相続を弁護士に依頼する費用の相場|他士業との使い分け
全国共通の料金表はありません。大切なのは金額より、算定方法を理解して比べることです
弁護士費用は2004年に自由化されました。全国共通の料金表は存在しません。事務所ごとに独自に定めるのが原則です。
ですから、「相場はいくらですか」という問いに、ひとつの数字で答えることはできません。
ただし、目安はあります。廃止された旧日本弁護士連合会報酬等基準を参考にしている事務所が多く、金額の見当をつける手がかりになります。
そして、そもそも弁護士に頼むべき場面かどうかという問題があります。争いがなければ、他の士業のほうが安く済むことも多いのです。
費用の内訳を先に押さえる
弁護士費用は、名目ごとに発生するタイミングが違います。ここを整理しておくと、見積書が読みやすくなります。
| 名目 | いつ発生するか |
|---|---|
| 法律相談料 | 相談の時点。時間単位のことが多い |
| 着手金 | 依頼した時点。結果にかかわらず返還されないのが原則 |
| 報酬金 | 事件が終わった時点。得られた結果に応じて発生 |
| 手数料 | 書類作成など、結果を争わない事務の対価 |
| 実費 | 戸籍・登記事項証明書の取得費用、印紙代、郵便代、交通費 |
| 日当 | 遠方の裁判所へ出張する場合など |
金額が大きくなりやすいのが、着手金と報酬金です。
とくに着手金は、結果を問わず返ってこないのが通常です。依頼前に、金額と算定根拠を確認しておく必要があります。
旧日弁連報酬等基準という目安
2004年に廃止された基準ですが、多くの事務所が今も参考にしています。目安として紹介します。
着手金(事件の経済的利益の額に応じて)
| 経済的利益 | 着手金 |
|---|---|
| 300万円以下 | 8% |
| 300万円超〜3,000万円以下 | 5%+9万円 |
| 3,000万円超〜3億円以下 | 3%+69万円 |
| 3億円超 | 2%+369万円 |
最低額は10万円とされていました。
報酬金
| 経済的利益 | 報酬金 |
|---|---|
| 300万円以下 | 16% |
| 300万円超〜3,000万円以下 | 10%+18万円 |
| 3,000万円超〜3億円以下 | 6%+138万円 |
| 3億円超 | 4%+738万円 |
調停事件および示談交渉事件については、この額に準じつつ、それぞれ3分の2に減額することができるとされていました。
法律相談料にも定めがありました。初回市民法律相談料は、30分ごとに5,000円から1万円の範囲内。一般法律相談料は、30分ごとに5,000円から2万5,000円以下とされていました。
現在は、初回相談を無料としている事務所も少なくありません。
遺産分割の「経済的利益」とは何か
相続で分かりにくいのが、パーセンテージをかける「経済的利益」の意味です。
旧基準の備考は、遺産分割請求事件について次のように定めていました。
- 原則:対象となる相続分の時価相当額
- ただし、分割の対象となる財産の範囲または相続分について争いのない部分については、相続分の時価の3分の1の額
つまり、次の2点が大切です。
- 遺産の総額ではなく、自分の相続分が基準
- 争いのない部分は3分の1に圧縮して計算する
「遺産1億円だから着手金は数百万円」という単純な計算にはならない、ということです。
具体例で見てみましょう。自分の相続分の時価が2,000万円で、その全体に争いがあるケースです。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 着手金 | 2,000万円 × 5% + 9万円 | 109万円 |
| 報酬金 | 2,000万円 × 10% + 18万円 | 218万円 |
同じ2,000万円でも、争いのない部分であれば、経済的利益は約667万円として計算されます。
なお、旧基準では遺言書作成の手数料は定型で10万円から20万円の範囲内、遺言執行は経済的利益300万円以下で30万円などと定められていました。
これらは争いのない事務の対価ですから、遺産分割の代理とは金額の水準が異なります。
誰に頼むかの整理
相続では、複数の士業が関わります。費用を抑えるうえでも、誰に何を頼むかの整理が有効です。
| 士業 | 頼めること |
|---|---|
| 弁護士 | 相続人間に対立がある場合の交渉・調停・訴訟の代理、相続放棄や遺留分に関する法的判断 |
| 司法書士 | 不動産の相続登記 |
| 税理士 | 相続税の申告 |
| 行政書士 | 遺産分割協議書などの書類作成(争いがない場合) |
代理人として相手方と交渉できるのは、弁護士だけです。ここは他の士業では代われません。
一方、争いがないなら、他の士業に直接依頼したほうが費用は抑えられます。
期限のある手続きも押さえておいてください。
| 手続き | 期限 | 主な担当 |
|---|---|---|
| 相続放棄 | 3か月 | 弁護士・司法書士 |
| 準確定申告 | 4か月 | 税理士 |
| 相続税の申告 | 10か月 | 税理士 |
| 相続登記 | 3年 | 司法書士 |
相続登記は2024年4月1日から義務化されました。相続で所有権を取得したことを知った日から3年以内の申請が必要です。
分かれ目は「争いがあるかどうか」
これが、弁護士に依頼すべきかの実質的な分かれ目です。
相続人全員の意見が一致していて、必要なのが書類作成と登記・申告だけ。この場合は、司法書士や税理士に直接依頼したほうが費用は抑えられます。
話し合いが進まない、連絡が取れない相続人がいる、遺言の内容に納得できない。こうした状況では、早い段階で弁護士に相談したほうが、結果的に費用も時間も抑えられることがあります。
争いが長引くほど、費用は積み上がります。こじれてから相談するより、こじれる前に相談するほうが、選べる方法は多く残っています。
依頼前に確認しておきたいこと
見積りを受け取ったら、次の点を確認してください。
2つ目は、とくに見落とされがちです。段階が進むごとに着手金が追加される料金体系もあります。総額の見通しが変わりますので、必ず確認してください。
費用の負担が難しい場合には、日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助制度があります。
資力が一定の基準以下であることなどの要件を満たせば、弁護士費用の立替えを受け、原則として毎月分割で返していく仕組みです。利用の可否は、法テラスの審査によります。
まず無料の法律相談を受けられる場合もあります。費用を理由に相談をあきらめる前に、問い合わせてみてください。
期限のある手続きから逆算する
費用の話とあわせて、いつまでに何を決めるかを押さえておいてください。期限を過ぎると、選べる方法が減ります。
根拠となる条文 — 相続に関する主な期限
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続について単純承認、限定承認または放棄をしなければなりません(民法915条1項)。この期間は、家庭裁判所において伸長することができます。
準確定申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までに行います(所得税法125条1項)。
相続税の申告書は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に提出しなければなりません(相続税法27条1項)。
相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければなりません(不動産登記法76条の2第1項)。
遺留分侵害額の請求権は、相続の開始および侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年、相続開始の時から10年で時効消滅します(民法1048条)。
とくに注意していただきたいのが、相続放棄の3か月と遺留分の1年です。
どちらも短く、過ぎてしまうと原則として取り返せません。「まだ大丈夫だろう」と考えているうちに、期限が来ます。
相続税の申告期限までに遺産分割が終わっていないと、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例をいったん適用できません。税額に大きく影響します。
期限が近い、または過ぎそうだと感じたら、その時点で相談してください。費用の見積りを比べている間に期限が来る、ということは避けたいところです。
相談するときに持っていくもの
初回相談は時間が限られます。持ち物を用意しておくと、その場で具体的な助言を受けられます。
完璧にそろえる必要はありません。分かる範囲で構いません。
とくに役立つのが、相続人の関係が分かるメモです。誰が相続人になるのかで、話の前提が変わります。
そして、何に困っているのかを一言で言えるようにしておいてください。
「兄が財産の内容を教えてくれない」「遺言の内容に納得できない」「借金があるかもしれない」。具体的であるほど、答えも具体的になります。
葬儀費用をめぐるトラブルのように、相続そのものとは別の論点で相談したい場合もあります。その場合は、契約書・見積書・請求書を持参してください。
まとめ
相続の弁護士費用について、覚えておくことは3つです。
- 全国一律の基準はない。事務所ごとに違います
- 基準は自分の相続分。遺産の総額ではありません
- 争いがあるかで判断する。なければ他の士業のほうが適していることも
旧日弁連報酬等基準は、目安として今も参照されています。着手金は経済的利益の8%から2%、報酬金は16%から4%。遺産分割では、争いのない部分を3分の1に圧縮して計算する。この枠組みが手がかりになります。
大切なのは、金額そのものより算定方法を理解したうえで比較することです。
まずは自分の状況が「争いあり」なのか「書類作成だけ」なのかを整理してから、相談先を選んでください。
