遺産分割協議書の書き方|必要な場面と記載事項
書き方より、特定の精度が結果を分ける。金融機関名と口座番号まで書く
遺産分割協議書に法律上の決まった書式はありません。手書きでもパソコンでもかまいませんが、相続登記や預貯金の名義変更に使うには、被相続人の特定・取得する財産の特定・相続人全員の署名と実印の押印・印鑑証明書の添付が事実上必要になります。逆に、相続人が1人しかいない場合や、遺言のとおりに分ける場合は、そもそも作成が不要なこともあります。まず、自分のケースで必要かどうかを確認するところから始めてください。
作成が必要な場面・不要な場面
民法907条1項は、共同相続人は、被相続人が遺言で禁じた場合などを除き、いつでも、その協議で、遺産の全部または一部の分割をすることができると定めています。協議自体は口頭でも成立しますが、後の手続きと将来の紛争予防のために書面にしておくのが実務です。
作成が必要になるのは、おおむね次の場面です。
- 相続人が複数いて、法定相続分と異なる分け方をする場合
- 不動産の相続登記を、遺産分割の結果に基づいて申請する場合
- 預貯金・株式・自動車などの名義変更や解約で、金融機関等から提出を求められる場合
- 相続税の申告で、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用する場合
一方、次のような場合は作成しなくても手続きが進むことがあります。
- 相続人が1人しかいない場合
- 遺言書があり、そのとおりに分ける場合
- 法定相続分どおりに共有名義で登記する場合
なお、相続放棄をした人は、はじめから相続人ではなかったものとみなされるため(民法939条)、遺産分割協議に参加しません。むしろ、放棄を検討している段階で協議書に署名すると、相続財産の処分(民法921条1号)と評価され、放棄ができなくなるおそれがあります。この点は相続放棄ができなくなる行為で詳しく整理しています。
必ず入れる記載事項
協議書には、次の要素を漏れなく書きます。
被相続人の特定として、氏名、死亡年月日、最後の本籍、最後の住所を記載します。同姓同名の別人と取り違えられないようにするためです。
協議の成立に関する文言として、被相続人の相続人全員で遺産分割協議を行い、次のとおり分割することに合意した旨を書きます。
取得する財産と取得者の対応を、財産ごとに具体的に書きます。「甲は次の不動産を取得する」のように、誰が何を取得するかが一義的に読み取れる書き方にします。
債務の負担についても定めておくと後々の争いを防げます。ただし、相続人間で誰が負担するかを決めても、それを債権者に主張できるとは限りません。債権者は各相続人に法定相続分に応じて請求できるのが原則です。
協議書の作成日付と、相続人全員の住所・氏名の署名と実印の押印を入れます。相続人が遠方にいる場合は、同じ内容の書面を人数分用意し、それぞれが署名押印したものをまとめる方法(持ち回り方式)も使えます。
不動産と預貯金の書き方
不動産は、住居表示(郵便物の宛先の住所)ではなく、登記事項証明書の記載どおりに書きます。土地なら所在・地番・地目・地積、建物なら所在・家屋番号・種類・構造・床面積です。マンションであれば、一棟の建物の表示、専有部分の建物の表示、敷地権の表示まで記載します。ここが登記簿と一致していないと、法務局で補正を求められます。
法務局は相続登記の申請書の様式と記載例をウェブサイトで公開しており(法務局「不動産登記の申請書様式について」)、遺産分割による所有権移転登記の様式も掲載されています。書き方に迷ったら、まずそれを確認するのが確実です。
預貯金は、金融機関名、支店名、預金種別、口座番号まで特定します。株式なら証券会社名、銘柄、株数を書きます。
後から財産が見つかったときに備えて、「本協議書に記載のない遺産および本協議後に判明した遺産については、○○が取得する」あるいは「相続人全員で別途協議する」といった条項を入れておくと、協議をやり直す手間を避けられます。
実印と印鑑証明書
遺産分割協議書に押す印は、実印(市区町村に登録した印鑑)です。そして、その印が実印であることを証明するために、相続人全員の印鑑登録証明書を添付します。
相続登記で使う場合、印鑑証明書に有効期限の定めはないとされるのが一般的ですが、金融機関の手続きでは発行から3か月以内や6か月以内といった期限を求められることが多く、実務上は新しいものを取得しておくのが無難です。提出先ごとに要件が異なるため、事前に確認してください。
協議書が複数枚になるときは、ページの継ぎ目に相続人全員の実印で契印を押します。原本は提出先が複数あるため、法務局や金融機関に提出する際に原本還付の手続きを取るか、必要部数を作成しておきます。
相続人の中に未成年者がいて、その親も同じ相続の相続人である場合は、利益が相反するため、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。認知症などで判断能力が十分でない相続人がいる場合も、成年後見人等を立てないと有効な協議ができません。この二つは見落とされやすい点です。
期限と、まとまらないとき
遺産分割そのものに法律上の期限はありません。ただし、期限のある関連手続きがあります。
相続税の申告・納付は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条1項)。この期限までに分割が終わっていないと、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例をいったん適用できません。
相続登記は2024年4月1日から義務化されました。不動産登記法76条の2第1項は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に所有権移転の登記を申請しなければならないと定めています。正当な理由がないのに怠ると、10万円以下の過料の対象です(同法164条1項)。
さらに、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、特別受益や寄与分の主張ができなくなります(民法904条の3。2023年4月1日施行)。10年を経過する前に家庭裁判所に遺産分割を請求していた場合などの例外はありますが、放置し続けると法定相続分で分けるほかなくなる、という点は意識しておいてください。
協議がまとまらないときは、各共同相続人が家庭裁判所に遺産分割を請求できます(民法907条2項)。実務では、まず調停を申し立て、調停が成立しなければ審判に移行します。弁護士に依頼する場合の費用の考え方は相続を弁護士に依頼する費用の相場にまとめています。
なお、遺産分割の前でも、葬儀費用など当面の支払いのために預貯金を引き出せる仕組みがあります。上限や手続きは預貯金の仮払い制度にまとめました。葬儀費用を誰が負担すべきかで意見が分かれている場合は、葬儀費用は誰が払うのかもあわせてご覧ください。
まとめ
遺産分割協議書は、被相続人と財産を正確に特定し、相続人全員が署名と実印で意思を示した書面です。不動産は登記簿どおりに、預貯金は口座まで特定し、後から見つかった財産の扱いも決めておくと安心です。書式そのものは自由ですが、提出先が受け付けてくれる形になっているかが実務上の分かれ目になります。相続人の人数が多い場合や、判断能力・未成年に関する事情がある場合は、作成前に専門家に確認しておくと、やり直しを避けられます。
