葬儀のことで弁護士に相談できること
裁判にするための相談ではありません。払うべき額を確かめる相談です
弁護士に相談する、と聞くと身構える方が多くいます。裁判にするための相談だと思われているためです。
実際の相談は違います。多くは、「この請求は払うべきものか」を確かめて終わります。
裁判にするかどうかは、確かめた後に決めれば足ります。
3つの場面で、確かめることが変わります
| 場面 | 確かめること |
|---|---|
| 契約する前 | 見積書と約款に問題がないか。何を書面で確認すべきか |
| 葬儀の後 | 請求額は妥当か。争える部分はどこか |
| 相続の場面 | 誰が負担するか。相続放棄に影響しないか |
順に見ていきます。
契約する前に相談する場合
いちばん実益が大きいのがこの段階です。争いになる前に防げます。
確かめるのは、次の点です。
問題があれば、契約前に書面で確認しておくよう助言します。この一手間で、後の争いのほとんどは防げます。
時間がない場合は、搬送と安置だけを先に頼み、葬儀の内容は改めて決めるという方法もあります。この分け方をすれば、確認の時間がつくれます。
葬儀の後に相談する場合
請求書を見て納得できない。この段階の相談がいちばん多くあります。
進め方は決まっています。
多くの場合、差額の大半は人数や日数で増えた分です。そこに、頼んだ覚えのない項目が少し混ざっています。
争えるのは後者だけです。ここを絞れると、交渉は短時間で終わります。
根拠となる考え方 — 頼んでいないものに支払義務はありません
契約は、内容を示した申込みに対して相手が承諾したときに成立します(民法522条1項)。書面がなくても口頭で成立します(同条2項)。
裏を返せば、申込みも承諾もない項目について、代金の支払義務は生じません。
説明が事実と違っていた場合には、契約を取り消せることがあります(消費者契約法4条1項1号、同条2項)。
約款の条項についても、消費者の利益を一方的に害するものは無効になり得ます(同法10条)。解約金は、事業者に実際に生じる平均的な損害を超える部分が無効です(同法9条1項1号)。
相続の場面で相談する場合
葬儀費用は、相続の手続きと深く関わります。判断を誤ると、後戻りできません。
| 相談内容 | 押さえどころ |
|---|---|
| 誰が負担するか | 葬儀社への支払義務と、家族の分担は別 |
| 故人の預金から出せるか | 相続放棄ができなくなるおそれ |
| 立て替えた分を求められるか | 合意の有無と、実質の持ち出し額 |
| 相続税でどこまで引けるか | 差し引ける費目と、そうでない費目 |
とくに2つ目です。故人の預金を使うと、遺産に手をつけたと評価され、相続放棄ができなくなることがあります。
相続放棄の期限は3か月です。故人に借金がある可能性があるなら、支払いの前に相談してください。
用意する資料
相談の時間を無駄にしないために、次のものを持ってきてください。
すべてそろっていなくても構いません。ある分だけで結構です。
あわせて、経緯を時系列で書いたメモがあると助かります。いつ、どこで、誰と話し、何を言われたか。箇条書きで十分です。
費用の考え方
相談の費用は事務所によって異なります。確認しておくべきは次の点です。
| 項目 | 確かめること |
|---|---|
| 相談料 | 時間あたりか、定額か |
| 依頼した場合の費用 | 着手金と報酬金の考え方 |
| 実費 | 郵送費、印紙代など |
争っている金額が小さい場合、代理交渉まで頼むと費用が見合わないこともあります。その場合でも、進め方だけ助言を受けて自分で交渉するという使い方ができます。
まずは相談だけ、という利用の仕方で問題ありません。
葬儀社の紹介・斡旋は行いません
このサービスでは、葬儀社を紹介したり斡旋したりすることはありません。葬儀社側から金銭を受け取ることもありません。
理由は2つあります。
ひとつは、法律上の制約です。弁護士が、資格のない者から事件の周旋を受けたり、名義を使わせたりすることは禁じられています(弁護士法27条)。
もうひとつは、助言の中立性です。紹介料を受け取れば、助言の内容が紹介先の利益と切り離せなくなります。
見積書を見て「他社と比べたほうがよい」「この項目は削って差し支えない」と率直に言えるのは、どの葬儀社とも利害関係がないからです。
候補の探し方や比べ方をお伝えすることはありますが、特定の会社へ誘導することはしません。
無料の窓口から始めても構いません
いきなり弁護士でなくても構いません。段階があります。
| 相談先 | 内容 | 費用 |
|---|---|---|
| 消費生活センター | 電話188。相談員が事業者との間に入る | 無料 |
| 弁護士 | 争える範囲と見込み、代理交渉 | 事務所による |
消費生活センターでは、相談員があっせんを行うことがあります。第三者が入ることで、それまで出てこなかった内訳が出てくることもあります。
ただし、代理人として交渉したり、訴訟を代理したりはできません。事業者が応じない場合や、法的な争点が正面から対立している場合は、弁護士の出番になります。
相談する目安
迷ったときの判断材料です。次のいずれかに当てはまれば、相談する価値があります。
- 説明を求めたのに、内訳を出してもらえない
- 見積書と請求書の差が、説明では埋まらない
- 「一式」としか書かれておらず、内容を確かめられない
- 家族の間で費用の負担がまとまらない
- 相続放棄を考えているが、葬儀費用をどう払うか迷っている
- 契約をやめたいが、高額な解約金を提示された
金額の大小は関係ありません。「聞いても答えてもらえない」こと自体が、相談する理由になります。
なお、こうした相談は珍しくありません。国民生活センターが2026年6月3日に公表した資料によると、葬儀サービスに関する相談は2025年度に917件、そのうち52.6%が料金に関するものでした。
相談で実際に整理されること
抽象的に聞こえるかもしれないので、実際の流れを挙げます。
まず、書類を並べます。契約書・見積書・請求書・約款。この4つを項目ごとに突き合わせるだけで、差額の出どころが見えます。
次に、増えた分を3つに分けます。人数や日数で増えた分、当日その場で頼んだ分、頼んだ覚えのない分。争えるのは3つ目だけです。
そして、金額を確定させます。「この◯円は払うべき、この◯円は説明を求めてよい」というところまで絞ります。
ここまで来れば、あとは伝え方の問題です。書面に書く4つの要素(対象・理由・求めること・払う分)をお伝えして、自分で送っていただくこともできます。
代理で交渉することもできますが、多くの場合、ここまでの整理で解決します。
家族の間の話し合いも対象です
葬儀費用の相談には、葬儀社とのことだけでなく、家族の間のことも含まれます。
| よくある相談 | 整理する内容 |
|---|---|
| 兄弟が費用を出してくれない | 合意の有無、実質の持ち出し額、請求の根拠 |
| 喪主が総額を明かさない | 香典の記録、費用の内訳の共有 |
| 遺産分割とまとめて決めたい | 協議書への書き方 |
| 誰が負担するのが筋なのか | 裁判例の考え方と、合意で決められる範囲 |
法律に「誰が払う」という決まりがないため、最後は話し合いになります。ただし、事実と数字を整理すれば、話し合いは進みます。
とくに、香典の総額と公的給付を引いた実質額を出すこと。ここができていないまま議論している例が、とても多くあります。
相続放棄を考えているなら、支払いの前に
判断を誤ると取り返しがつかない場面が、ひとつだけあります。相続放棄です。
故人に借金がある、事業をしていた、連帯保証をしていた。こうした事情があるなら、葬儀費用の支払い方に注意が必要です。
根拠となる考え方 — 遺産に手をつけると放棄できなくなる
相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号)。単純承認になれば、相続放棄はできません。
もっとも、大阪高等裁判所平成14年7月3日決定(家庭裁判月報55巻1号82頁)は、相当な範囲の葬儀費用の支出について、相続財産の処分にあたらないとしました。
ただし金額や使い道によって判断が分かれます。放棄の期限は、自分が相続人になったことを知った時から3か月です(民法915条1項)。
安全なのは、資金の出どころを分けることです。香典、公的給付、相続人自身のお金であれば、放棄への影響は生じにくくなります。
故人の預金に手をつける前に相談してください。この順番だけは、後から変えられません。
相談のタイミングで変わること
同じ内容でも、相談する時期によってできることが変わります。
契約前なら、条件そのものを直せます。葬儀の後なら、争える範囲を絞る作業になります。支払った後でも、返還を求めることは可能です。
早いほど選択肢は多く残ります。迷った段階で一度確かめておくと、後の判断が楽になります。
費用の相場も判断材料になります
高いか安いかを考えるとき、目安があると話が早くなります。
調査による平均は、一般葬122.01万円、家族葬96.39万円、一日葬74.43万円、直葬・火葬式49.56万円、全体で96.73万円です。
この金額にお布施は含まれていません。別枠で用意するものと考えてください。
調査では、葬儀のお布施は20万円から50万円の範囲が中心とされています。地域と寺院による幅が大きい費目です。
