葬儀費用は香典で足りるか|平均額から差額を試算する
参列者が増えれば香典も増えます。ただし費用も同時に増えるので、差は自動では埋まりません
「香典があるから、なんとかなるだろう」
そう考えている方に、先にお伝えしておきたいことがあります。参列者を増やしても、差額は自動では埋まりません。
参列者が増えれば香典も増えます。ただし、料理と返礼品の費用も同時に増えます。そのうえ香典返しも必要になります。
つまり、香典と費用は同じ方向に動きます。だから、実際にいくら足りないのかは、自分で計算するしかありません。
その計算のしかたをお伝えします。
形式ごとの費用の目安
株式会社鎌倉新書の「第7回 お葬式に関する全国調査」(2026年)によると、葬儀費用の総額の平均は96.73万円です。
形式別では、次のようになっています。
| 形式 | 平均 | 内容 |
|---|---|---|
| 一般葬 | 122.01万円 | 通夜と告別式を行い、一般の参列者を招く |
| 家族葬 | 96.39万円 | 通夜と告別式を行うが、参列者を身内に限る |
| 一日葬 | 74.43万円 | 通夜を行わず、告別式と火葬を1日で行う |
| 直葬・火葬式 | 49.56万円 | 通夜も告別式も行わず、火葬のみ |
内訳の平均は次のとおりです。
| 区分 | 平均 |
|---|---|
| 基本料金 | 72.02万円 |
| 飲食費 | 11.67万円 |
| 返礼品費 | 13.03万円 |
ここで大事なのは、飲食費と返礼品費は参列者数で動くという点です。参列者が増えれば、この2つは確実に増えます。
一方、基本料金は祭壇や棺、施行の費用ですから、参列者数では大きく変わりません。
なお、この総額にお布施は含まれていません。宗教者に読経を依頼するなら、別枠で用意する必要があります。葬儀のお布施は20万〜50万円が中心とされています。
香典と費用は、同じ方向に動きます
香典は、弔問に来た方から喪主に対する贈り物と考えられています。故人の財産ではありませんので、遺産分割の対象にもなりません。
実務では、そのまま葬儀費用に充てるのが一般的です。
ここで押さえておきたいのが、香典と変動費の関係です。
参列者が10人増えたとします。
| 増えるもの | 方向 |
|---|---|
| 香典 | +(収入が増える) |
| 料理 | −(費用が増える) |
| 返礼品・会葬礼状 | −(費用が増える) |
| 香典返し | −(費用が増える) |
つまり、参列者を増やせば差額が埋まるという単純な関係にはなりません。
しかも、香典返しの費用は相続税で差し引けません。受け取った香典に課税されないことと対応した扱いです。
一般葬と家族葬を比べると、費用の差は25.62万円です。この差を香典で埋められるかは、参列者の人数と関係性によります。あらかじめ「こうなる」とは言えません。
試算の順序
実際に用意すべき額は、次の順序で出します。
- 形式と参列者数から、葬儀社への支払見込額を出す(見積書の総額)
- 見積書に含まれていない実費を加える(火葬料、式場使用料など)
- お布施を加える
- 香典の見込額を差し引く
- 葬祭費または埋葬料を差し引く
2番目を飛ばす方が多くいます。プランに含まれない費目は、必ず一覧で出してもらってください。
4番目の香典の見込額は、参列予定者の人数と関係性から概算するしかありません。読み違えると資金が不足しますので、少なめに見込むほうが安全です。
5番目の公的給付は、故人が加入していた制度で決まります。
| 加入していた制度 | 給付 | 金額の目安 |
|---|---|---|
| 国民健康保険・後期高齢者医療 | 葬祭費 | 自治体による。東京23区は7万円 |
| 健康保険(協会けんぽ等) | 埋葬料 | 5万円 |
| 労災(業務上・通勤による死亡) | 葬祭料 | 315,000円+給付基礎日額30日分 |
いずれも申請しないともらえません。期限は2年です。
根拠となる条文 — 葬祭費・埋葬料
葬祭費は、国民健康保険法58条1項と、高齢者の医療の確保に関する法律86条にもとづく給付です。金額は保険者の条例または規約で定められるため、自治体ごとに違います。
埋葬料は健康保険法100条にもとづき、生計を維持されていた方で埋葬を行う方に支給されます。該当者がいない場合は、実際に埋葬を行った方に埋葬費が支給されます(同法105条)。
労災の葬祭料は労働者災害補償保険法17条にもとづきます。いずれも時効は2年です。
香典を辞退する場合
家族葬では、香典を辞退する例が増えています。
このとき起きることを整理しておきましょう。
| 辞退しない | 辞退する | |
|---|---|---|
| 香典 | 入る | 入らない |
| 香典返し | 必要 | 不要 |
| 会葬御礼 | 必要 | 必要 |
| 後日のあいさつ | 必要 | 軽くなる |
辞退すれば香典返しの手間はなくなりますが、費用はそのまま持ち出しになります。
辞退するかどうかは、費用だけで決めるものではありません。ただ、資金計画に与える影響は把握しておいてください。
もうひとつ。辞退の意向を伝えていても、当日持参される方はいます。
受け取った場合の扱いを、あらかじめ決めておいてください。当日その場で判断を迫られると、対応がばらつきます。
- 一律にお断りする
- どうしてもという方からは受け取る
- 受け取った場合は、後日返礼する
どれを選んでもかまいません。決めておくことが大切です。受付を担当する方に、その方針を伝えておいてください。
支払時期と入金時期は、ずれます
計算上は足りていても、タイミングで詰まることがあります。
葬儀費用の支払期日は、施行後1週間から10日ほどに設定されることが多くあります。
一方、入ってくるお金の時期はこうです。
| 入るお金 | いつ |
|---|---|
| 香典 | 葬儀の当日 |
| 葬祭費・埋葬料 | 申請から1か月前後 |
| 生命保険の死亡保険金 | 請求から1〜2週間程度 |
| 故人の預貯金 | 凍結される。仮払いには数日かかる |
葬祭費と埋葬料は、支払期日には間に合わないことがほとんどです。当座の資金は別に用意する必要があります。
故人の口座が凍結されている場合は、一定額を引き出せる制度があります。上限は1つの金融機関につき150万円です。
根拠となる条文 — 預貯金の仮払い
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、相続開始時の債権額の3分の1に自分の法定相続分を乗じた額について、単独で払戻しを受けられます(民法909条の2)。
1つの金融機関あたりの上限は、法務省令で150万円と定められています。
手続には戸籍の書類が必要で、金融機関ごとに求められるものが違います。窓口に先に電話して確認してください。
どうしても間に合わないときは、葬儀社に支払期日の相談をしてください。理由と、いつまでという期限をセットで伝えるのがこつです。
家族の間の精算も、先に決めておく
香典で足りるかという問いには、もうひとつの面があります。足りなかった分を誰が負担するかです。
葬儀社への支払いは、契約した人が責任を負います。ここは動きません。
一方、家族の間で誰がいくら負担するかは、まったく別の問題です。この2つを混ぜると、話す相手を間違えます。
決めておきたいのは次の4つです。
- 契約者を誰にするか(喪主と分けてもよい)
- 香典を誰が管理し、総額をどう記録するか
- 公的給付を誰が申請し、誰が受け取るか
- 不足分をどう分担するか
決めたことは、メールでもかまわないので文字にしてください。口約束は、時間が経つと必ず食い違います。
まとめ
香典で葬儀費用が足りるかについて、覚えておくことは3つです。
- 自動では埋まらない。参列者が増えれば香典も費用も増える
- 少なめに見込む。香典の読み違えは、資金不足に直結する
- 時期がずれる。公的給付は支払期日に間に合わない
見積書の総額に、含まれていない実費とお布施を加えてください。そこから香典の見込みと公的給付を引いた額が、実際に必要な金額です。
数字を出してみると、判断が変わることがあります。形式を見直す余地があるかもしれませんし、思ったより余裕があると分かるかもしれません。
資金繰りに不安があるときは、早い段階で相談してください。契約の前であれば、選べる方法はまだ残っています。
実際に計算してみる
数字を当てはめてみましょう。家族葬で、参列者を20人と見込んだ場合の例です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 葬儀社への支払い(家族葬の平均) | 96.39万円 |
| 火葬料・式場使用料など(プラン外) | 5万円 |
| お布施 | 30万円 |
| 合計 | 131.39万円 |
ここから引きます。
| 引くもの | 金額 |
|---|---|
| 香典(20人・1人平均1万円と仮定) | 20万円 |
| 葬祭費(東京23区の場合) | 7万円 |
| 差引後 | 104.39万円 |
香典が入っても、100万円を超える持ち出しが残る計算です。
この数字を見て「思ったより多い」と感じたなら、それが正しい感覚です。多くの方が、香典で半分は埋まると考えています。実際にはそこまで届きません。
金額を下げたいときに効くのは、次の3つです。
- 形式を変える(一日葬なら平均74.43万円、直葬なら49.56万円)
- 参列者を絞る(料理と返礼品が減ります。ただし香典も減ります)
- 式場を公営施設にする(使用料が大きく違うことがあります)
このうち1番目が最も効きます。ただし、後から変更はできません。契約する前に決めてください。
見積書を受け取ったら確かめること
数字を出すには、まず正確な見積書が必要です。総額だけ書かれた見積書では計算できません。
次の点を確認してください。
とくに大切なのが、単価と数量が書かれているかです。
単価が分かっていれば、参列者が増えたときにいくら増えるのかを自分で計算できます。逆に「一式」としか書かれていなければ、後から確かめようがありません。
国民生活センターが2026年6月3日に公表した資料があります。それによると、葬儀サービスに関する相談は2025年度で917件ありました。そのうち52.6%が「高価格・料金」に関するものです。
同じ資料では、見積書に明細がなく、追加費用が重なって総額200万円を超えたという事例も紹介されています。
受け取った見積書は、その場でスマホで撮っておいてください。後から内容が変わったときに、いつ・どの内容で受け取ったのかを示せます。
