香典返しが相続税で控除できない理由|対象になる費用との違い
香典に税がかからないから、返す費用も引けません。会葬御礼との区別が分かれ目です
葬儀にかかったお金は、相続税の計算で遺産から差し引けます。ところが、香典返しの費用だけは差し引けません。
なぜなのか。理由は単純です。受け取った香典に税がかからないからです。
もらう側に課税しないのだから、返す費用も引かない。そういう整理になっています。
問題は、香典返しとよく似た「会葬御礼」との区別です。ここを混ぜたまま請求書を受け取ると、後から分けられなくなります。
まず、香典には税がかかりません
香典は、弔問に来た方から喪主に対する贈り物と考えられています。故人の財産ではありません。
ですから、遺産分割の対象にもなりませんし、相続税の課税対象にもなりません。
贈与税についても、社交上の必要によるもので、社会通念上相当と認められる香典には課さない取扱いがされています。
つまり、香典は受け取っても課税されない。ここが出発点です。
そのうえで、香典返しは受け取った香典への返礼です。収入側が課税されないのだから、対応する支出も引かない。これが、香典返しの費用が対象外とされる理由です。
理屈が分かると、覚えやすくなります。「香典と香典返しはセットで、税の世界の外側にある」と考えてください。
差し引けるもの・差し引けないもの
国税庁のタックスアンサーNo.4129は、範囲を次のように整理しています。
| 差し引ける | 差し引けない |
|---|---|
| 火葬・埋葬・納骨の費用 | 香典返しの費用 |
| 遺体や遺骨の回送・運搬の費用 | 墓石・墓地の購入費、墓地の借入料 |
| 通夜など葬式の前後の通常の費用 | 初七日など法会の費用 |
| 読経料などのお布施 | 医学上・裁判上の特別の処置の費用 |
| 死体の捜索に要した費用 |
「葬式に際し施与した金品で、故人の職業・財産その他の事情に照らして相当程度と認められるもの」も差し引けます。心づけなどが、これにあたります。
初七日や四十九日の費用は「法会に要する費用」です。差し引けません。
葬儀と同じ日に繰り上げて行った初七日についても、扱いは同じです。ただし飲食費が精進落としと一体になっていることがあり、区分が問題になります。
根拠となる条文 — 葬式費用の範囲
相続または遺贈により財産を取得した相続人・包括受遺者が負担した葬式費用は、課税価格の計算上、取得財産の価額から控除されます(相続税法13条1項2号)。
差し引ける費用の範囲は相続税法基本通達13-4に定められています。埋葬・火葬・納骨または遺骨の回送その他に要した費用、葬式に際し施与した金品で相当程度と認められるもの、葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うもの、死体の捜索または遺体・遺骨の運搬に要した費用です。
一方、同13-5は、香典返戻費用、墓碑および墓地の買入費ならびに墓地の借入料、法会に要する費用、医学上または裁判上の特別の処置に要した費用を、葬式費用でないものとしています。
会葬御礼と香典返しは、別のものです
ここがいちばん紛らわしいところです。整理しておきましょう。
| 会葬御礼 | 香典返し | |
|---|---|---|
| 何への礼か | 参列してくれたこと | いただいた香典 |
| 渡す相手 | 参列者全員 | 香典をくれた方 |
| 金額 | 一律 | 香典の額に応じる |
| 渡す時期 | 当日 | 忌明け後が本来 |
| 相続税では | 差し引ける扱いが一般的 | 差し引けない |
会葬御礼は、香典の有無にかかわらず一律に用意します。参列いただいたことへの礼ですから、葬式に伴う費用として扱われるのが一般的です。
香典返しは、いただいた香典への返礼です。金額に応じて贈るもので、こちらが対象外になります。
「当日返し」をした場合
近年は、当日返し(即日返し)が広く行われています。会葬御礼と香典返しを兼ねて、当日その場でお渡しする方式です。
この場合、どちらの性質の支出なのかを区別できるようにしておく必要があります。
請求書や納品書で品目が分かれているかを確認してください。分かれていなければ、葬儀社に内訳の記載を依頼します。
「相続税の申告で使いますので、会葬御礼分と香典返し分を分けて記載していただけますか」
この一言を、請求書を受け取る前に伝えてください。支払いを済ませた後だと、作り直しに応じてもらえないことがあります。
記録の残し方
葬式費用を差し引くには、支出の内容と金額を示す資料が必要です。次のものを整理しておいてください。
最後の項目を忘れないでください。差し引けるのは、実際に負担した相続人です。喪主が全額を払った場合と、兄弟で分担した場合とでは、差し引ける人が変わります。
お布施は領収書が出ませんが、差し引ける費用です。記録がなければ説明できませんので、金封の表書きを渡す前に撮っておいてください。
費目ごとの実務的な判断
差し引けるかどうかは、費目の名前ではなく実質で判断されます。迷いやすいものを挙げておきます。
通夜ぶるまい・精進落とし。葬式の前後に生じた出費で、通常葬式に伴うものとして差し引ける扱いが一般的です。
初七日の費用。法会に要する費用にあたり、差し引けません。同日に繰り上げて行った場合は、飲食費の区分が問題になります。
会葬御礼。参列者に一律に渡すものは、葬式に伴う費用として扱われるのが一般的です。香典返しを兼ねている場合は区分が必要です。
心づけ。相当程度と認められるものは差し引けます。日付・相手・金額のメモを残してください。
お布施・戒名料。読経料などは差し引けます。四十九日法要のお布施は法会の費用なので、対象外です。
墓石・墓地の購入費。差し引けません。納骨のためにかかった費用は差し引けますので、そこは分けて考えてください。
区分が難しい支出は、請求書の段階で品目を分けてもらうのが最も確実です。
税の話と、家族の精算は別です
もうひとつ、混同されやすい点があります。
相続税の計算では、香典を収入に計上せず、香典返しの費用も差し引きません。これは税務上の扱いです。
一方、相続人の間で葬儀費用の負担を話し合うときは、話が違います。
このときの出発点は、香典を差し引いた実質の持ち出し額です。
| 税務上の扱い | 家族の精算 | |
|---|---|---|
| 香典 | 収入に計上しない | 費用から差し引く |
| 香典返し | 差し引けない | 費用に含めて考える |
総額のまま話し合うと、実態と合わない前提で進んでしまいます。
まず、支払った総額から香典と公的給付を引いてください。その金額が、家族で分ける対象になります。
葬祭費(国民健康保険・後期高齢者医療。東京23区は7万円)と埋葬料(健康保険。5万円)は、申請しないともらえません。期限は2年です。
申告の期限を忘れずに
相続税の申告と納付の期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月です。
葬式費用の資料は、後から集めようとすると必ず抜けが出ます。葬儀が終わった直後、記憶が新しいうちに封筒1つにまとめてください。
相続税がかからないと思っていても、後から不動産の評価で課税されると分かることがあります。そのとき領収書がなければ、差し引けるはずの費用を証明できません。
捨てないこと。これだけは守ってください。
香典の記録は、想像以上に効きます
香典返しの費用が差し引けないと聞くと、記録を取る意味がないように思えるかもしれません。そんなことはありません。
香典の記録は、後で3つの場面に効いてきます。
- 家族の間で葬儀費用を精算するとき(実質の持ち出し額を出すため)
- 香典返しを手配するとき(金額に応じて贈るため)
- いただいた方に、後日あいさつをするとき
残しておくのは次の3つです。
- 誰から、いくらいただいたか(芳名帳と香典袋を照合します)
- 香典の総額
- 何に充てたか
香典袋は、開けた順にまとめて置いてしまうと、後から誰のものか分からなくなります。開封したその場で、袋に書かれた氏名と金額を控えてください。
葬儀の当日は喪主にその余裕がありません。受付を担当した方に、記録まで頼んでおくのが確実です。集計は後日でかまいませんが、袋と金額の対応だけは当日つけておいてください。
高額の香典をいただいた場合は、香典返しの金額も大きくなります。慣行として、いただいた額の3分の1から半額程度を返すことが多いとされていますが、地域差があります。
迷ったときの確認先
費目の区分に迷ったとき、どこに聞けばよいのかを整理しておきます。
| 内容 | 聞く先 |
|---|---|
| この費目は差し引けるか | 税務署または税理士 |
| 請求書の内訳を分けてほしい | 葬儀社 |
| 誰がいくら負担すべきか | 弁護士 |
| 葬祭費・埋葬料の申請 | 市区町村または加入していた健康保険 |
税務署は、申告の相談を無料で受け付けています。事前に電話で予約する方式を採っている署が多くなっています。
聞きに行くときは、請求書と明細を持っていってください。「香典返しは引けますか」という一般論より、「この請求書のこの行はどう扱いますか」と聞くほうが、はっきりした答えが返ってきます。
相続人の間で負担の分け方が決まらない場合は、税務の問題ではありません。誰がいくら負担するかは、話し合いで決める事柄です。まとまらないときは、資料をそろえて弁護士に相談してください。
まとめ
香典返しと相続税について、覚えておくことは3つです。
- 香典返しは差し引けない。香典に課税されないことと対応した扱いです
- 会葬御礼は別物。一律に渡すものは、差し引ける扱いが一般的です
- 当日返しは分けてもらう。請求書の段階で、品目を分けて記載を依頼します
判断に迷う費目は必ず出てきます。個別の扱いは税務署か税理士に確認してください。
相続人の間で負担の整理がつかないときは、資料をそろえたうえで相談してください。数字がはっきりすれば、話し合いは前に進みます。
