喪主の決め方と順位|法律上の決まりはあるか
法律上の決まりはない。祭祀承継者との違いと、契約者との関係を整理する
喪主に法律上の決まりはありません。 誰が喪主を務めるかを定めた条文はなく、慣習として順序が語られているにすぎません。したがって配偶者でも子でも、あるいは親族以外でも務めることができます。混同されやすいのが、民法897条が定める祭祀承継者です。こちらは法律上の制度ですが、喪主と同じ人でなければならないという定めはありません。また、喪主になったからといって当然に葬儀費用の全額を負担する義務が生じるわけでもありません。順に整理します。
喪主を定めた法律はない
葬儀の形式や主宰者について定めた法律は存在しません。国が関与するのは、死亡届(戸籍法86条)と火葬の許可(墓地、埋葬等に関する法律5条)の部分だけです。
死亡届については届出義務者の順序が定められており、第一が同居の親族、第二がその他の同居者、第三が家主・地主または家屋もしくは土地の管理人とされています(戸籍法87条1項)。ただし同項ただし書により、この順序にかかわらず届け出ることができます。この「届出義務者」は喪主とは別の概念で、届出人が喪主である必要はありません。
つまり喪主は、遺族が話し合って決めるものです。葬儀社が「喪主はどなたですか」と尋ねるのは、契約の相手方と当日の代表者を確認するためであって、法的な地位を確定させるためではありません。
慣習上の順序
法律の定めがない以上、実務では次のような順序が目安とされています。
- 配偶者
- 長男、次男以下の男子
- 長女、次女以下の女子
- 故人の両親
- 故人の兄弟姉妹
ただしこれはあくまで慣習であり、地域や家庭によって異なります。配偶者が高齢で当日の対応が難しい場合に子が務める、故人が独身で親も亡くなっている場合に甥や姪が務める、といった例は珍しくありません。
身寄りがない場合は、事実上の関係者や施設が対応することもあります。埋葬や火葬を行う者がないとき、または判明しないときは、死亡地の市町村長がこれを行わなければならないと定められています(墓地、埋葬等に関する法律9条1項)。
祭祀承継者との違い
民法897条1項は、系譜・祭具および墳墓の所有権について、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継すると定めています。ただし被相続人の指定に従って祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継します。慣習が明らかでないときは、家庭裁判所が定めます(同条2項)。
ここでいう系譜は家系図、祭具は仏壇や位牌、墳墓は墓石や墓地の使用権を指します。これらは通常の相続財産とは切り離され、相続分による分割の対象になりません。
祭祀承継者は法律上の地位で、家庭裁判所の審判で決めることもできます。一方、喪主は慣習上の役割です。同一人物が務めることが多いものの、法律上は別のものです。葬儀の喪主を務めた人が、当然に祭祀承継者になるわけでもありません。
墓の承継や納骨をめぐって親族間で意見が分かれる場合、この区別が問題になります。話し合いがまとまらないときは家庭裁判所の手続きを利用できます。
喪主と費用負担は別の問題
「喪主になると全額払うことになるのか」という不安から、喪主を引き受けることをためらう方がいます。ここは分けて考える必要があります。
葬儀社との契約の当事者になれば、契約上の債務者として支払義務を負います。契約書に署名した人が誰かが基準になり、その人が喪主と呼ばれていたかどうかは関係ありません。逆に、喪主として当日の挨拶をしただけで契約者になっていなければ、契約上の支払義務は生じません。
では相続人同士の内部の負担はどうか。葬儀費用を誰が最終的に負担するかについて明文の規定はなく、裁判例の判断も一様ではありません。喪主が負担するとした裁判例、相続人が分担するとした裁判例、相続財産から支出すべきとした裁判例があり、事案の事情によって結論が分かれています。
なお民法306条4号および309条は、葬式の費用のうち相当な額について先取特権を認めており、法律も葬式費用を特別に扱っていることが分かります。この論点は葬儀費用は誰が払うのか|法律上の定めと裁判例を弁護士が解説と喪主に葬儀費用の支払い義務はあるか|弁護士が法的な考え方を解説で詳しく扱っています。
喪主が実際にすること
喪主の役割は、次のような実務です。
- 葬儀社との打ち合わせと契約
- 日程と形式の決定
- 親族や関係先への訃報の連絡
- 宗教者への依頼と連絡
- 通夜・告別式での挨拶
- 参列者への対応
- 費用の精算
これらを一人で抱える必要はありません。連絡係、受付、会計を分担すれば負担は大きく減ります。とくに費用に関わる判断は、後で立て替え分を精算する可能性を考えて、他の相続人と共有しておくことをおすすめします。 事後に「聞いていない」という食い違いが生じると、立替分の請求が難しくなることがあります。
立て替えた費用を他の相続人に請求する方法は葬儀費用を兄弟に請求できるか|立替分の回収方法で解説しています。
引き受け手がいない場合
親族が高齢である、疎遠になっている、遠方に住んでいるなどの理由で、誰も喪主を引き受けられないことがあります。この場合、次のような対応が取られます。
- 親族のうち連絡が取れる人が、当日の代表としてだけ務める
- 葬儀社に進行と挨拶の代行を依頼する(挨拶を省略する形式もあります)
- 故人が入所していた施設や、成年後見人が対応にあたる
法律上、喪主を立てなければ葬儀ができないという規定はありません。火葬に必要なのは死亡届と火葬許可証だけです。埋葬や火葬を行う者がないとき、または判明しないときは、死亡地の市町村長が行うこととされています(墓地、埋葬等に関する法律9条1項)。
施主との違い
喪主とは別に「施主」という言葉が使われることがあります。施主は費用を負担する人を指す慣習上の呼び方で、社葬では会社が施主、遺族の代表が喪主となる形が取られます。個人の葬儀では喪主が施主を兼ねるのが一般的です。
こちらも法律上の定義はないため、葬儀社が使う意味を確認しておくと誤解が避けられます。契約書の契約者欄に誰の名前が入るかが、支払義務を考えるうえでの出発点になります。
まとめ
喪主に法律上の決まりはなく、慣習として配偶者や子が務めることが多いというにとどまります。祭祀承継者を定める民法897条は別の制度で、喪主と一致させる必要はありません。費用負担についても、喪主だから全額を負う、という決まりはなく、契約の当事者が誰かと、相続人間でどう分担するかを分けて考える必要があります。誰が喪主を務めるかで揉めそうな場合や、立て替えた費用の精算で意見が分かれる場合は、早い段階で相談しておくと解決の選択肢が広がります。
