喪主の決め方と順位|法律上の決まりはあるか
法律に決まりはありません。誰が払うかは、契約書に署名した人で決まります
「長男だから、あなたが喪主でしょう」
そう言われて、このページを開いたかもしれません。
先に結論を言います。喪主に法律上の決まりはありません。誰が務めるかを定めた条文はなく、慣習として順序が語られているだけです。
そしてもうひとつ大切なこと。喪主になったからといって、当然に葬儀費用の全額を負担する義務が生じるわけではありません。
支払義務を負うのは、契約書に署名した人です。喪主と契約者は、分けて決められます。
喪主を定めた法律はありません
葬儀の形式や主宰者について定めた法律は、存在しません。
国が関わるのは、死亡届と火葬の許可の部分だけです。
死亡届については、届出義務者の順序が定められています。ただし、その順序にかかわらず届け出ることができます。
そして、この「届出義務者」は喪主とは別の概念です。届出人が喪主である必要はありません。
つまり、喪主は遺族が話し合って決めるものです。
葬儀社が「喪主はどなたですか」と尋ねるのは、契約の相手方と当日の代表者を確認するためです。法的な地位を確定させるためではありません。
根拠となる条文 — 死亡届の届出義務者
死亡の届出は、次の者が順序にかかわらず届け出ることができます(戸籍法87条1項)。第一に同居の親族、第二にその他の同居者、第三に家主、地主または家屋もしくは土地の管理人です。
同居の親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人、任意後見人および任意後見受任者も、死亡の届出をすることができます(同条2項)。
死亡の届出は、届出義務者が死亡の事実を知った日から7日以内にしなければなりません(同法86条1項)。
慣習上の順序
法律の定めがない以上、実務では次のような順序が目安とされています。
- 配偶者
- 長男、次男以下の男子
- 長女、次女以下の女子
- 故人の両親
- 故人の兄弟姉妹
ただし、これはあくまで慣習です。地域や家庭によって違います。
実際には、次のような例が珍しくありません。
- 配偶者が高齢で当日の対応が難しいため、子が務める
- 故人が独身で親も亡くなっているため、甥や姪が務める
- 内縁の配偶者が務める
この順序に従わなければならない理由はありません。当日きちんと動ける人が務めるのが、いちばん現実的です。
祭祀承継者との違い
混同されやすいのが、祭祀承継者です。
これは法律上の制度で、系譜・祭具・墳墓を引き継ぐ人を指します。
| 用語 | 何を指すか |
|---|---|
| 系譜 | 家系図 |
| 祭具 | 仏壇、位牌 |
| 墳墓 | 墓石、墓地の使用権 |
これらは通常の相続財産とは切り離され、相続分による分割の対象になりません。
祭祀承継者は、次の順で決まります。
- 故人の指定があれば、その人
- 指定がなければ、慣習に従う
- 慣習が明らかでなければ、家庭裁判所が定める
喪主とは別のものです。同じ人が務めることが多いのですが、一致させる必要はありません。
葬儀の喪主を務めた人が、当然に祭祀承継者になるわけでもありません。
お墓の承継や納骨をめぐって親族間で意見が分かれる場合、この区別が問題になります。話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所の手続きを利用できます。
根拠となる条文 — 民法897条
系譜、祭具および墳墓の所有権は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継します(民法897条1項)。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継します。
慣習が明らかでないときは、これらを承継すべき者は家庭裁判所が定めます(同条2項)。
これらの財産は、相続財産とは区別して扱われるため、法定相続分による分割の対象になりません。
喪主と費用負担は、別の問題です
「喪主になると全額払うことになるのか」という不安から、引き受けをためらう方がいます。
ここは分けて考えてください。
葬儀社に対する関係
契約の当事者になれば、支払義務を負います。
基準になるのは、契約書に署名した人が誰かです。その人が喪主と呼ばれていたかどうかは関係ありません。
逆に、喪主として当日の挨拶をしただけで、契約者になっていなければ、契約上の支払義務は生じません。
請求書が自分宛てに届いても、それだけでは判断できません。まず申込書の署名欄を確認してください。
相続人の間の負担
では、家族の中で誰が最終的に負担するのか。
これについて、明文の規定はありません。裁判例の判断も一様ではありません。
| 裁判例の考え方 | 内容 |
|---|---|
| 喪主が負担する | 葬儀を主宰した人が負担すべきとする |
| 相続人が分担する | 相続人が法定相続分などで分けるとする |
| 相続財産から支出する | 遺産の中から支払うべきとする |
事案の事情によって、結論が分かれています。一律の答えはありません。
だからこそ、先に決めておくことが大切です。決めたことは、メールでも構わないので文字にしてください。
根拠となる条文 — 葬式費用の先取特権
葬式の費用のうち相当な額については、債務者の総財産の上に先取特権が認められています(民法306条4号、309条1項)。
これは、債務者のために行われた葬式の費用のうち相当な額について存在します。債務者がその扶養すべき親族のために行った葬式の費用のうち相当な額についても同様です(同条2項)。
法律も、葬式費用を特別に扱っていることが分かります。
喪主が実際にすること
喪主の役割は、次のような実務です。
| 役割 | 内容 |
|---|---|
| 打ち合わせ | 葬儀社との打ち合わせと契約 |
| 決定 | 日程と形式の決定 |
| 連絡 | 親族や関係先への訃報の連絡 |
| 宗教者への依頼 | 菩提寺への連絡と手配 |
| 挨拶 | 通夜・告別式での挨拶 |
| 対応 | 参列者への対応 |
| 精算 | 費用の精算 |
これらを一人で抱える必要はありません。
連絡係、受付、会計を分担すれば、負担は大きく減ります。
とくに費用に関わる判断は、他の相続人と共有しておいてください。
後で立て替え分を精算する可能性があります。事後に「聞いていない」という食い違いが生じると、立替分の請求が難しくなることがあります。
支払いのたびに、日付・相手・金額・名目・払った人をメモに残してください。これが後で効いてきます。
引き受け手がいない場合
親族が高齢である。疎遠になっている。遠方に住んでいる。そうした理由で、誰も喪主を引き受けられないことがあります。
この場合、次のような対応が取られます。
- 親族のうち連絡が取れる人が、当日の代表としてだけ務める
- 葬儀社に進行と挨拶の代行を依頼する(挨拶を省略する形式もあります)
- 故人が入所していた施設や、成年後見人が対応にあたる
法律上、喪主を立てなければ葬儀ができないという規定はありません。火葬に必要なのは、死亡届と火葬許可証だけです。
埋葬や火葬を行う者がないとき、または判明しないときは、死亡地の市町村長がこれを行うこととされています。
施主との違い
喪主とは別に「施主」という言葉が使われることがあります。
施主は、費用を負担する人を指す慣習上の呼び方です。
| 意味 | 法律上の定義 | |
|---|---|---|
| 喪主 | 葬儀を主宰する人 | なし |
| 施主 | 費用を負担する人 | なし |
| 契約者 | 葬儀社と契約した人 | 契約の当事者 |
社葬では、会社が施主、遺族の代表が喪主となる形が取られます。個人の葬儀では、喪主が施主を兼ねるのが一般的です。
こちらも法律上の定義はありません。葬儀社が使う意味を確認しておくと、誤解が避けられます。
契約書の契約者欄に誰の名前が入るか。支払義務を考えるうえでの出発点は、そこです。
引き受ける前に決めておく4つのこと
喪主を引き受けるなら、その前に家族で決めておいてほしいことがあります。後の争いを避けられます。
参考までに、株式会社鎌倉新書の「第7回 お葬式に関する全国調査」(2026年)による平均額を挙げておきます。
| 形式 | 平均 |
|---|---|
| 一般葬 | 122.01万円 |
| 家族葬 | 96.39万円 |
| 一日葬 | 74.43万円 |
| 直葬・火葬式 | 49.56万円 |
全体の平均は96.73万円です。この金額にお布施は含まれていません。別に用意するものと考えてください。
金額の見当がついていると、当日の判断がまったく変わります。「おまかせします」と言ってしまう場面が減ります。
香典の管理も、先に決めておいてください。誰が受け取り、総額をどう記録するか。ここが曖昧だと、後の精算で必ず問題になります。
「喪主なのだから」と言われたとき
葬儀社から「喪主なのだから払ってください」と繰り返し言われることがあります。対応の考え方を整理しておきます。
まず、感情的に応じる必要はありません。確かめるのは事実だけです。
「契約者はどなたになっていますか。申込書の写しをいただけますか」
契約者が自分でなければ、その旨を伝えれば足ります。契約者が自分であれば、次は金額の当否に話が移ります。
督促を受けている場合でも、争いのない分を先に払うことで立場は保てます。全額を止めると遅延損害金がつき、相手が法的手続に進む動機にもなります。
やり取りは電話ではなく、メールなど記録の残る方法に切り替えてください。何を言われ、何と答えたのかが残ります。
親族から「長男が払うべきだ」と言われた場合も、考え方は同じです。誰が最終的に負担するかについて、法律に明文の規定はありません。話し合いで決める事柄です。
立て替えた分を後から求めることもできます。そのためには記録が要ります。誰が何をいくら払ったか、香典をいくら受け取り何に充てたかを、領収書とともに残しておいてください。
話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所の調停を使う方法もあります。まずは資料をそろえて相談してください。
まとめ
喪主について、覚えておくことは3つです。
- 法律上の決まりはない。慣習として順序が語られているだけです
- 費用負担とは別。支払義務を負うのは、契約書に署名した人です
- 祭祀承継者とも別。お墓を引き継ぐ人と一致させる必要はありません
引き受けるかどうかを迷っているなら、契約者を誰にするかを分けて決めてください。資金を出す人が契約者になるほうが、後の精算は単純になります。
誰が喪主を務めるかで揉めそうなとき、立て替えた費用の精算で意見が分かれるとき。どちらも、早い段階で相談してください。整理さえつけば、選べる方法は残っています。
