ただし、実務では葬儀費用に充てるのが通常です。
なぜ遺産に入らないのか
理由は単純です。故人が生前に持っていた財産ではないからです。
香典は、亡くなった後に、弔問者が葬儀を行う人に対して渡すものです。葬儀の負担を分かち合う趣旨とされています。
| 性質 | 内容 |
|---|---|
| 渡す人 | 弔問者 |
| 受け取る人 | 喪主(葬儀を主宰した人) |
| いつ | 亡くなった後 |
| 何のため | 葬儀の負担を分かち合う |
故人の財産ではないため、相続の対象になりません。遺産分割協議で分ける必要もありません。
実務では葬儀費用に充てます
法律上は喪主のものでも、実際には葬儀費用に使うのが普通です。誰も「喪主の収入」とは考えていません。
だから、費用を話し合うときは、まず香典を引いてください。
この作業をしないまま総額で議論すると、実態と合わない前提で話が進みます。もめている場面では、たいていここが飛ばされています。
余ったらどうするか
香典が葬儀費用を上回ることがあります。参列者が多い一般葬では起こり得ます。
法律上は喪主のものですから、そのまま喪主が保管しても問題はありません。
ただ、実際には次のような使い方をすることが多くあります。
| 使い道 | 内容 |
|---|---|
| 香典返しの費用 | 忌明け後に贈る返礼 |
| 法要の費用 | 四十九日など |
| 墓石・納骨の費用 | 別途かかるもの |
| 家族で分ける | 話し合いで決める |
いずれにしても、総額と使い道を記録しておくことが大切です。記録がないと、後から「使い込んだのでは」という疑いが生まれます。
税金はどうなるか
香典を受け取っても、通常は税金がかかりません。
根拠となる考え方 — 香典は非課税の扱いです
社交上の必要によるもので、社会通念上相当と認められる香典については、贈与税を課さない取扱いがされています。
一方、香典返しの費用は、相続税の計算で葬式費用として差し引けません。国税庁のタックスアンサーNo.4129が、香典返戻費用を控除できないものとして挙げています。
理由は、受け取った香典自体が課税されないことにあります。課税されない収入に対応する支出も、控除の対象から外れるという整理です。
これに対し、会葬御礼(参列者に一律に渡すもの)は、葬式に伴う費用として扱われるのが一般的です。
当日返し(即日返し)で会葬御礼と香典返しを兼ねる場合、区別が問題になります。請求書や納品書で品目が分かれているか確認してください。
分かれていなければ、葬儀社に内訳の記載を依頼するとよいでしょう。
相続放棄を考えている場合
香典は遺産ではありません。したがって、受け取っても相続放棄に影響しないと考えられます。
| 行為 | 相続放棄への影響 |
|---|---|
| 香典を受け取る | 影響しにくい(遺産ではないため) |
| 香典から葬儀費用を払う | 影響しにくい |
| 故人の預金から葬儀費用を払う | 判断が分かれます |
根拠となる考え方 — 遺産に手をつけると放棄できなくなる
相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号)。
香典は故人の財産ではないため、この規定の対象外と考えられます。
一方、故人の預金を引き出して使う行為は、この「処分」にあたるかが問題になります。大阪高等裁判所平成14年7月3日決定は、相当な範囲の葬儀費用の支出について処分にあたらないとしましたが、金額や使い道によっては判断が分かれます。
相続放棄の期限は、自分が相続人になったことを知った時から3か月です(民法915条1項)。
放棄を検討しているなら、香典と故人の預金を混ぜないことが大切です。香典は自分の口座か現金で管理し、故人の口座には手をつけないでおきます。
もめやすい場面
香典をめぐる相談には、いくつか型があります。
| 場面 | 起きること |
|---|---|
| 喪主が総額を明かさない | 「使い込んだのでは」という疑い |
| 会社関係の香典が多い | 「会社の分は自分のもの」という主張 |
| 喪主と実際の支払者が違う | 誰が受け取るべきかで対立 |
| 香典が費用を大きく上回った | 余りの分け方でもめる |
いずれも、先に総額を共有していれば防げるものです。受付の記録を作り、コピーを渡しておいてください。
なお、法人から出る弔慰金は、香典とは別のものとして扱われることがあります。故人の勤務先から支給される死亡退職金や弔慰金は、税務上の扱いも異なります。
供花・供物・弔電の扱い
香典と一緒に問題になるのが、供花や供物です。
これらも、贈った人から葬儀を行う人への贈り物です。故人の遺産には入りません。
葬儀社に供花代を支払ってもらう形をとる場合、その代金の扱いを確認してください。参列者が負担するのか、喪主がいったん立て替えるのかで、精算の仕方が変わります。
葬儀社の請求書に供花代が含まれていて、後から参列者に請求するという流れなら、誰からいくら受け取ったかの記録が必要になります。
祭祀を承継する人との関係
香典を受け取る立場と、位牌や墓を承継する立場は、別のものです。
根拠となる条文 — 祭祀の承継
系譜、祭具および墳墓の所有権は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継します。ただし被相続人の指定があれば、その者が承継します(民法897条1項)。
慣習が明らかでないときは、家庭裁判所が定めます(同条2項)。
祭祀を主宰すべき者は、喪主と一致することが多いものの、概念としては別です。墓地の使用権や仏壇の承継が問題になる場面では、この区別が意味を持ちます。
香典を受け取ったから墓を守る義務が生じる、というものではありません。分けて考えてください。
香典で葬儀費用は足りるのか
「香典があるから大丈夫」と考える方がいますが、形式によって事情が変わります。
参列者が増えれば香典も増えます。ただし、料理・返礼品・香典返しの費用も同時に増えます。差が自動で埋まるわけではありません。
調査による形式別の平均額を見てください。
| 形式 | 平均 |
|---|---|
| 一般葬 | 122.01万円 |
| 家族葬 | 96.39万円 |
| 一日葬 | 74.43万円 |
| 直葬・火葬式 | 49.56万円 |
家族葬では参列者が少ないため、香典もほとんど入りません。費用の大半がそのまま持ち出しになります。
内訳の平均は、基本料金72.02万円、飲食費11.67万円、返礼品費13.03万円です。人数で動くのは後ろの2つ、約25万円分にとどまります。
つまり、参列者を増やしても、香典で埋まるのはその一部です。資金計画は香典を当てにせず、公的給付を含めて立ててください。
記録の残し方
香典をめぐる争いは、記録があれば大半が防げます。次のものを残してください。
紙の記録で構いません。作った時点でコピーを取り、家族に渡しておくと、後から疑いが生まれません。
相続税の申告をする場合、葬式費用の内訳も必要になります。香典返しは差し引けないため、区別できる形で残しておくと申告が楽になります。
相談できる窓口
香典の扱いで家族の意見が割れた場合、当事者だけで解決しようとすると感情がぶつかります。
第三者を入れると、事実の確認から始められます。
| 相談先 | 内容 | 費用 |
|---|---|---|
| 弁護士 | 遺産に入るかの整理、話し合いの進め方 | 事務所による |
| 税理士 | 相続税での扱い、控除できる費用の区分 | 事務所による |
相談するときは、受付の記録、葬儀の請求書と領収書、香典返しの明細を持っていってください。
数字がそろっていれば、確認は短時間で終わります。感情の対立が背景にある場合でも、事実の共有が出発点になります。
喪主が受け取るという整理の意味
なぜ「喪主のもの」とされるのか、その理由も知っておくと説明がしやすくなります。
香典は、葬儀を主宰する人の負担を、周囲が分かち合うために渡されます。渡す側も、故人にではなく、葬儀を出す人に向けて渡しています。
だから、故人の財産にはなりません。相続人が均等に分けるべきものでもありません。
もっとも、これは法律上の整理です。実際には、喪主が自分のために使うことはほとんどありません。葬儀費用に充て、余れば法要や納骨の費用に回すのが通常です。
家族の中で説明するときは、「法律上は喪主のものだが、実際には葬儀費用に使う。だから総額を共有する」という順で伝えると、納得を得やすくなります。
葬儀費用との精算で気をつけること
香典を費用に充てる場合、精算の記録が後から効いてきます。
支出のうち、どこまでを香典でまかない、どこからを持ち出しにしたのか。これを分けておかないと、相続人間の話し合いで説明できません。
具体的には、支出の一覧に「香典から支払った分」と「立て替えた分」の区別を書き添えてください。立て替えた分だけが、他の相続人に求める対象になります。
相続税の申告では、葬式費用を遺産から差し引けます。香典を受け取ったこと自体は申告に影響しませんが、香典返しの費用は差し引けません。区別できる形で領収書を保管してください。
香典を辞退する場合
家族葬では香典を辞退することが増えています。辞退するかどうかで、資金計画が変わります。
辞退すれば香典は入りませんが、香典返しの費用も発生しません。差し引きでどうなるかは、参列予定者の人数によります。
辞退の意向を伝えていても、当日持参される方はいます。受け取った場合にどうするかを、あらかじめ決めておいてください。受け取って後日返礼するのか、その場で辞退するのかです。
いずれにしても、受け取ったものは記録に残します。金額の多寡にかかわらず、後の説明ができるようにしておくことが大切です。
