相続税から控除できる葬式費用|対象になるもの・ならないもの

国税庁No.4129が線を引く。香典返しと法会の費用は対象にならない

相続税を計算するとき、一定の相続人や包括受遺者が負担した葬式費用は、遺産総額から差し引くことができます。根拠は相続税法13条です。ただし対象になる範囲は決まっており、香典返しの費用や墓石・墓地の購入費、初七日などの法要の費用は含まれません。実務上つまずきやすいのは、葬儀社の請求書に控除できる費用とできない費用が1枚にまとめられている点です。領収書の取り方を最初に決めておくと、後の申告が楽になります。

控除できる葬式費用

国税庁のタックスアンサーNo.4129「相続財産から控除できる葬式費用」は、相続財産から差し引ける葬式費用として次のものを挙げています。根拠条文として相続税法13条、21条の15、21条の16、相続税法基本通達13-4、13-5が示されています。

  • 葬式や葬送に際し、またはこれらの前において、火葬や埋葬、納骨をするためにかかった費用
  • 遺体や遺骨の回送にかかった費用
  • 葬式の前後に生じた費用で通常葬式にかかせない費用(お通夜などの費用)
  • 葬式に当たりお寺などに対して読経料などのお礼をした費用
  • 死体の捜索または死体や遺骨の運搬にかかった費用

実務的な言い方に置き換えると、ご遺体の搬送、安置、通夜と告別式の施行、祭壇や棺などの用品、火葬料、そして寺院へのお布施・読経料・戒名料が含まれるということです。お布施は領収書が出ないことが多いものの、控除の対象になり得ます。この点は見落とされがちです。お布施の考え方はお布施の相場と渡し方で扱っています。

控除できない費用

同じくタックスアンサーNo.4129は、次のものを葬式費用に該当しないものとしています。

  • 香典返しのためにかかった費用
  • 墓石や墓地の買入れのためにかかった費用や墓地を借りるためにかかった費用
  • 初七日など法事のためにかかった費用

また、相続税法基本通達13-5は葬式費用でないものとして、香典返戻費用、墓碑および墓地の買入費ならびに墓地の借入料、法会に要する費用に加えて、医学上または裁判上の特別の処置に要した費用を挙げています。

香典返しが控除できないのは、香典自体が相続税の課税対象にならないことと対応しています。受け取った香典に課税されない以上、そのお返しの費用も差し引かないという整理です。香典の法的な性質は香典は誰のものかで解説しています。

なお、会葬者にその場でお渡しする会葬御礼品は、香典の有無にかかわらず参列いただいたことへの返礼として渡すものであり、香典返しとは区別して扱われるのが一般的です。ただし個別の判断は税務署や税理士に確認してください。

「医学上または裁判上の特別の処置に要した費用」が挙げられているのも実務では意味があります。死因を明らかにするための解剖費用などがこれに当たると考えられており、通常の葬送に必要な費用とは区別されています。

請求書が1枚にまとまっていることの問題

弁護士として相続の相談を受けていて、申告の段階で困る方が多いのがここです。葬儀社の請求書は、通夜・告別式の施行費用と、初七日法要の費用、そして香典返しの費用が1枚にまとめられていることが珍しくありません。総額だけを見ても、控除できる部分とできない部分を分けられません。

対応としては、次の3点をおすすめします。

  • 葬儀社に明細の分かる請求書を出してもらう:初七日法要分、香典返し分を項目として分けてもらいます
  • 可能なら領収書を分ける:葬儀施行分と法要・香典返し分を別の領収書にしてもらうと、申告時に説明が容易です
  • 葬儀と同時に行う初七日の扱いを確認する:通夜・告別式と同日に初七日法要を行い、代金が区別されていない場合の取扱いは、税務署や税理士に確認してください

株式会社鎌倉新書の「第7回 お葬式に関する全国調査」(2026年)によると、葬儀費用の総額平均96.73万円の内訳は基本料金72.02万円、飲食費11.67万円、返礼品費13.03万円でした。返礼品費のなかに香典返しが含まれる場合、その部分は控除の対象外になります。費用の層ごとの見分け方は葬儀費用の内訳で解説しています。

領収書が出ない支払いの残し方

お布施、心づけ、火葬場でのお車代など、領収書が発行されない支払いがあります。控除の対象になり得るにもかかわらず、記録がないために申告で説明できなくなるのは避けたいところです。

支払った日付、支払先(寺院名・戒名を授けた僧侶名など)、金額、名目を記録に残してください。金封の表書きの写真、銀行から出金した記録、当日のメモでも構いません。誰が支払ったのかも重要です。葬式費用を控除できるのは、それを負担した相続人や包括受遺者だからです。

同じことは、火葬場や式場で渡す心づけ、運転手へのお車代、手伝ってくれた方への謝礼にも当てはまります。金額は大きくなくても積み上がると無視できない額になります。葬儀の当日はメモを取る余裕がないため、喪主以外の親族に記録係を頼んでおくという方法もあります。

誰が負担したかで控除できる人が変わる

葬式費用は、実際に負担した相続人などの課税価格から差し引きます。喪主が全額を支払った場合と、兄弟で分担した場合とでは、控除できる人が変わります。

そのため、遺産分割の話し合いの前に「誰がいくら支払ったか」を確定させておくことが実務上重要です。立て替えた費用を後から精算する場合の考え方は葬儀費用を兄弟に請求できるかで扱っています。相続財産から葬儀費用を支払う場合の注意点は葬儀費用を相続財産から支払えるかをご覧ください。

まとめ

相続税の計算では、相続税法13条に基づき、火葬・埋葬・納骨の費用、遺体や遺骨の回送費、通夜など葬式に欠かせない費用、寺院への読経料などのお礼、死体の捜索・運搬費を遺産総額から差し引くことができます。一方、香典返し、墓石・墓地の購入や借入れ、初七日などの法会の費用は控除できません。

大切なのは、葬儀社の請求書を控除できる部分とできない部分に分けられる形で受け取ること、そして領収書の出ないお布施などを記録に残すことです。個別の判断は事情によって変わりますので、申告にあたっては税務署や税理士に確認し、相続人間の負担の整理で争いが生じている場合は弁護士に相談することをおすすめします。