相続税の申告期限は10か月|間に合わないときの対応
分割がまとまらなくても、期限は来ます。出しておく1枚で、後から特例が使えます
相続税の申告と納付の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月です。
この期限は、遺産分割が終わっているかどうかに関係なく到来します。
分割がまとまらない場合でも、法定相続分で分けたものとして申告し、納税する必要があります。
このとき、1枚の書類を出しておくかどうかで、後の税額が大きく変わります。「申告期限後3年以内の分割見込書」です。
まず、そもそも申告が必要かを確認するところから始めましょう。
申告が必要かを、基礎控除で判断する
相続税には基礎控除があります。遺産の総額がこれを下回れば、原則として申告も納税も不要です。
計算式は次のとおりです。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
相続人が3人であれば、4,800万円です。
| 相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
根拠となる条文 — 申告期限と特例
相続または遺贈により財産を取得した者は、その被相続人からこれらにより財産を取得したすべての者に係る課税価格の合計額が遺産に係る基礎控除額を超える場合において納付すべき税額があるときは、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に申告書を提出しなければなりません(相続税法27条1項)。
遺産に係る基礎控除額は、3,000万円に600万円と法定相続人の数を乗じた金額を加えた額です(同法15条1項)。
配偶者の税額軽減は相続税法19条の2に、小規模宅地等についての課税価格の計算の特例は租税特別措置法69条の4に定められています。いずれも申告書の提出が適用の要件とされています。
10か月の間にすること
期限までに行うのは、次の作業です。
- 相続人の確定(戸籍の収集)
- 相続財産の調査(不動産、預貯金、有価証券、生命保険金、負債)
- 財産の評価
- 遺産分割協議
- 申告書の作成と提出、納付
不動産の評価や、非上場株式がある場合の評価には時間がかかります。
10か月は長そうに見えますが、実際に着手してみると余裕のある期間ではありません。
四十九日、遺品の整理、他の手続き。それらと並行して進めることになります。
葬式費用は、債務控除として遺産総額から差し引けます。
| 差し引ける | 差し引けない |
|---|---|
| 火葬・埋葬・納骨の費用 | 香典返しの費用 |
| 遺体や遺骨の運搬費用 | 墓石・墓地の購入費、借入料 |
| 通夜など葬式前後の通常の費用 | 初七日などの法要の費用 |
| 読経料などのお布施 | 医学上・裁判上の特別の処置の費用 |
領収書は必ず保管してください。お布施のように領収書が出ないものは、日付・寺院名・金額・名目・払った人をメモに残します。
遺産分割が間に合わない場合
ここが、この記事でいちばん大切なところです。
期限までに分割がまとまらないときは、法定相続分で取得したものとして申告し、納税します。これを未分割申告といいます。
このとき問題になるのが、配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例です。
これらは原則として、分割が確定していることが適用の要件とされています。未分割のままでは適用できません。
そこで、申告書とあわせて次の書類を提出しておきます。
「申告期限後3年以内の分割見込書」
これにより、申告期限から3年以内に分割が成立した場合、更正の請求により特例を適用できます。
分割が成立したら、実際の取得額に応じて修正申告または更正の請求を行います。
3年以内にも分割できない場合は、さらに承認を受ける手続きがあります。訴訟などやむを得ない事情がある場合に限られます。
期限に遅れた場合
期限を過ぎると、次の負担が生じます。
| 名称 | どういうとき |
|---|---|
| 延滞税 | 納付が遅れた期間に応じてかかる |
| 無申告加算税 | 申告しなかった場合にかかる |
| 過少申告加算税 | 申告額が過少だった場合にかかる |
| 重加算税 | 事実を仮装・隠蔽していた場合 |
税務調査の通知を受ける前に自主的に申告すれば、加算税が軽減される取扱いがあります。
遅れていることに気づいた時点で、早めに動くほうが負担は小さくなります。
「もう遅いから」と放置すると、負担は増える一方です。気づいたら、その日のうちに税務署か税理士に連絡してください。
納税資金の準備
相続税は、原則として金銭で一括納付します。
遺産の大半が不動産という場合、納税資金の確保が課題になります。
預金から支払う場合は、凍結解除の手続きに時間がかかります。
| 段階 | かかる時間 |
|---|---|
| 戸籍の収集 | 数週間〜数か月 |
| 遺産分割協議 | 事案による |
| 金融機関の払戻し | 2週間〜1か月 |
全体では、数か月を見ておく必要があります。逆算して手続きを始めてください。
一括納付が難しい場合には、延納や物納という制度があります。
- 延納 ── 分割して納める制度。担保が必要で、利子税がかかります
- 物納 ── 現物で納める制度。延納でも納付が困難な場合に限られます
いずれも要件が厳格で、申請期限も申告期限と同じです。検討する場合は、早めに税理士に相談してください。
急いで不動産を売却して納税資金を作る、という選択もあり得ます。ただし、売却には時間がかかりますし、譲渡所得税の問題も生じます。早い段階で見通しを立てておいてください。
財産の調べ方
10か月のうち、いちばん時間を取られるのが財産の調査です。どこを見ればよいかを挙げておきます。
不動産
固定資産税の納税通知書が手がかりになります。市区町村で「名寄帳」を取れば、その自治体にある不動産を一覧で確認できます。
複数の自治体に不動産がある場合は、それぞれで取得してください。登記事項証明書は、法務局で誰でも取得できます。
預貯金・有価証券
通帳、キャッシュカード、郵便物、確定申告の控えが手がかりです。ネット銀行やネット証券は、スマホのアプリやメールから見つかることがあります。
金融機関には、口座の有無を照会できます。残高証明書は、相続開始日時点のものを取得してください。
生命保険
保険証券のほか、通帳の引き落とし履歴からも分かります。生命保険協会に照会する制度もあります。
死亡保険金は、受取人固有の財産とされますが、相続税ではみなし相続財産として課税対象になります。非課税枠(500万円×法定相続人の数)があります。
負債
借入の契約書、督促状、クレジットカードの明細を確認します。信用情報機関に照会することもできます。
その他
- 貸金庫の中身
- 未収の給与、退職金
- ゴルフ会員権、書画骨董
- 貸付金、立替金
調査には時間がかかります。思い立った日から始めてください。
誰に頼むかを決める
相続では、複数の士業が関わります。誰に何を頼むかを整理しておくと、費用も時間も抑えられます。
| 内容 | 頼む先 |
|---|---|
| 相続税の申告 | 税理士 |
| 不動産の相続登記 | 司法書士 |
| 相続人間の対立の解決 | 弁護士 |
| 遺産分割協議書の作成(争いなし) | 行政書士、司法書士、弁護士 |
相続税の申告は、税理士に依頼するのが一般的です。財産の評価には専門的な判断が必要になります。
とくに、不動産の評価や、小規模宅地等の特例の適用は、判断によって税額が大きく変わる部分です。
費用は財産の総額に応じて決まることが多く、遺産総額の0.5%から1%程度を目安とする事務所があります。複数の事務所で見積りを取って比べてください。
一方、相続人の間で対立がある場合は、まず弁護士に相談してください。分割がまとまらなければ、申告の前提が決まりません。
期限が近づいてから相談すると、選べる方法が減ります。協議が進まないと感じた時点で動いてください。
なお、相続登記も2024年4月から義務化されました。所有権の取得を知った日から3年以内が原則です。こちらも忘れずに進めてください。
申告の準備は、どこから手をつけるか
やることが多くて動けない、という声をよく聞きます。順番を決めておくと進みます。
- 相続人を確定させる(戸籍を集める)
- 基礎控除額を計算する
- 財産の概算を出す
- 超えそうなら、税理士に相談する
- 遺産分割協議を進める
- 申告書を作成し、提出・納付する
3番目の概算は、正確でなくて構いません。不動産は固定資産税評価額、預貯金は残高、生命保険金は保険証券の金額でおおよそをつかみます。
その合計が基礎控除に近いかどうかで、次の動きが決まります。大きく下回るなら、申告は不要です。
まとめ
相続税の申告期限について、覚えておくことは3つです。
- 期限は10か月。分割の状況にかかわらず到来します
- 特例を使うなら申告が必要。税額ゼロでも出してください
- 分割見込書を忘れない。出さないと、後から特例を使えません
まず、基礎控除を超えるかどうかを確認してください。超えないなら、原則として何もしなくて構いません。
相続人の間で協議が進まない場合は、期限から逆算して早い段階で相談してください。分割見込書を出しておけば、後から取り返せます。
