内容証明郵便で葬儀費用を請求する

強制力はありません。それでも送る意味は、記録と時効の猶予にあります

内容証明郵便で葬儀費用を請求する

話し合いで進まない。次の手として内容証明郵便があります。

ただし、誤解されがちです。内容証明を送っても、相手に支払う義務が生じるわけではありません。

それでも送る意味はあります。記録が残ること、そして時効の進行を一時的に止められることです。

内容証明でできること・できないこと
内容証明でできること・できないこと(作図: 弁護士による葬儀ガード)

何ができて、何ができないか

先に整理しておきます。

できることできないこと
いつ何を求めたかを証拠に残す相手に支払いを強制する
6か月間、時効の完成を猶予させる財産を差し押さえる
裁判で経緯を示す資料になる相手を処罰する

配達された事実まで証明するには、配達証明を付けます。実務では「配達証明付き内容証明郵便」として使うのが通常です。

過度な期待はしないでください。応じるかどうかは、あくまで相手次第です。

送る場面

葬儀に関して使われるのは、主に次の場面です。

場面求める内容
頼んでいない項目の代金を払った返金
解約金を払いすぎた差額の返還
立て替えた費用を家族に求める求償
クーリングオフの通知契約の解除

最後の場合は、はがきでも足ります。ただし金額が大きいときは、内容証明で送っておくと確実です。

時効との関係

内容証明を送るいちばんの実益が、ここにあります。

根拠となる条文 — 催告による時効の完成猶予

権利についての催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間、時効は完成しません(民法150条1項)。

ただし、催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、この効力を持ちません(同条2項)。猶予は一度きりです。

その6か月の間に、訴訟の提起や支払督促の申立てなど、時効の完成猶予・更新の効力がある手続きに進む必要があります。

なお、債権は、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年で時効により消滅します(民法166条1項)。

2020年4月1日施行の改正前にあった、葬式費用の2年の短期消滅時効(改正前170条2号)は廃止されています。

つまり、時効が迫っているときの時間稼ぎとして使えます。ただし、その6か月で次の手を打たなければ意味がありません。

書式のルール

内容証明には、文字数と行数の制限があります。

書き方制限
縦書き1行20字以内・1枚26行以内
横書き1行26字以内・1枚20行以内
横書き1行13字以内・1枚40行以内
横書き1行20字以内・1枚26行以内

句読点や記号も1字と数えます。1枚に収まらなければ、複数枚にして綴じます。

同じ文書を3通用意します。1通を相手に送り、1通を郵便局が保管し、1通を差出人が控えとして持ち帰ります。

差出人と受取人の住所氏名は、文書の中にも書いてください。図表や写真は入れられないため、資料を送りたい場合は別便にします。

図で整理: 文書に書く6つの項目
図で整理: 文書に書く6つの項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

書くべき項目

葬儀費用に関する内容証明では、次の項目を漏らさず書きます。

いちばん大切なのは、金額と根拠を特定することです。

「高すぎるので返してほしい」ではなく、次のように書きます。

「◯月◯日付ご請求書に記載の◯◯費◯円について、◯月◯日付お見積書に記載がなく、追加のご依頼をした事実もございません。したがいまして、同額のご返金を求めます」

感情的な表現や、事実と異なる決めつけは書かないでください。相手の態度を硬化させ、後の交渉が難しくなります。

送る前に確認すること

出してしまってからでは直せません。次の点を確かめてください。

確認事項内容
宛先法人なら登記上の商号と本店所在地
資料の裏づけ書く事実は、資料で裏づけられるものに限る
金額概算ではなく、内訳を積み上げて確定させる
時効の残り猶予は6か月。次の手続きに進めるか
段階通常の書面で求めたか。いきなりでは唐突

屋号と登記上の名称が違うことがあります。法人番号公表サイトや登記情報で確かめられます。

また、内容証明はあくまで次の段階です。まずは通常の書面やメールで求めるほうが穏当です。

送った後の流れ

相手から連絡が来るか、無視されるかのどちらかです。

応じてもらえた場合は、返金の時期と方法を書面で確認してください。口頭の約束だけでは、また同じことになります。

応じてもらえない場合は、次の段階に進みます。

段階内容費用
消費生活センター電話188。相談員が間に入る無料
少額訴訟60万円以下なら原則1回で終わる数千円〜
支払督促相手が争わない見込みのとき数千円〜
通常訴訟・調停金額が大きい、争点が複雑事案による

猶予の6か月を意識してください。何もしないまま過ぎると、時効が完成してしまう可能性があります。

内容証明を送る前 — 確認する項目
内容証明を送る前 — 確認する項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

弁護士名で送る場合

自分の名前で送るか、弁護士に依頼するかで、相手の受け止め方は変わります。

弁護士名で届くと、相手は「本気で争う姿勢がある」と受け取ります。それだけで対応が変わることもあります。

一方、費用がかかります。請求額が小さい場合は、文面だけ確認してもらい、自分の名前で送るという使い方もできます。

どちらにしても、送る前に文面を見てもらうと安心です。金額の特定や根拠の書き方に不備があると、後の手続きで不利に働くことがあります。

送る前に、まず明細を求めてください

いきなり内容証明を出す前に、順序があります。

金額と根拠を特定するには、内訳が要ります。「葬儀一式」としか書かれていない請求書では、何をいくら請求するのか書けません。

根拠となる条文 — 明細を求めるのは正当です

お金を払う側は、支払いと引き換えに受取証書(領収書)の交付を求めることができます(民法486条1項)。

支払いの前提として、何にいくらかかったのかの説明を求めることも、この延長にある正当な要求です。

求め方は具体的にしてください。

「各項目について、数量と単価が分かる明細をご提示いただけますか」

明細が出たら、当初の見積書と項目ごとに並べます。差額の出どころが特定できて初めて、請求する金額が決まります。

この作業を飛ばして内容証明を出すと、金額が曖昧なまま送ることになり、説得力を欠きます。

立て替えた費用を家族に求める場合

葬儀社ではなく、他の相続人に対して送ることもあります。この場合、書く内容が少し変わります。

総額のまま請求しないでください。香典と公的給付を引いた実質額を示すほうが、はるかに納得を得やすくなります。

なお、葬儀費用を誰が負担するかについて、民法に明文の定めはありません。裁判例も分かれています。事前の合意があるなら、その事実を明記してください。

家族に内容証明を送ることには、関係を悪化させる面もあります。まず通常の書面やメールで求め、それでも進まない場合の手段と考えてください。

クーリングオフの通知として使う場合

契約をやめる通知にも使えます。この場合は、書く内容が変わります。

根拠となる条文 — 8日間の解除

訪問販売にあたる場合、法定の書面を受け取った日から数えて8日を過ぎるまで、書面や電磁的記録で申込みの撤回や契約の解除ができます(特定商取引法9条1項)。

事業者は損害賠償や違約金を請求できません(同条3項)。

効果は発信した時点で生じます。8日以内に出していれば、相手に届いたのが9日目でも有効です。

書くのは、契約日、自分の氏名住所、事業者名、契約内容、金額、そして「上記の契約を解除します」という意思表示です。理由は書かなくて構いません。

はがきに書いて特定記録郵便や簡易書留で送る方法が一般的ですが、金額が大きい場合は内容証明のほうが確実です。

出す前に、はがきや文書の両面をコピーしてください。郵便局の受領証とあわせて保管します。

送り方の実際

窓口で差し出す場合の流れです。

すべての郵便局で扱っているわけではありません。事前に確認してから行ってください。

封筒に封をしないのは、窓口で内容を照合するためです。訂正が必要になることもあるので、印鑑を持参すると安心です。

控えは、後の手続きでそのまま証拠になります。受領証や配達証明のはがきとあわせて、まとめて保管してください。

相手が法人か個人かで宛先が変わります

法人に送る場合は、登記上の商号と本店所在地を宛先にします。屋号と登記上の名称が違うことがあり、間違えると効果が薄れます。

代表者名まで書いておくと確実です。法人番号公表サイトや登記情報で確認できます。

個人事業の場合は、屋号ではなく個人名を宛先にします。契約書に記載された名義を確かめてください。

宛先を誤って届かなかった場合、催告の効果も生じません。出す前に必ず確認してください。

送るタイミング

支払期限が迫っている場合や、時効が近い場合は、早めに出してください。

一方、まだ通常のやり取りで進む余地があるなら、先にメールで求めるほうが穏当です。段階を踏んだ経緯も、後の手続きで意味を持ちます。