デジタル遺品とサブスクの解約|放置すると課金が続く仕組み
亡くなっても契約は終わりません。カードを止める前に、各サービスの解約が先です
故人が契約していた動画配信、音楽配信、クラウドストレージ。
これらは、亡くなったことで自動的に終了するわけではありません。
契約上の地位は相続人に承継されるのが原則です。解約の手続きをとるまで、課金が続きます。
金額は小さくても、契約数が多いと積み上がります。月1,000円のサービスが5つあれば、年間6万円です。
そして、順序を間違えると困ったことになります。カードを先に止めてはいけません。理由は後ほど説明します。
死亡で契約は終わりません
賃貸借や各種のサービス契約は、死亡によって当然に終了するものではありません。相続人がその地位を承継します。
したがって、解約の意思表示をしない限り、利用の有無にかかわらず料金が発生し続けます。
「使っていないのだから、請求されないだろう」とはなりません。
一方、契約の中には、利用者の死亡を終了事由とする定めを置いているものもあります。約款の内容によって扱いが分かれます。
いずれにせよ、放置してよいものではありません。相続人が承継した債務として、未払分の請求を受ける可能性があります。
根拠となる条文 — 契約上の地位の承継
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りではありません。
契約は、内容を示した申込みに対して相手が承諾したときに成立します(民法522条1項)。書面がなくても、口頭で成立します(同条2項)。
したがって、サービス契約の解約も、相続人からの意思表示が必要になります。何もしなければ、契約は存続します。
契約を洗い出す方法
故人がどのようなサービスを契約していたか。次の手がかりから調べられます。
| 手がかり | 分かること |
|---|---|
| クレジットカードの利用明細 | 毎月定額の引落しが並びます |
| 銀行口座の引落し履歴 | 同上 |
| スマートフォンのアプリ一覧 | 契約している可能性のあるサービス |
| メールの受信箱 | 利用明細や更新通知が届いています |
| キャリア決済の明細 | 携帯料金と一緒に引き落とされている分 |
とくに有効なのが、カードの利用明細です。
定額のサービスは、同じ金額が毎月計上されます。3か月分を並べて、共通する金額を拾えば一覧ができます。
年払いのサービスもありますので、できれば1年分さかのぼってください。
メールの検索も有効です。「ご請求」「更新」「サブスクリプション」といった語で検索すると、契約の通知が見つかります。
カードや口座を止める前に
順序として、いちばん注意していただきたい点です。
クレジットカードや銀行口座を先に止めてしまうと、どうなるか。
決済手段を止めると、サービス側からは「支払いの滞納」として扱われます。
契約自体は残ったままですから、未払金が積み上がります。そして、後から一括で請求されることがあります。
正しい順序は、こうです。
- 各サービスの解約を済ませる
- そのうえで、カードの解約や口座の手続きに進む
逆にすると、余計な手間と費用が生じます。
もっとも、口座は金融機関が死亡を知った時点で凍結されます。こちらは自分で選べません。
凍結された場合は、引き落としが止まります。その時点で、サービス側から督促が来ることになります。慌てずに、順に解約を進めてください。
解約手続きの進め方
サービスごとに手続きは異なりますが、おおむね次の流れです。
- サービスの問い合わせ窓口に、契約者が亡くなったことを連絡する
- 求められた書類を提出する
- 解約日と、未払分・返金の有無を確認する
求められる書類は、次のようなものです。
海外事業者のサービスでは、専用のフォームからの申請になることが多くなっています。日本語での対応がない場合もあります。
そして、注意点があります。
アカウントの削除と、契約の解約が別の手続きになっていることがあります。
アカウントを消しただけでは課金が止まらない、ということが起こり得ます。課金が止まったかを、翌月の明細で必ず確認してください。
死亡診断書のコピーは、各種手続きで繰り返し必要になります。役所に提出する前に、5枚から10枚は取っておいてください。
相続放棄を検討している場合
ここは、慎重に進めてください。
故人名義のアカウントを操作したり、残高やポイントを使ったり、デジタル資産を移転したりすると、相続財産の処分にあたると評価されるおそれがあります。
そうなると、後から相続放棄ができません。
一方、解約手続きそのものは、財産を処分する行為とは性質が異なります。ただし、内容によっては判断が分かれます。
放棄を検討している段階では、必要最小限の対応にとどめ、判断に迷う行為は避けてください。
根拠となる条文 — 相続放棄との関係
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続について単純承認、限定承認または放棄をしなければなりません(民法915条1項)。
相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます(同法921条1号)。ただし、保存行為はこの限りではありません。
限定承認または相続放棄をした後であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、私にこれを消費したときも、単純承認とみなされます(同条3号)。
生前にできる備え
自分の側で備えるなら、契約の一覧を残しておくのが最も確実です。
書いておくのは、次の3つです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| サービス名と金額 | 月額か年額か |
| 決済方法 | どのカード、どの口座か |
| 連絡先 | 問い合わせ窓口 |
IDとパスワードそのものを書き残すことには、セキュリティ上の問題があります。
紙で残せば、盗み見られる危険があります。データで残せば、流出の危険があります。
契約の存在が分かるリストがあれば、遺族は各社の窓口から手続きを進められます。IDやパスワードまで書く必要はありません。
エンディングノートに記載しておくのも、ひとつの方法です。保管場所を家族に伝えておいてください。
あわせて、スマートフォンのロック解除方法をどうするかも考えておいてください。
家族に伝えておく、信頼できる人に預ける、あるいはあえて残さない。どれを選んでも構いませんが、決めておくことが大切です。
パスワード管理アプリを使っている場合は、そのマスターパスワードの扱いも同じです。
解約する順番の目安
契約が多いと、どれから手をつけるか迷います。金額と手間で優先順位をつけてください。
先に解約するもの
| 種類 | 理由 |
|---|---|
| 月額の高いサービス | 放置したときの損失が大きい |
| 年払いで更新日が近いもの | 更新されると1年分かかる |
| 通信回線、携帯電話 | 基本料金が高い |
| 有料の会員サービス | 気づきにくい |
後回しでよいもの
| 種類 | 理由 |
|---|---|
| 無料のアカウント | 課金が発生しない |
| SNS | 追悼アカウントに移行できることがある |
| メールアドレス | 他の手続きの連絡先になっていることがある |
メールアドレスは、すぐに消さないでください。各サービスからの連絡や、手続きの確認メールが届きます。すべての解約が済んでから対応してください。
同じ理由で、故人のスマートフォンも、しばらく解約しないほうがよいことがあります。二段階認証のコードが届くためです。
ただし、携帯電話は基本料金がかかります。解約と保留のどちらを選ぶかは、契約数と料金を見て判断してください。
引き落としが止まった後の請求
口座が凍結されたり、カードを解約したりすると、サービス側から督促の連絡が来ます。
慌てないでください。次のように対応します。
- 契約者が亡くなったことを伝える
- 解約の手続きを進める
- 未払分がいくらかを確認する
- 支払い方法を相談する
未払分は、原則として支払うことになります。契約が存続していた期間の対価だからです。
ただし、次の点は確認してください。
- いつからいつまでの分か
- 死亡後の分が含まれていないか
- 解約日はいつになるか
約款で「死亡により契約が終了する」と定められている場合、死亡日以降の分は請求の根拠が弱くなります。約款を確認してみてください。
金額が大きい場合や、説明に納得できない場合は、消費生活センター(電話188)に相談できます。費用はかかりません。
相続放棄を検討している場合は、未払分を支払う前に確認してください。故人の債務を弁済する行為が、単純承認とみなされる場合があります。
自分の財産から払うのか、故人の財産から払うのか。ここでも、出どころが問題になります。
まとめ
デジタル遺品とサブスクについて、覚えておくことは3つです。
- 死亡では終わらない。解約するまで課金が続きます
- 順序を守る。カードや口座を止める前に、各サービスを解約します
- 明細から洗い出す。カードの利用明細を1年分さかのぼってください
金額は小さくても、放置すると積み上がります。気づいたときには、まとまった額の請求が来ていることがあります。
相続放棄を検討している場合は、アカウントの操作が相続財産の処分と評価されないよう、必要最小限の対応にとどめてください。判断に迷う場合は、動く前に確認してください。
