相続放棄の必要書類|家庭裁判所への申述の進め方
費用は印紙800円と切手だけです。難所は戸籍で、順位が後になるほど広がります
相続放棄の手続きは、思ったより簡単です。費用も、申述人1人あたり収入印紙800円と郵便切手だけです。
難しいのは、書類集めのほうです。とくに戸籍。
相続の順位が後になるほど、必要な戸籍が増えます。兄弟姉妹が申述する場合は、集める範囲が大きく広がります。
そして、3か月の熟慮期間内に提出する必要があります。早めに取り寄せを始めてください。
申述先と費用
申述先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
相続人の住所地ではありません。ここを間違える方が多いところです。管轄は、裁判所のウェブサイトで確認できます。
費用は次のとおりです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 収入印紙 | 800円(申述人1人につき) |
| 連絡用の郵便切手 | 家庭裁判所ごとに定められた額 |
郵便切手の額と組み合わせは、裁判所によって異なります。事前に電話で確認してください。
申述は郵送でも可能です。遠方の家庭裁判所が管轄になる場合でも、出向く必要はありません。
根拠となる条文 — 申述と管轄
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければなりません(民法938条)。
相続の放棄の申述は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属します(家事事件手続法201条1項、民法883条)。相続は、被相続人の住所において開始します。
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
共通して必要な書類
どの順位の相続人でも必要になるのは、次の3つです。
- 相続放棄申述書(裁判所の様式。ウェブサイトからダウンロードできます)
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人の戸籍謄本
相続放棄申述書には、次のことを記載します。
| 記載欄 | 内容 |
|---|---|
| 被相続人の情報 | 氏名、本籍、最後の住所、死亡年月日 |
| 申述人の情報 | 氏名、住所、被相続人との関係 |
| 相続の開始を知った日 | 起算点に関わります |
| 放棄の理由 | 選択式の様式が多い |
| 相続財産の概要 | 分かる範囲で |
「相続の開始を知った日」は、正確に書いてください。3か月の起算点に関わります。
亡くなった日と違う場合は、その日付を書きます。先順位者の放棄で相続人になった場合は、それを知った日です。
順位ごとに追加される書類
申述人と被相続人の関係によって、追加の戸籍が必要になります。
配偶者、子(第1順位)の場合
- 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
子の代襲相続人(孫など)が申述する場合は、本来の相続人である子の死亡の記載がある戸籍謄本も必要です。
父母・祖父母(第2順位)の場合
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の子(およびその代襲者)で死亡している方がいる場合は、その出生から死亡までのすべての戸籍謄本
兄弟姉妹(第3順位)の場合
上記に加えて、次のものが必要です。
- 被相続人の父母の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 兄弟姉妹で死亡している方がいる場合は、その出生から死亡までのすべての戸籍謄本
2024年3月から、戸籍の広域交付制度が始まりました。最寄りの市区町村の窓口で、本籍地以外の戸籍謄本も請求できます。
ただし、請求できる人の範囲や対象に制限があります。窓口で確認してください。
提出後の流れ
申述書を提出すると、家庭裁判所から「相続放棄の申述についての照会書」が送られてくるのが一般的です。
照会書には、次のような質問が記載されています。
- 相続の開始をいつ知ったか
- 申述は自分の意思によるものか
- 相続財産を処分したり、使ったりしていないか
- 放棄の理由は何か
回答は書面で返送します。
3番目が、いちばん重要です。
ここで相続財産の処分にあたる行為を申告すると、単純承認とみなされる可能性があります。
とはいえ、隠すのは避けてください。後で発覚すると、より深刻な問題になります。
葬儀費用を故人の預金から支払ったのであれば、その事実と金額、使途を書きます。相当な範囲の葬儀費用については、処分にあたらないとした裁判例があります。
回答の前に、自分の行動を整理しておいてください。判断に迷う行為があった場合は、返送前に弁護士に確認するのが安全です。
照会書への回答後、問題がなければ申述が受理され、「相続放棄申述受理通知書」が届きます。
受理証明書の取得
債権者や他の相続人に相続放棄を証明する必要がある場合。家庭裁判所に「相続放棄申述受理証明書」を申請します。
| 通知書 | 受理証明書 | |
|---|---|---|
| どう届くか | 受理されると自動的に届く | 申請が必要 |
| 費用 | 無料 | 1通150円(収入印紙) |
| 用途 | 手元の控え | 債権者や登記手続で使う |
金融機関や貸金業者から請求を受けている場合、この証明書を送付することで請求が止まることが通常です。
不動産の登記手続で求められることもあります。必要な通数を確認してから申請してください。
放棄した後に残ること
相続放棄をすると、初めから相続人でなかったものとみなされます。ただし、次の点は残ります。
保存義務。放棄の時に相続財産を現に占有しているときは、他の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで、保存する義務があります。
連帯保証人としての債務。保証人になっている場合、その債務は自分の債務として残ります。相続とは別の問題です。
生命保険金。受取人が自分と指定されているものは、原則として受け取れます。受取人固有の財産とされるためです。
根拠となる条文 — 放棄後の保存義務
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければなりません(民法940条1項)。
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属します(同法898条1項)。
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人とされ、家庭裁判所は利害関係人等の請求により相続財産の清算人を選任します(同法951条、952条1項)。
そして、自分が放棄すると次順位の人が相続人になります。
借金がある場合、放棄したことを次の順位の人に伝えてください。伝えないと、その人は知らないまま3か月を過ごし、単純承認とみなされてしまいます。
疎遠な親族に連絡するのは気が重いかもしれません。それでも、伝えないことのほうが後で問題になります。
戸籍の集め方
いちばん手間がかかる部分です。効率よく進める方法をお伝えします。
まず、被相続人の最後の本籍を確認します。住民票除票を取ると、本籍が記載されています。
そこから、さかのぼって取っていきます。
- 最後の本籍地で、戸籍謄本(除籍謄本)を請求する
- その戸籍に「従前戸籍」の記載があれば、そこへ請求する
- 出生の記載にたどり着くまで繰り返す
窓口では「相続手続きに使うので、出生から死亡までの戸籍をすべてください」と伝えてください。その役所にある分をまとめて出してもらえます。
郵送で請求する場合は、次のものを同封します。
- 申請書(各市区町村のウェブサイトにあります)
- 定額小為替(手数料分)
- 返信用封筒(切手を貼ったもの)
- 本人確認書類のコピー
- 相続人であることが分かる戸籍のコピー
定額小為替は、郵便局で買えます。必要な額が分からないときは、多めに入れておくと、余りは返金されます。
戸籍の手数料は、戸籍謄本450円、除籍謄本・改製原戸籍謄本750円が一般的です。
2024年3月から始まった広域交付制度を使えば、最寄りの窓口でまとめて請求できることがあります。ただし制限がありますので、窓口で確認してください。
集めた戸籍は、他の手続きでも使えます
苦労して集めた戸籍は、相続放棄以外の手続きでも使います。捨てないでください。
| 手続き | 戸籍が必要か |
|---|---|
| 相続放棄の申述 | 必要 |
| 預貯金の名義変更・解約 | 必要 |
| 不動産の相続登記 | 必要 |
| 相続税の申告 | 必要 |
| 未支給年金の請求 | 必要 |
家庭裁判所に提出した戸籍は、原本還付を申し出れば返してもらえることがあります。申述の際に確認してください。
また、法務局で「法定相続情報一覧図」を作ってもらう制度があります。
一度戸籍一式を提出して交付を受ければ、以後はその写し1枚で手続きを進められます。作成は無料で、何通でも交付を受けられます。
金融機関を何行も回る場合は、これを使うと手間がかなり減ります。ただし、相続放棄をする場合は、その事実が一覧図に反映されない点に注意してください。
なお、相続放棄をした人は、そもそも相続手続きに関わらなくなります。ほかの相続人が手続きを進めることになりますので、集めた戸籍は渡してあげてください。
まとめ
相続放棄の手続きについて、覚えておくことは3つです。
- 申述先は被相続人の住所地。自分の住所地ではありません
- 戸籍が難所。順位が後になるほど、集める範囲が広がります
- 照会書は正確に。判断に迷う行為があれば、返送前に確認してください
費用は収入印紙800円と郵便切手だけです。手続きそのものは、書類の提出が中心です。
3か月の熟慮期間がありますので、戸籍の取り寄せは早めに始めてください。間に合わないと感じたら、期限が来る前に伸長を申し立てます。
