葬儀費用はいくら用意すればよいか|支払時期と手元資金の考え方
必要なのは「最終的な負担額」ではなく、「支払期日までに動かせる現金」です
「いくら用意すればいいですか」
この質問には、2つの答えがあります。最終的にいくら負担するかと、支払期日までに現金でいくら必要かです。
この2つは一致しません。むしろ、大きくずれます。
葬儀費用の支払期日は、施行後1週間から10日ほどです。一方、葬祭費や埋葬料の入金は、申請から1か月前後かかります。
つまり、最終的な負担が小さくても、一時的に立て替える現金は必要になります。用意すべきなのは、後者のほうです。
平均額を出発点にする
株式会社鎌倉新書の「第7回 お葬式に関する全国調査」(2026年)によると、葬儀費用の総額の平均は96.73万円です。
形式別では、次のようになっています。
| 形式 | 平均 |
|---|---|
| 一般葬 | 122.01万円 |
| 家族葬 | 96.39万円 |
| 一日葬 | 74.43万円 |
| 直葬・火葬式 | 49.56万円 |
内訳の平均は次のとおりです。
| 区分 | 平均 |
|---|---|
| 基本料金 | 72.02万円 |
| 飲食費 | 11.67万円 |
| 返礼品費 | 13.03万円 |
この金額は、葬儀社に支払う費用と、飲食・返礼品の費用を含んだものです。形式が決まっていれば、ここを出発点にできます。
飲食費と返礼品費は、参列者の人数で動きます。合わせて24.70万円ですから、人数の見込みが変われば総額もそれなりに動きます。
平均額に含まれていない支出
ここからが大切なところです。上の金額に含まれていない支出があります。
| 費目 | 目安 | 支払い方 |
|---|---|---|
| お布施 | 20万〜50万円が中心 | 現金 |
| 火葬料 | 無料〜十数万円 | 施設による |
| 式場使用料 | 施設による | 施設による |
| 心づけ・御車代・御膳料 | 数千円〜数万円 | 現金 |
お布施の水準は、『葬儀の口コミ』(株式会社ディライト)が2026年3月28日から4月11日にかけて実施した調査によります。全国20の政令指定都市で、お布施を納めた経験のある方が対象です。
同じ調査で、最も高い回答はさいたま市の170万円、最も低い回答は熊本市の8万円でした。地域差と寺院差が非常に大きい費目です。
火葬料は、公営施設で住民が利用する場合は無料または低額です。一方、民営施設では数万円から十数万円になることがあります。
これらを加えると、見積書の総額より2割から3割ほど多く見ておくのが現実的です。
支払期日は、思ったより早い
葬儀費用の支払期日は、施行後1週間から10日ほどに設定されることが多くあります。
一方、入ってくるお金の時期はこうです。
| 入るお金 | いつ |
|---|---|
| 香典 | 葬儀の当日 |
| 生命保険の死亡保険金 | 請求から数営業日〜数週間 |
| 葬祭費・埋葬料 | 申請から1か月前後 |
| 故人の預貯金(仮払い) | 書類がそろってから数日 |
葬祭費と埋葬料は、支払期日にはまず間に合いません。
つまり、最終的な自己負担額が小さくても、一時的に立て替える資金は必要です。
用意すべきなのは「最終的な負担額」ではなく、「支払期日までに動かせる現金」です。ここを取り違えると、計算上は足りているのに払えないという事態になります。
故人の預貯金は凍結されます
金融機関が名義人の死亡を把握すると、口座は凍結されます。この状態では、故人の預金を葬儀費用に充てることができません。
ただし、一定額を引き出せる制度があります。
引き出せる金額は、次の計算で決まります。
- その口座の、亡くなった時点の残高を確認する
- 残高の3分の1を出す
- それに自分の法定相続分をかける
- 1つの金融機関につき150万円が上限
たとえば残高が600万円、相続人が子2人なら、600万円 ÷ 3 × 1/2 = 100万円です。
根拠となる条文 — 預貯金の仮払い
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、相続開始時の債権額の3分の1に自分の法定相続分を乗じた額について、単独で払戻しを受けられます(民法909条の2)。
1つの金融機関あたりの上限は、法務省令で150万円と定められています。
条文が「平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して」と定めているとおり、葬儀費用の支払いを想定した制度です。
手続には戸籍の書類が必要です。求められる書類は金融機関ごとに違いますので、窓口に先に電話して確認してください。
即日で引き出せることは、まずありません。数日は見ておいてください。
実際に計算してみる
家族葬で、参列者を20人と見込んだ場合の例です。
必要な額
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 葬儀社への支払い | 96.39万円 |
| 火葬料・式場使用料 | 5万円 |
| お布施・御車代 | 30万円 |
| 合計 | 131.39万円 |
差し引けるもの
| 項目 | 金額 | 入る時期 |
|---|---|---|
| 香典(20人・1人1万円と仮定) | 20万円 | 当日 |
| 葬祭費(東京23区の場合) | 7万円 | 1か月後 |
最終的な負担は104.39万円ほどです。
ところが、支払期日までに必要な現金は違います。葬祭費の7万円は間に合いませんから、111.39万円を用意することになります。
このうち30万円は現金でなければなりません。残りは振込やカードが使えることが多いのですが、葬儀社に確認してください。
足りないときの選択肢
手元資金が不足する場合、次の順で検討してください。
- 形式を見直す。一日葬や直葬にすると、飲食費と返礼品費が大きく減ります
- 支払期日を相談する。理由と期限をセットで伝えれば、応じてもらえることがあります
- 公的給付と仮払いで減らす。葬祭費・埋葬料・生命保険金・預貯金の仮払い
- 分割払いを相談する。葬儀社との直接分割、葬儀ローン、カードの分割
1番目が最も効きます。ただし、契約後の変更は難しくなります。決めるなら契約前です。
2番目は見落とされがちですが、手数料の面ではいちばん有利です。分割の相談より先に、こちらを試してください。
「葬祭費の申請をしており、入金が◯月頃になる見込みです。お支払いを◯月◯日まで待っていただけますか」
生活保護を受けている方が関わる場合は、葬祭扶助という制度があります。ただし、火葬より前に福祉事務所へ申請する必要があります。火葬後の申請は通常認められません。
用意した後の記録
支払いを済ませたら、記録を残してください。後の手続で必ず使います。
使う場面は3つあります。相続税の申告、葬祭費・埋葬料の申請、そして家族の間の精算です。
相続税では、火葬・搬送・通夜の費用やお布施は差し引けます。一方、香典返しや初七日などの法要の費用は差し引けません。総額だけの領収書では分けられません。
家族の間の精算では、記録の有無が結論を左右します。誰がいくら負担したかがはっきりしていれば、話し合いは進みます。
見積書は「単価と数量」で見る
金額の見当をつけるには、正確な見積書が必要です。総額だけの見積書では、計算のしようがありません。
確認するのは、次の点です。
単価が分かっていれば、参列者が増えたときにいくら増えるのかを自分で計算できます。
逆に「葬儀一式」としか書かれていなければ、後から確かめようがありません。その場合は、数量と単価が書かれた明細を求めてください。支払う側が明細を求めるのは、法律上も認められた正当な要求です。
国民生活センターが2026年6月3日に公表した資料があります。それによると、葬儀サービスに関する相談は2025年度で917件ありました。そのうち52.6%が「高価格・料金」に関するものです。
同じ資料では、見積書に明細がなく、追加費用が重なって総額200万円を超えたという事例も紹介されています。
受け取った見積書は、その場でスマホで撮っておいてください。後から内容が変わったときに、いつ・どの内容で受け取ったのかを示せます。
火葬場が混んでいると、費用が増えます
見積もりの段階で読めない費用があります。安置日数です。
火葬場の予約が取れないと、火葬までの日数が延びます。その分だけ、安置料とドライアイスの費用が積み上がります。
都市部では、火葬まで1週間近く待つことも珍しくありません。冬場や年末年始は特に混み合います。
対応としては、次の2つを聞いておいてください。
- 安置料とドライアイスは、1日あたりいくらか
- 何日分が見積もりに入っているか
この2つが分かっていれば、日数が延びたときにいくら増えるのかを自分で計算できます。請求書を見て驚くこともなくなります。
安置場所を自宅にするか、葬儀社の施設にするかでも金額は変わります。自宅安置ができる住環境であれば、費用は抑えられます。ただし、ドライアイスの交換で人が出入りすることになります。
火葬場が混んでいる時期は、通夜と告別式の日程も後ろにずれます。遠方の親族に来てもらう場合は、日程が確定してから連絡してください。
まとめ
用意すべき額について、覚えておくことは3つです。
- 見積書の総額に足す。火葬料・お布施・現金で渡す費用を加える
- 期日を基準にする。必要なのは、支払期日までに動かせる現金
- 給付は後から入る。葬祭費・埋葬料は、まず間に合わない
平均額を基準にするなら、96.73万円という総額に、お布施の分を別枠で見込むことになります。
故人の預貯金を使う場合は、仮払いの要件と、相続放棄への影響を確認してください。ここで迷ったら、支払う前に相談してください。順番を変えるだけで、結果が変わることがあります。
