孤独死が見つかった後の流れ|費用負担の分かれ目

片付けを急ぐと、相続放棄ができなくなることがあります。書類の保全が先です

孤独死が見つかった後の流れ|費用負担の分かれ目

一人暮らしの方が亡くなって発見された。通常の死亡とは違う手続きが、いくつも重なります。

警察による検視・検案。遺体の引き渡し。住居の片付け。賃貸なら、貸主との原状回復の協議。

そして費用の負担が問題になりやすい。しかも、相続放棄を検討している場合には、片付けの進め方そのものが判断に影響します。

順序を誤らないでください。まず何をして、何を保留にするか。そこからお伝えします。

孤独死が見つかった後の流れの全体像。判断が分かれる点を一枚で示す
孤独死が見つかった後の流れの全体像。判断が分かれる点を一枚で示す(作図: 弁護士による葬儀ガード)

発見から引き渡しまで

発見したら、まず110番または119番に連絡します。

室内のものを動かしたり、片付けたりせず、警察の到着を待ってください。現場の状況が、死因の判断材料になります。

その後は、次のように進みます。

  1. 検視(現場と遺体の状況の確認)
  2. 医師による検案
  3. 遺族への事情の聴取
  4. 必要に応じて解剖
  5. 死体検案書の作成
  6. 遺体の引き渡し

これは死因を確認するための法定の手続きです。事件性を疑われているという意味ではありません。

引き渡しの時期が決まるまで、葬儀の日程は確定できません。搬送・安置と、式の内容の決定を分けて進めてください。

根拠となる条文 — 検視の手続き

変死者または変死の疑いのある死体があるときは、その所在地を管轄する地方検察庁または区検察庁の検察官が検視をしなければなりません(刑事訴訟法229条1項)。検察官は、検察事務官または司法警察員にこれをさせることができます(同条2項)。

医師は、死体を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければなりません(医師法21条)。

死亡の届出は、届出義務者が死亡の事実を知った日から7日以内にしなければなりません(戸籍法86条1項)。起算点は「死亡した日」ではなく「知った日」です。

死亡届の期限が「知った日」から数えられる点は、ここで意味を持ちます。発見が遅れても、知った日から7日以内であれば期限内です。

住居の片付けと特殊清掃

発見までに時間が経過している場合、通常の清掃では対応できないことがあります。

専門業者による特殊清掃や、消臭・原状回復の作業が必要になり、費用は状況によって大きく変わります。

依頼する際は、次の点を確認してください。

「特殊清掃一式」といった見積書では、妥当性を確かめられません。作業範囲と単価が書かれた明細を求めてください。

複数社から見積りを取れるなら、それが確実です。金額の幅が大きい分野です。

そして、最も重要なのが最後の項目です。

通帳・保険証券・契約書類・遺言書などを、先に確保してください。作業が始まると回収できなくなります。

業者に「書類は捨てずに、まとめて残してください」と明確に伝えてください。口頭だけでなく、メールでも送っておくと確実です。

相続放棄を検討している場合

故人に負債がある可能性がある。そういう場合は、片付けの進め方に注意が必要です。

相続財産の全部または一部を処分すると、単純承認したものとみなされます。そうなると、後から相続放棄ができません。

価値のある遺品を処分したり、故人の預金を引き出して費用に充てたりすると、放棄ができなくなるおそれがあります。

もっとも、相当な範囲の葬儀費用の支出については、相続財産の処分にあたらないとした裁判例があります。

根拠となる条文 — 単純承認とみなされる行為

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続について単純承認、限定承認または放棄をしなければなりません(民法915条1項)。この期間は、家庭裁判所において伸長することができます。

相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます(同法921条1号)。ただし、保存行為および短期賃貸借はこの限りではありません。

相当な範囲の葬儀費用の支出について、相続財産の処分にあたらないとした裁判例があります(大阪高裁平成14年7月3日決定)。

相続放棄の期限は、自分が相続人になったことを知った時から3か月です。

片付けを急がなければならない一方で、この期間内に判断する必要があります。難しい状況です。

判断がつかない段階では、必要最小限の対応にとどめてください。

してよいこと保留にすること
貴重品と書類の保全価値のある遺品の処分
遺体の搬送と安置故人の預金の引き出し
相当な範囲の葬儀家財の売却
賃貸借契約書の確認賃料の支払い

判断に迷ったら、動く前に弁護士へ相談してください。動いてしまってからでは戻せません。

図で整理: 賃貸住宅の場合の費用負担
図で整理: 賃貸住宅の場合の費用負担(作図: 弁護士による葬儀ガード)

賃貸住宅の場合の費用負担

賃貸住宅であれば、貸主から請求を受けることがあります。原状回復、残置物の撤去、さらには賃料の減収分についてです。

ここで区別すべきは、次の3つです。

請求の性質相続放棄をすると
賃貸借契約に基づく債務(未払賃料、原状回復義務)承継しません
連帯保証人としての債務残ります
不法行為に基づく損害賠償根拠と範囲が争点になります

連帯保証人になっている場合は、相続放棄をしても保証債務は残ります。

これは、相続とは別に、自分自身が負っている債務だからです。

まず、自分がどの立場にあるのかを確認してください。賃貸借契約書を探し、保証人欄に誰の名前が書かれているかを見ます。

原状回復の範囲については、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が示す考え方が参考になります。

通常損耗や経年変化にあたる部分の負担については、争いになることがあります。

請求を受けた場合は、内訳と算定根拠の開示を求めてください。総額だけを示された段階では、妥当性を判断できません。

金額が大きいときは、支払う前に相談してください。争える範囲があるかどうかは、書面を見れば判断がつきます。

費用を誰が負担するか

特殊清掃や残置物撤去の費用は、誰が負担すべきかが明確でないことがあります。

実務では、次のいずれかで整理されます。

  1. 相続人が負担する
  2. 相続財産から支出する
  3. 連帯保証人が負担する

葬儀費用そのものについても、法律に明文の定めがありません。裁判例の判断も分かれています。

喪主が負担するとした裁判例、相続人で分担するとした裁判例、相続財産から支出すべきとした裁判例があります。事案の事情によって結論が分かれます。

だからこそ、記録が重要です。

相続人が複数いる場合は、誰がいくら立て替えたかを記録しておいてください。後の精算で、資料の有無が結論を左右します。

領収書は捨てないでください。特殊清掃、搬送、葬儀、それぞれ分けて保管しておくと、後の整理が楽になります。

請求できるものも確認してください

負担の話ばかりになりましたが、受け取れるものもあります。

給付対象時効
葬祭費国民健康保険・後期高齢者医療2年
埋葬料健康保険(協会けんぽ等)2年
高額療養費医療費が高額だった場合2年
未支給年金年金受給者5年

いずれも申請しないともらえません。

また、孤独死保険に加入している賃貸物件があります。貸主が加入しているもので、原状回復費用が保険でまかなわれることがあります。

請求を受けた際に、「保険には加入されていますか」と確認してみてください。

生命保険の死亡保険金は、受取人固有の財産とされます。相続放棄をしても受け取れると解されています。保険証券を探してみてください。

孤独死が見つかった後の流れ — 支払う前・動く前に確認しておきたい項目
孤独死が見つかった後の流れ — 支払う前・動く前に確認しておきたい項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

相続放棄をするかどうかの調べ方

3か月の間に、財産と負債を調べる必要があります。どこを見ればよいかを挙げておきます。

負債の手がかり

探すものどこにあるか
借入の契約書、返済予定表郵便物、書類の束
消費者金融からの督促状郵便受け、未開封の封筒
クレジットカードの明細郵便物、メール
保証人になっている契約契約書の保証人欄
税金・保険料の滞納通知役所からの郵便

信用情報機関に照会すれば、借入の状況を確認できます。相続人であることを示す書類が必要です。開示までに時間がかかりますので、早めに動いてください。

財産の手がかり

  • 通帳、キャッシュカード(取引のある金融機関が分かります)
  • 不動産の権利証、固定資産税の納税通知書
  • 保険証券
  • 証券会社からの取引報告書

未開封の郵便物は、開けて確認してください。相続人であれば、内容を確認すること自体は問題になりません。

調べた結果、負債が財産を上回りそうなら相続放棄を検討します。判断がつかないときは、限定承認という方法もあります。

限定承認は、財産の範囲内でのみ負債を引き継ぐ制度です。ただし、相続人全員で行う必要があり、手続きも複雑です。使う場面は限られます。

3か月で調べきれないときは、家庭裁判所に期間の伸長を請求できます。期限が来る前に申し立ててください。

遺品の中から見つけておきたいもの

片付けを進める前に、確保しておきたいものがあります。後から探すのは困難です。

遺言書を見つけたら、開封しないでください。

公正証書遺言以外の遺言書は、家庭裁判所の検認を受ける必要があります。勝手に開封すると、過料の対象になり得ます。

法務局で保管されている自筆証書遺言は、検認が不要です。法務局に照会すれば、保管の有無を確認できます。

携帯電話とパソコンは、しばらく解約せずに残しておくことをおすすめします。サブスクリプションや会員サービスの手がかりが残っていることが多いためです。

これらを確保したら、封筒や箱にまとめて、保管場所を親族に伝えておいてください。後で「どこにやったか分からない」となるのを防げます。

まとめ

孤独死が見つかった後は、次の3つを押さえてください。

  1. 片付けを急がない。相続放棄ができなくなることがあります
  2. 書類を先に保全する。通帳・保険証券・契約書類・遺言書
  3. 自分の立場を確認する。相続人か、連帯保証人か、その両方か

費用負担が争点になりやすい領域です。動く前に、方針を決めてください。

判断がつかない段階では、必要最小限の対応にとどめてください。3か月の熟慮期間があります。迷ったら、早い段階で相談してください。