病院で紹介された葬儀社は断れます
紹介は決定ではありません。搬送だけ頼んで、葬儀は後から決められます
臨終の直後、病院から葬儀社を紹介される。断りづらい雰囲気があります。
でも、紹介は決定ではありません。その葬儀社に頼む義務はまったくありません。
そして、断らなくても済む方法があります。搬送だけを頼み、葬儀は後から決める。これで時間がつくれます。
断ってよい理由
病院が葬儀社を紹介するのは、遺体を長く霊安室に置けないためです。多くの病院で、数時間以内の移動を求められます。
紹介は、その事情に対応するための便宜です。どの葬儀社に依頼するかは、遺族が決めることです。
| よくある不安 | 実際は |
|---|---|
| 断ると病院に迷惑では | 迷惑にはなりません。よくあることです |
| 病院との関係が悪くなる | なりません。手続きは変わりません |
| 紹介された会社が安心では | 紹介と品質・価格は別の問題です |
| もう頼んだことになっている | 契約していなければ、なっていません |
紹介された会社が悪いということではありません。ただ、比べる機会がないまま決まってしまう構造には注意が必要です。
断りにくいときの言い方
正面から断らなくても構いません。次のように伝えれば足ります。
「ありがとうございます。まず搬送だけお願いできますか。葬儀の内容は家族と相談してから決めます」
これなら角が立ちません。搬送は急ぎ、葬儀の中身は急がない。それを分けるだけです。
すでに決めている会社がある場合は、こう伝えます。
「以前から相談している葬儀社があるので、そちらに連絡します」
理由を詳しく説明する必要はありません。断ることに理由は要らないからです。
搬送だけ頼むときに確認すること
搬送を依頼する場合も、費用の確認は必要です。次の4つを聞いてください。
安置は、火葬までの日数分だけ続きます。日額を知らないまま預けると、後から金額が読めなくなります。
火葬場の予約が取れないと、日数が延びます。都市部では数日先になることもあります。日額さえ分かっていれば、増える金額はその場で計算できます。
回答はメモに残し、できればその日のうちにメールで確認しておいてください。
「本日うかがった料金は、搬送◯円、安置料1日◯円、ドライアイス1回◯円という理解でよろしいでしょうか」
署名を求められたら
その場で書類を出されることがあります。何の書類かを必ず確かめてください。
| 書類 | 意味 |
|---|---|
| 搬送の依頼書 | 搬送のみの依頼 |
| 葬儀の申込書・契約書 | 葬儀一式の契約 |
| 見積書 | 金額の提示(署名で契約になる場合も) |
「搬送のつもりで署名したら、葬儀の契約書だった」という食い違いは、実際に起きています。
根拠となる考え方 — 書面がなくても契約は成立します
契約は、内容を示した申込みに対して相手が承諾したときに成立します(民法522条1項)。書面の作成は必要ではありません(同条2項)。
つまり、口頭で「お願いします」と言えば契約は成立し得ます。逆に、書面がないから契約していない、とも言えません。
だからこそ「どこまでを頼んだのか」を、その場ではっきりさせることが大切です。搬送だけなら、そう口にしてください。
署名する前に、一言確認すれば足ります。
「これは搬送だけの依頼書ですか。葬儀の契約とは別ということでよろしいですか」
自宅で契約した場合は、やめられることがあります
もし葬儀の契約まで進んでしまっても、場所によっては後からやめられます。
根拠となる条文 — 8日間の解除
訪問販売にあたる場合、法定の書面を受け取った日から数えて8日を過ぎるまで、書面や電磁的記録で解除できます(特定商取引法9条1項)。理由は問われません。
このとき、事業者は損害賠償や違約金を請求できません(同条3項)。
「営業所以外の場所」での契約が対象です。自宅、病院の霊安室や待合室、店舗ではない安置施設などが該当し得ます。
数え始めるのは契約日ではなく、書面を受け取った日です。書面に不備があれば、8日はまだ始まっていないと考えられています。
葬儀社の会館に自分から出向いて契約した場合は、原則として対象外です。判断の基準は、打ち合わせの場所ではなく署名した場所になります。
決めるまでの時間をつくる
搬送と安置が済めば、あとは落ち着いて選べます。使える時間は、思っているより長くあります。
| 手続き | 期限 |
|---|---|
| 火葬 | 亡くなってから24時間は行えません |
| 死亡届 | 亡くなったことを知った日から7日以内 |
| 葬儀社の決定 | 期限はありません |
火葬場の予約が数日先になることもあり、その間に比較できます。
見積もりを頼んでも、依頼する義務は生じません。作成は無料であることがほとんどです。
比べるときの目安
判断材料として、調査による平均額を挙げておきます。
| 形式 | 平均 |
|---|---|
| 一般葬 | 122.01万円 |
| 家族葬 | 96.39万円 |
| 一日葬 | 74.43万円 |
| 直葬・火葬式 | 49.56万円 |
全体の平均は96.73万円です。この金額にお布施は含まれていません。別に用意するものと考えてください。
見積もりを比べるときは、条件をそろえてください。参列者数、式場、通夜の有無、安置日数、火葬料の扱い。これらが違うと、総額を比べても意味がありません。
相談は無料の窓口から
契約してしまった後で不安になったときは、次の窓口があります。
| 相談先 | 内容 | 費用 |
|---|---|---|
| 消費生活センター | 電話188。契約の経緯を聞いて助言 | 無料 |
| 弁護士 | やめられるか、金額は妥当かを確かめる | 事務所による |
国民生活センターが2026年6月3日に公表した資料では、病院で紹介された葬儀社を利用した事例が相談として取り上げられています。
同じ資料によると、葬儀サービスに関する相談は2025年度に917件、うち52.6%が料金に関するものでした。決して珍しいことではありません。
安置場所をどこにするか
搬送を頼むと、次に決めるのが安置場所です。ここで費用が変わります。
| 場所 | 費用 | 注意点 |
|---|---|---|
| 自宅 | 施設使用料はかからない | 布団を敷けるスペースと、階段や通路の幅 |
| 葬儀社の安置施設 | 1日あたりの使用料 | 面会に別料金がかかることも |
| 民間の保管施設 | 1日あたりの使用料 | 面会できない場合がある |
自宅に安置できれば、施設の使用料は生じません。ただしマンションではエレベーターの大きさや管理規約の制約があります。
いずれの場合も、ドライアイスの費用は日数分かかります。1回あたりの単価と、1日の回数を確かめてください。
面会できるかどうかも聞いておくとよいでしょう。施設によっては、面会のたびに料金が発生します。
その場で決めなくてよいこと
臨終直後に決めるよう求められることがありますが、急ぐ必要のないものが多くあります。
| 項目 | 急ぐか |
|---|---|
| 遺体の搬送先 | 急ぎます |
| 死亡診断書の受け取り | 急ぎます(コピーを5〜10枚) |
| 葬儀の形式 | 急ぎません |
| 祭壇のランク | 急ぎません |
| 料理・返礼品の数 | 急ぎません |
| 参列者への連絡範囲 | 少し時間があります |
急ぐのは上の2つだけです。それ以外は、家族と相談してから決められます。
死亡診断書は死亡届と一体の用紙で、原本は提出します。手元に残るのはコピーだけなので、提出前に5枚から10枚は取っておいてください。保険や年金の手続きで繰り返し使います。
家族で先に決めておくこと
搬送の手配が済んだら、次の3つを家族で決めてください。ここが決まれば、見積もりを取れます。
ひとつ目は、葬儀の形式です。通夜と告別式を行うのか、告別式だけの一日葬にするのか、儀式を行わない直葬にするのか。参列者の人数の見込みとあわせて考えます。
ふたつ目は、菩提寺の有無です。付き合いのある寺院があるなら、早めに連絡してください。日程の調整が必要になります。菩提寺があるのに別の宗教者を手配すると、後で納骨を断られることがあります。
みっつ目は、誰が契約者になるかです。資金を出す人が契約者になるほうが、後の精算は単純になります。喪主と契約者は分けても構いません。
この3つが決まっていれば、葬儀社との打ち合わせは短時間で済みます。逆に決まっていないと、勧められるまま進むことになります。
見積書で見る3か所
比べるときに見るのは、総額ではありません。次の3か所です。
| 見るところ | 確かめること |
|---|---|
| 数量と単価 | 料理1人前◯円、安置料1日◯円と書いてあるか |
| 変動する費目 | 後から動くのはどれか |
| 含まれないもの | 火葬料・式場代・お布施は入っているか |
3つ目がいちばん見落とされます。書かれていない費目は、見積書を眺めても気づけません。
「このプランに含まれないものを一覧で教えてください」と聞いてください。一言で済みます。
よく別枠になるのは、火葬料、式場使用料、宗教者へのお布施、安置が延びた分の追加料金、参列者が増えた分の料理と返礼品です。
深夜や早朝に紹介されたとき
臨終が深夜になることは珍しくありません。他社に連絡がつかない時間帯です。
この場合も、搬送だけを頼めば足ります。葬儀の内容は、翌朝以降に落ち着いて決められます。
深夜・早朝の搬送には割増料金が設定されていることがあります。金額を確かめてから依頼してください。
