高額療養費は死亡後も申請できる|相続人が受け取る手続き
請求しないと戻ってきません。時効は2年、しかも月ごとに期限が違います
亡くなる前に長く入院していた。手術も受けた。
そういう場合、戻ってくるはずのお金が、請求されないまま残っていることがあります。高額療養費です。
本人が亡くなった後でも、相続人が請求できます。ただし、請求しないと1円も戻りません。
時効は2年。しかも、月ごとに期限が違います。入院が複数月にまたがっていた場合は、古い月から順に確認してください。
どういう給付なのか
医療機関の窓口で支払う自己負担額が、ひと月あたりの上限額を超えたとき、超えた分が払い戻される制度です。
上限額は、年齢と所得区分によって変わります。70歳未満は標準報酬月額や住民税の課税状況に応じた区分ごとに、70歳以上は外来のみの上限額が別に設けられています。
亡くなる前の入院では、集中治療や手術で自己負担額が上限を大きく超えることがあります。
限度額適用認定証を提示していれば、窓口負担は上限額までに抑えられています。しかし、次の場合は後から請求する分が残ります。
- 急な入院で、認定証の交付が間に合わなかった
- 月をまたいで入院した
- 複数の医療機関にかかっていた
とくに1つ目は多く見られます。緊急入院ではそもそも認定証を取る余裕がありません。
根拠となる条文 — 高額療養費の根拠
高額療養費は、健康保険法115条1項および国民健康保険法57条の2第1項にもとづく給付です。支給要件や支給額は、政令で定められます。
保険給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から2年で時効消滅します(健康保険法193条、国民健康保険法110条)。
医療費と介護保険サービスの自己負担を合算する高額介護合算療養費についても、同様に2年の時効があります。
誰が請求できるか
本人が亡くなっている以上、請求するのは相続人です。
相続人が複数いる場合は、代表者を決めて申請するのが一般的な取り扱いです。
自治体の運用例を挙げます。板橋区は、後期高齢者医療の高額療養費(相続)について、相続権が確認できる方が申請できるとしています。
そのうえで、被保険者と同じ住民票に記載される配偶者または子であれば、相続権を証明する書類の提出を不要としています。
同様の取り扱いは他の自治体でも見られますが、細部は保険者ごとに違います。まず窓口に確認してください。
根拠となる条文 — 相続放棄との関係
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続について単純承認、限定承認または放棄をしなければなりません(民法915条1項)。
相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます(同法921条1号)。ただし、保存行為などはこの限りではありません。
なお、生命保険の死亡保険金は受取人固有の財産とされるため、相続放棄をしても受け取れると解されています。取扱いが異なる点に注意してください。
申請先と必要書類
加入していた制度によって、申請先が変わります。
| 加入していた制度 | 申請先 |
|---|---|
| 国民健康保険・後期高齢者医療 | 最後の住所地の市区町村役場 |
| 健康保険(協会けんぽ) | 加入していた都道府県支部 |
| 健康保険組合・共済組合 | それぞれの組合 |
必要書類は、一般に次のようになります。
戸籍謄本は、故人の出生から死亡までの連続した戸籍を求められることがあります。
これは相続手続き全般で必要になる書類です。法定相続情報一覧図を法務局で作成しておくと、複数の窓口で使い回せて負担が減ります。作成は無料で、何通でも交付を受けられます。
時効2年の起算点
条文は「行使することができる時から2年」と定めています。
高額療養費の場合、診療を受けた月の翌月1日が起算日と扱われるのが一般的です。
医療機関の窓口で支払った日ではありません。ここを間違えると、計算がずれます。
具体例で見てみましょう。1月に入院し、2月に亡くなった場合です。
| 対象月 | 起算日 | 時効 |
|---|---|---|
| 1月分 | 2月1日 | 2年後の1月31日 |
| 2月分 | 3月1日 | 2年後の2月末日 |
月ごとに期限が違います。複数月にわたる入院では、最も古い月から順に確認してください。
2年という期間は、他の給付と共通です。葬祭費や埋葬料も同じく2年で時効消滅します。まとめて請求できるものがないか、あわせて確認しておくとよいでしょう。
見落としやすいケース
次のような場合は、未請求のまま残っている可能性があります。
限度額適用認定証を使っていなかった。急な入院で交付が間に合わず、窓口で全額を支払っていた場合です。いちばん多いパターンです。
月をまたいで入院した。高額療養費は暦月単位で計算されます。月ごとに判定が必要です。
複数の医療機関にかかっていた。同一世帯・同一月の自己負担を合算できる場合があります(世帯合算)。
転院した。病院と診療所、入院と外来が、それぞれ別に計算されることがあります。
住所地の市区町村が変わった。転居していると、案内が届かないことがあります。
市区町村から支給申請の案内が届くこともありますが、届かないケースもあります。案内を待たずに、こちらから照会してください。
保険者に照会すれば、支給対象となる月があるかどうかを確認できます。故人の被保険者証番号または基礎年金番号が分かれば、照会は可能です。
高額介護合算療養費も確認する
医療費と介護保険サービスの自己負担が、同一世帯で年間の限度額を超えた場合。高額介護合算療養費が支給されることがあります。
こちらも同様に2年の時効があり、亡くなった後に相続人が請求できます。
介護サービスを長く利用していた場合は、市区町村の介護保険担当窓口にもあわせて確認しておいてください。請求漏れを減らせます。
ほかに請求できるものがないか
高額療養費を確認するついでに、まとめて調べておきたいものがあります。
| 給付 | 対象 | 時効 |
|---|---|---|
| 葬祭費 | 国民健康保険・後期高齢者医療 | 2年 |
| 埋葬料・埋葬費 | 健康保険(協会けんぽ等) | 2年 |
| 未支給年金 | 年金受給者 | 5年 |
| 高額介護合算療養費 | 医療と介護の自己負担が高額 | 2年 |
| 生命保険の死亡保険金 | 契約による | 多くは3年 |
葬祭費と埋葬料は、故人が加入していた制度によってどちらか一方になります。両方はもらえません。
未支給年金は、亡くなった月の分まで受け取れる制度です。生計を同じくしていた遺族が請求できます。
これらはすべて申請しないともらえません。同じ窓口で複数の手続きができることも多いので、一度にまとめて聞いてしまうのが効率的です。
医療費が高額だったときの、もうひとつの道
高額療養費で戻ってくるお金とは別に、税金が戻ってくる場合があります。準確定申告です。
亡くなった人のその年の所得について、相続人が代わって確定申告をします。期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月です。
医療費が多くかかっていた場合、医療費控除により還付を受けられることがあります。「税金を払う手続き」とは限りません。
ここで注意したいのが、高額療養費との関係です。
医療費控除の対象になるのは、実際に負担した金額です。高額療養費で戻ってきた分は、差し引いて計算します。
| 項目 | 金額の例 |
|---|---|
| 窓口で支払った額 | 60万円 |
| 高額療養費で戻る額 | 35万円 |
| 医療費控除の対象 | 25万円 |
まだ高額療養費を請求していない段階でも、戻る見込み額を差し引いて申告することになります。
申告の順序としては、先に高額療養費の支給額を確定させておくほうが確実です。ただし4か月の期限がありますので、間に合わないときは見込みで申告し、後で修正する方法もあります。
判断に迷うときは、税務署に相談してください。申告の相談は無料で受け付けています。
手続きをまとめて進めるコツ
これらの手続きは、窓口が分かれています。回る順番を決めておくと、二度手間が減ります。
おすすめの順序は次のとおりです。
- 市区町村の窓口(国民健康保険・後期高齢者医療の場合)
- 年金事務所(年金の停止と未支給年金)
- 勤務先(健康保険の場合、弔慰金や死亡退職金も)
- 生命保険会社
- 金融機関
1番目の市区町村では、複数の手続きを同じ庁舎で済ませられることが多くあります。世帯主変更届、健康保険証の返却、葬祭費の申請、高額療養費の照会。まとめて聞いてしまってください。
持っていくものは、次のとおりです。
- 故人の保険証(返却します)
- 死亡診断書のコピー
- 申請する人の本人確認書類とマイナンバーが分かるもの
- 印鑑
- 振込先の口座情報
- 葬儀の領収書(葬祭費の申請に使います)
戸籍と住民票は、その場で取得できます。相続手続きで繰り返し必要になりますので、多めに取っておいてください。
窓口に行く前に電話で「何を持っていけばよいか」を確認しておくと、確実です。制度によって必要書類が違います。
まとめ
高額療養費について、覚えておくことは3つです。
- 亡くなった後でも請求できる。請求するのは相続人です
- 時効は2年。起算日は診療を受けた月の翌月1日です
- 月ごとに期限が違う。複数月の入院なら、古い月から確認します
長期入院の後に亡くなった場合は、とくに未請求が残りやすいところです。保険者に照会して、支給対象月の有無を確かめてください。
相続放棄を考えているときは、受け取る前に確認してください。順番を間違えると、選べなくなります。
