成年後見人は葬儀費用を出せますか
後見は死亡で終わります。火葬・埋葬の契約には家庭裁判所の許可が要ります
成年後見人を務めていた方が亡くなった。葬儀の手配をしてよいのか。
後見は本人の死亡によって終わります。したがって、当然に葬儀を手配できるわけではありません。
ただし、法律は一定の範囲で死後の事務を認めています。範囲を正確に押さえてください。
後見は死亡で終わります
まず前提を押さえます。
成年後見人の代理権は、本人が生きていることを前提としています。本人が亡くなれば後見は終了し、財産は相続人に承継されます。
根拠となる条文 — 管理の計算
後見人の任務が終了したときは、後見人またはその相続人は、2か月以内にその管理の計算をしなければなりません(民法870条)。
つまり、本人の死亡後、後見人は財産を清算して相続人に引き継ぐ立場になります。
引継ぎまでの間、どこまでのことができるのかが問題になります。
実際には、相続人がすぐに見つからない、遠方にいる、関わりを拒んでいるといった事情で、遺体の引き取りや火葬の手配が滞ることがあります。
この空白を埋めるために設けられたのが、次の規定です。
認められている死後事務
例外として、次のことができます。
根拠となる条文 — 民法873条の2
成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、相続人の意思に反することが明らかなときを除き、次の行為ができます。
一、相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
二、相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る)の弁済
三、その死体の火葬または埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(家庭裁判所の許可が必要)
三号だけが、家庭裁判所の許可を要件としています。相続財産から相応の支出を伴い、相続人の意向とも関わるためです。
ここで大切なのは、条文が挙げているのが「火葬または埋葬に関する契約」だという点です。
通夜や告別式といった儀式の契約は、この規定からは導けないと解されています。
| 行為 | 家裁の許可 | 条文上の位置づけ |
|---|---|---|
| 財産の保存に必要な行為 | 不要 | 1号 |
| 弁済期の来た債務の弁済 | 不要 | 2号 |
| 火葬・埋葬に関する契約 | 必要 | 3号 |
| 通夜・告別式の契約 | — | 条文の対象外と解されています |
したがって、後見人が本人の財産で一般的な葬儀を執り行うことは、この規定からは導けません。
実務の進め方
本人の死亡に直面した場合、次の順序で進めます。
原則は2番目です。相続人がいて対応できるなら、後見人が動く必要はありません。
申立てには、本人の死亡を証する書面、相続人の状況、契約の内容と費用の見積りなどを添えます。
支出した費用は相続財産から支弁されますが、後日、相続人との間で精算が問題になり得ます。資料は必ず残してください。
相続人への引継ぎ
死後事務を行った後は、相続人への引継ぎが必要です。
相続人が複数いる場合、誰に引き継ぐかが問題になることがあります。代表者が決まっていればその方に、決まっていなければ全員に報告し、引渡しの方法を協議します。
相続人が全員放棄した場合や、相続人が見つからない場合には、相続財産清算人の選任を検討する場面もあります。
資料の保管期間は長めに見てください。後になって精算が問題になることがあります。
身寄りがない場合の制度
相続人がいない、または連絡が取れない場合には、別の仕組みもあります。
根拠となる条文 — 市町村長による埋葬・火葬
死体の埋葬または火葬を行う者がないとき、またはその者が判明しないときは、死亡地の市町村長がこれを行わなければならないと定められています(墓地、埋葬等に関する法律9条)。
その費用については、行旅病人及行旅死亡人取扱法の規定が準用されます。
なお、亡くなってから24時間を経過した後でなければ火葬はできず(同法3条)、火葬には市町村長の許可が必要です(同法5条1項)。
後見人が対応しきれない場合、この制度が使える場面もあります。自治体の担当窓口に相談してください。
相続放棄との関係
費用の支出は、相続人の立場にも影響します。
相続人が相続放棄を検討している場面では、慎重な判断が必要です。相続財産の処分にあたると評価されると、単純承認とみなされるおそれがあります。
根拠となる考え方 — 単純承認とみなされる行為
相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号)。
もっとも、大阪高等裁判所平成14年7月3日決定(家庭裁判月報55巻1号82頁)は、相当な範囲の葬儀費用の支出について、相続財産の処分にあたらないとしました。
ただし、金額や使い道によっては判断が分かれます。相続放棄の期限は、自分が相続人になったことを知った時から3か月です(民法915条1項)。
後見人が支出した費用について、相続人が「自分が処分したわけではない」と言えるかは、事案によります。引継ぎの際に、経緯を明確にしておいてください。
生前に備える方法
本人が元気なうちに、死後の事務を決めておく方法もあります。
死後事務委任契約です。火葬や納骨、各種の手続きについて、あらかじめ範囲を定めて委任しておきます。
| 備え方 | 内容 |
|---|---|
| 死後事務委任契約 | 火葬・納骨・手続きの範囲を定めておく |
| 遺言 | 財産の帰属と、祭祀承継者を指定できる |
| 任意後見契約 | 判断能力が低下した後の財産管理 |
死後事務委任契約があれば、家庭裁判所の許可を得る手間が省け、範囲も本人の意思で決められます。
おひとりで生活されている方や、親族と疎遠な方には、検討する価値があります。
死亡直後にすべきこと
本人の死亡を知ったとき、後見人としてまず動くのは次の点です。
死亡届は、亡くなったことを知った日から7日以内に提出します。届出義務者は親族などですが、成年後見人も届出をすることができます。
死亡診断書は死亡届と一体の用紙で、原本は提出します。手元に残るのはコピーだけなので、提出前に取っておいてください。保険や年金の手続きで繰り返し使います。
3番目については、病院や施設から早めの移動を求められることが多くあります。搬送だけを先に依頼し、その先の手配は改めて決める形で構いません。
財産の保存と債務の弁済
家庭裁判所の許可がなくてもできることを、具体的に見ておきます。
財産の保存に必要な行為。建物の修繕、動産の保管、必要な保険の継続などが考えられます。財産を減らさないための行為です。
弁済期の来た債務の弁済。入院費、施設の利用料、公共料金など、すでに支払期日が来ているものです。
いずれも、相続人の意思に反することが明らかなときは行えません。連絡が取れるなら、事前に意向を確かめてください。
なお、弁済期が来ていない債務の弁済は、この規定の対象外です。前払いや繰上げ返済にあたる行為は避けてください。
支出したものについては、いつ・何に・いくら払ったかを記録し、領収書を保管します。管理の計算の際に、そのまま資料になります。
費用の見通しを立てる
火葬・埋葬に限った手配であれば、費用は限られます。
調査による形式別の平均額を挙げます。
| 形式 | 平均 |
|---|---|
| 一般葬 | 122.01万円 |
| 家族葬 | 96.39万円 |
| 一日葬 | 74.43万円 |
| 直葬・火葬式 | 49.56万円 |
条文が想定している火葬・埋葬に近いのは、いちばん下の形式です。全体の平均96.73万円と比べると、大きな差があります。
家庭裁判所への申立てでは、費用の見積りを添えることになります。必要最小限の範囲で見積もりを取るのが自然です。
なお、火葬料は自治体や施設によって異なります。公営施設で住民が利用する場合は無料または低額、民営施設では数万円から十数万円になることがあります。
見積書には、数量と単価が入っているかを確かめてください。後から精算が問題になったとき、内訳がなければ説明できません。
公的給付も確かめてください
本人が加入していた医療保険によっては、給付を受けられます。
| 加入していた保険 | 給付 | 金額 |
|---|---|---|
| 国民健康保険・後期高齢者医療 | 葬祭費 | 自治体による。東京23区は7万円 |
| 健康保険(協会けんぽ等) | 埋葬料 | 5万円 |
いずれも申請しないともらえません。期限は2年です。
葬祭費は「葬祭を行った人」、埋葬料は「埋葬を行った人」に支給されます。誰が申請できるかは、実際に手配した経緯によります。
生活保護を受給していた場合は、葬祭扶助という別の制度があります。ただし、葬儀の前に申請する必要がある点に注意してください。事後の申請は認められないのが原則です。
いずれの制度も、自治体の窓口に事情を伝えて確かめるのが確実です。
判断に迷ったら家庭裁判所へ
どこまでできるかの線引きは、事案によって変わります。迷ったら、後見監督人や家庭裁判所に確かめてください。
独断で進めて後から問題になるより、事前に相談するほうが確実です。
弁護士に確かめる方法もあります。申立ての要否や範囲を、事情に沿って整理できます。
資料はいつまで保管するか
管理の計算は2か月以内ですが、資料はその後も残してください。
相続人の間で精算が問題になったり、相続税の申告で使われたりすることがあります。数年単位で保管しておくのが安全です。
