「説明と違う」で葬儀契約を取り消せるか

高かったから、では取り消せません。事実と違う説明を受けたかどうかが分かれ目です

「説明と違う」で葬儀契約を取り消せるか

「このプランで収まります」と言われたのに、請求は倍だった。取り消せないのか。

法律には、そういう場合の制度があります。ただし、使えるのは「説明が事実と違った」ときです。

高かった、思っていた内容と違った、というだけでは足りません。どの型にあてはまるかを先に確かめてください。

取り消せるのは「説明が事実と違った」とき
取り消せるのは「説明が事実と違った」とき(作図: 弁護士による葬儀ガード)

まず、2つの型のどちらかを確かめる

制度は大きく2つに分かれます。葬儀で使うのは、ほぼ前者です。

型どんな場合か
誤認説明を信じて、事実を誤って理解した
困惑帰ってくれない、帰らせてもらえない等で困った

誤認の型は、さらに3つに分かれます。

種類具体例
事実と違うことを言われた「追加料金は一切かかりません」
不確かなことを断定された「この人数なら必ずこの金額で収まります」
不利なことを言われなかった火葬料と式場代が別途必要だと伝えられなかった

葬儀の相談でもっとも多いのは、1つ目と3つ目です。

「事実と違うことを言われた」場合

いちばん分かりやすい型です。

根拠となる条文 — 不実告知

事業者が勧誘に際し、重要な事項について事実と異なることを告げ、消費者がそれを事実だと誤解して契約したときは、契約を取り消せます(消費者契約法4条1項1号)。

「重要な事項」とは、その商品や役務の内容、対価その他の取引条件で、契約するかどうかの判断に通常影響するものを指します(同条5項)。

葬儀でいえば、プランに含まれる範囲、総額、追加費用の有無がこれにあたります。

なお、事業者に故意や落ち度があったことは要件ではありません。担当者が誤解して説明した場合でも、告げた内容が事実と違えば要件を満たし得ます。

「このプランに全部含まれています」と言われたのに、火葬料も式場代も別途だった。こうした場合が該当します。

「不利なことを言われなかった」場合

葬儀の実態に、もっともよく合う型です。

根拠となる条文 — 不利益事実の不告知

事業者が、重要な事項について消費者の利益になることを告げながら、不利益になる事実を故意または重大な過失によって告げなかったため、消費者がその事実がないと誤解して契約したときは、取り消せます(消費者契約法4条2項)。

ここでは、事業者の故意または重大な過失が必要です。単に説明を忘れただけでは足りません。

もっとも、費用の構造は事業者にとって基本的な事柄です。含まれない費目の説明を省いたという事実自体が、重大な過失を推認させる方向に働き得ます。

「この価格で一通りそろいます」という利益の話はあったのに、「ただし火葬料と式場代は別です」という話がなかった。この形です。

取り消すと、どうなるか

取消しが認められると、契約は最初からなかったことになります。ただし葬儀の場合、そこに問題が残ります。

状況扱い
まだ施行前支払った金銭の返還を求められる
すでに施行済み提供された役務を返せない

祭壇を設営し、通夜と告別式を行い、火葬まで終わっている。この状態で契約を取り消しても、役務は返せません。

そこで、受けた役務の価値をどう評価するかが争点になります。いくらと見るかは、事案ごとの判断です。

だから実務では、契約全体を取り消すより、争いのある項目に絞るほうが早く片づきます。

図で整理: 全体を取り消すより、項目を絞るほうが早い
図で整理: 全体を取り消すより、項目を絞るほうが早い(作図: 弁護士による葬儀ガード)

期限があります

取消権には期限があります。過ぎると使えません。

起算点期限
誤解していたと気づいた時1年
契約した時5年

「気づいた時」は、請求書を見て説明と違うと分かった時点になることが多くあります。

葬儀の場合、施行から請求書までは短いので、1年が問題になる場面は多くありません。ただし生前契約や互助会のように契約から時間が経つものでは、5年が効いてきます。

気づいた時点で、書面により取消しの意思を伝えておいてください。

証拠をどう集めるか

主張する側は、どんな説明を受けたかを示すことになります。ここが実務の難所です。

集めるもの何を示すか
チラシ・広告・サイトの表示説明の内容そのもの
パンフレットプランに含まれる範囲
担当者とのメール・メッセージ説明の時期と内容
見積書何が特定されていたか
契約書・約款説明と条項が整合しているか

とくに広告表示は有力です。後から変更されることがあるので、判断材料にしたものは日付が分かる形で保存してください。

電話でのやり取りしかない場合も、その日のうちに送ったメールがあれば裏づけになります。

もっと簡単な方法があるかもしれません

契約した場所によっては、説明の内容を立証しなくても解約できます。

契約した場所8日以内なら
自宅(担当者が来た)無条件でやめられます
病院・安置施設可能性があります
自分から会館に出向いた原則として対象外
根拠となる条文 — 8日間の解除

訪問販売にあたる場合、法定の書面を受け取った日から数えて8日を過ぎるまで、書面や電磁的記録で解除できます(特定商取引法9条1項)。理由は問われません。

事業者は損害賠償や違約金を請求できず(同条3項)、支払い済みのお金は返ってきます。

数え始めるのは契約日ではなく、書面を受け取った日です。書面に不備があれば、8日はまだ始まっていないと考えられています。

要件を満たすなら、こちらのほうがはるかに簡単です。説明の中身を証明しなくてよいからです。

まず手元の書面を確認してください。クーリング・オフについての記載があるか、それが赤枠・赤字になっているかを見ます。

条項そのものを争う方法もあります

説明ではなく、約款の中身が問題という場合もあります。取消権とは別の制度です。

争う対象使う規定
説明のしかた取消権(消費者契約法4条)
条項の中身不当条項の規制(同法8条〜10条)

「当社が必要と認めた費用は別途請求できる」といった、単価も計算方法も示さない条項は、消費者の利益を一方的に害するものとして無効になり得ます。

無効になるのはその条項だけで、契約そのものは残ります。支払うべき額を計算し直すことになります。

説明と違うと感じたとき — 動く前に確認しておきたい項目
説明と違うと感じたとき — 動く前に確認しておきたい項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

困惑の型が使える場面

数は多くありませんが、困惑の型が問題になることもあります。

自宅での打ち合わせで、断っているのに帰ってもらえなかった。勧誘の場から帰ろうとしたのに帰らせてもらえなかった。こうした場合です。

葬儀は多くの人にとって初めての経験で、判断の材料を持たないまま契約に臨むことになります。この状況自体が、検討の余地を生みます。

ただし要件は具体的に定められており、あてはまる場面は限られます。まず誤認の型で構成できないかを先に考えてください。

契約者が誰かも確かめてください

取消しの意思を伝えられるのは、契約した本人です。喪主であっても、契約者でなければ単独ではできません。

葬儀は臨終直後に進むため、その場にいた家族が申込書に署名していることがあります。まず署名欄を確かめてください。

家族の間で誰がいくら負担するかは、これとは別の問題です。葬儀社との関係と、家族内の分担は、分けて整理してください。

説明の食い違いを防ぐには

同じことを繰り返さないために、契約の段階でできることがあります。

口頭で説明を受けたら、その日のうちにメールで送っておいてください。

「本日うかがった内容は、◯◯という理解でよろしいでしょうか」

相手が返信すれば内容が確定します。返信がなくても、こちらの理解を伝えた事実は残ります。

支払いは全額を止めないでください

取消しを主張している間も、支払いの扱いには注意が必要です。

全額を止めると、争っていない分についても遅れたことになります。遅延損害金がつき、話も進みにくくなります。

争いのない分は先に払い、引っかかる項目だけ待ってもらう。これが実務でうまくいく形です。

伝えるときは、メールなど記録の残る方法で、次の4つを書いてください。

  • どの項目のいくらについてか
  • なぜ引っかかっているか
  • 何をしてほしいか(明細がほしい、説明がほしい)
  • 払う分はいつ払うか

払ってしまっても取り返せないわけではありません。義務のなかった分は、後から返還を求められます。

相談は無料の窓口から

自分のケースが該当するか分からない。それが普通です。

相談先内容費用
消費生活センター電話188。経緯を聞いて助言無料
弁護士使える構成と見込みを確かめる事務所による

国民生活センターが2026年6月3日に公表した資料に、次の事例があります。「家族葬50万円」の表示を見て依頼したところ、高額なプランを案内された。見積書に明細もなく、総額が200万円を超えた、というものです。

同じ資料によると、葬儀サービスに関する相談は2025年度に917件でした。うち52.6%が料金に関するものです。

こうした相談は特別なことではありません。説明を求めても答えてもらえないなら、それだけで相談する理由になります。