成年後見人は葬儀費用を支出できるか|死後事務の範囲

後見は死亡で終わる。民法873条の2が認めるのは火葬・埋葬の契約までで、家裁の許可が要る

成年後見は本人の死亡によって終了するため、後見人が当然に葬儀を手配できるわけではありません。ただし民法873条の2は、必要があるときに一定の死後事務を行うことを認めており、そのうち火葬または埋葬に関する契約の締結には家庭裁判所の許可が必要とされています。ここで注意したいのは、条文が定めるのは「火葬または埋葬に関する契約」であって、葬儀そのものは含まれないと理解されている点です。

後見は死亡で終了する

成年後見人の代理権は、本人(成年被後見人)が生存していることを前提としています。本人が亡くなれば後見は終了し、財産は相続人に承継されます。

後見人は、終了後、管理の計算をして相続人に財産を引き継ぐ立場になります。民法870条は、後見人の任務が終了したときは2か月以内にその管理の計算をしなければならないと定めています。

しかし実際には、相続人がすぐに見つからない、遠方にいる、関わりを拒んでいる、といった事情で、遺体の引き取りや火葬の手配が滞ることがあります。この空白を埋めるために設けられたのが873条の2です。

民法873条の2が認める死後事務

民法873条の2は、成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、相続人の意思に反することが明らかなときを除き、次の行為ができると定めています。

  • 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
  • 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る)の弁済
  • その死体の火葬または埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(家庭裁判所の許可が必要)

三つ目だけが家庭裁判所の許可を要件としています。火葬や埋葬に関する契約は、相続財産から相応の支出を伴い、相続人の意向とも関わるためです。

条文が挙げるのは火葬・埋葬に関する契約であり、通夜や告別式といった儀式の契約は含まれないと解されています。したがって、後見人が本人の財産で一般的な葬儀を執り行うことは、この規定からは導けません。直葬や火葬式の考え方は直葬とはを参照してください。

実務上の進め方

後見人として本人の死亡に直面した場合、実務は次の順序になります。

まず、相続人の有無と連絡先を確認します。相続人が対応できるのであれば、そちらに引き継ぐのが原則です。

相続人が判明しない、または対応が期待できない場合は、873条の2に基づく対応を検討します。火葬・埋葬に関する契約については、家庭裁判所に許可の申立てを行います。申立てには、本人の死亡を証する書面、相続人の状況、契約の内容と費用の見積りなどを添えます。

支出した費用は、相続財産から支弁されることになりますが、後日相続人との間で精算が問題になり得るため、見積書・契約書・領収書を必ず保管してください。

なお、身寄りがなく、葬祭を行う者がいない場合には、墓地、埋葬等に関する法律9条により、死亡地の市町村長が埋葬または火葬を行うこととされています。この制度が使える場面もあります。

費用の負担と相続の関係

火葬・埋葬の費用を相続財産から支出した場合、相続人が相続放棄を検討している場面では慎重な判断が必要です。相続財産の処分にあたると評価されると、民法921条1号により単純承認とみなされるおそれがあります。

もっとも、相当な範囲の葬儀費用の支出について、相続財産の処分にあたらないとした裁判例(大阪高裁平成14年7月3日決定)があります。詳しくは相続放棄をしても葬儀費用は払えるか相続放棄ができなくなる行為にまとめました。

生前に備える方法としては、死後事務委任契約を結んでおくという選択肢もあります。本人の意思で、火葬や各種手続の範囲をあらかじめ定めておく契約です。

相続人への引継ぎで整理しておくこと

死後事務を行った後は、相続人への引継ぎが必要です。民法870条は、後見人の任務が終了したときは2か月以内に管理の計算をしなければならないと定めています。

引継ぎの際に整理しておきたいのは、次の点です。

支出の内訳 ── 火葬・埋葬に関する契約でいくら支出したのか、見積書・契約書・領収書をそろえて示します。家庭裁判所の許可を得た範囲であることが分かるよう、許可の資料も添えます。

弁済した債務 ── 民法873条の2第2号に基づき弁済した債務について、弁済期が到来していたことと、金額の根拠を示します。医療費や施設利用料が典型です。

保存行為の内容 ── 財産の保存のために行った行為があれば、その内容と費用を記載します。

残った財産の状態 ── 引き渡す財産の明細と、その所在を明らかにします。

相続人が複数いる場合、誰に引き継ぐかが問題になることがあります。相続人間で代表者が決まっていればその方に、決まっていなければ全員に対して報告し、引渡しの方法を協議することになります。相続人が相続放棄をした場合や、相続人が見つからない場合には、相続財産清算人の選任を検討する場面もあります。

資料の保管期間は長めに見ておいてください。後に精算が問題になることがあります。

まとめ

成年後見は本人の死亡で終了しますが、民法873条の2により、相続人が相続財産を管理できるようになるまでの間、一定の死後事務が認められています。火葬または埋葬に関する契約には家庭裁判所の許可が必要で、葬儀そのものは条文の対象ではないと解されています。

実務では、相続人の確認、家庭裁判所への許可申立て、資料の保管という順序で進めます。判断に迷う場面が多い領域のため、申立ての要否や範囲については、事情を整理したうえで弁護士に確認してください。