亡くなった人のパスポート|失効手続きのしかた
返納は義務ですが、罰則はありません。手元に残すこともできます
遺品を整理していたら、有効期限内のパスポートが出てきた。どうすればよいのだろうか。
手続きはあります。旅券は返納することとされています。ただし、返さなかったことに対する罰則は設けられていません。
放置すると悪用のおそれがあります。手続きは簡単なので、早めに済ませておくのが安心です。
返納の根拠
法律に定めがあります。まず、そこを確かめておきます。
根拠となる条文 — 旅券の返納
旅券の名義人が死亡し、または日本の国籍を失ったときは、その旅券を所持する者は、遅滞なく、その旅券を返納しなければならないとされています(旅券法19条1項5号、同条2項)。
返納は、外務大臣または領事官、もしくは都道府県知事に対して行うこととされています。
返納がされなかったことに対する罰則は設けられていません。実務では、悪用防止の観点から返納が案内されています。
条文上は「返納しなければならない」とされています。ただし、罰則はありません。
実際には、返納しないまま保管されている例も多くあります。
外務省や自治体も、遺族に返納を強く求める運用はしていません。
それでも、返しておくほうが安全です。理由は次のとおりです。
放置するとどうなるか
パスポートは、写真つきの身分証明書です。悪用されるリスクがあります。
- 盗難にあい、身分証明書として使われる
- 偽造の材料に使われる
- 遺品整理の際に紛失する
有効期限が残っている場合は、とくに注意してください。
期限が切れているものは、返納しなくても差し支えありません。効力がないためです。
それでも、処分の際は細かく裁断するなど、情報が読めない形にしてください。
近年のパスポートには、ICチップが組み込まれています。写真と個人情報が記録されています。
自治体によっては、期限切れのものも受け付けています。窓口で確かめてください。
複数冊が見つかることもあります。過去に使っていたものが残っている場合です。
有効期限が残っているものだけを返納すれば足ります。
手続きの場所と持ち物
返納は、都道府県のパスポート申請窓口で行います。手数料はかかりません。
| 持ち物 | 備考 |
|---|---|
| 亡くなった方のパスポート | 本体 |
| 死亡が確認できる書類 | 死亡診断書のコピー、除籍謄本など |
| 手続きをする人の本人確認書類 | 運転免許証など |
| 印鑑 | 求められることがある |
窓口は、都道府県庁や市の出張所にあります。場所は自治体のホームページで確かめられます。
郵送で受け付ける自治体もあります。遠方の場合は、問い合わせてください。
窓口の受付時間は限られています。平日の日中のみのことが多いところです。
土日に開いている窓口もあります。交付のみの日もあるため、事前に確かめてください。
代理の人が持っていくこともできます。委任状を求められることは、通常ありません。
手続きは5分ほどで終わります。予約は不要のことがほとんどです。
窓口が混む時期(3月・4月)は避けると、待たずに済みます。
手元に残したいとき
旅行の思い出が詰まっている書類です。残したいという声は多くあります。
返納の際に「記念に残したい」と伝えてください。無効の処理をして返してもらえます。
パンチで穴を開けるなどして、使えない形にしたうえで返却されます。
査証(ビザ)の押印は残ります。旅の記録として保管できます。
自治体によって扱いが異なることがあります。事前に電話で確かめてください。
家族で相談してから決めて構いません。急ぐ手続きではありません。
写真に撮って残し、本体は返納するという選択もあります。管理の負担が減ります。
どの形でも構いません。悪用されない状態にしておくことが目的です。
旅行の予約があった場合
亡くなる前に海外旅行を予約していることがあります。取消しの手続きが必要です。
| 予約 | 連絡先 | 確かめること |
|---|---|---|
| 航空券 | 航空会社・旅行会社 | 払い戻しの条件、必要書類 |
| 宿泊 | ホテル・予約サイト | 取消料の扱い |
| パッケージツアー | 旅行会社 | 取消料と、保険の適用 |
| 旅行保険 | 保険会社 | 取消費用の補償があるか |
死亡による取消しの場合、通常より柔軟に扱われることがあります。事情を伝えてください。
死亡診断書のコピーや、除籍謄本の提出を求められることがあります。
旅行のキャンセル費用を補償する保険に入っていた場合は、保険会社に連絡してください。
同行者がいる場合は、その人の予約の扱いも確かめてください。1人分の取消しで料金が変わることがあります。
2人部屋を1人で使う場合、追加料金が生じることがあります。
出発が近い場合は、取消料の割合が高くなります。早めに連絡してください。
航空券の種類によっては、払い戻しができないものもあります。契約内容を確かめてください。
マイルで予約していた場合は、マイルの返還について航空会社に確かめてください。
払い戻しは相続財産になります
払い戻された金銭は、故人の財産です。相続の対象になります。
金額が大きい場合は、遺産分割の対象として扱ってください。
根拠となる条文 — 相続財産の処分と単純承認
相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号)。
相続の承認または放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にしなければなりません(同法915条1項)。
ただし、保存行為をすることは処分にあたらないとされています(同法921条1号ただし書)。
相続放棄を考えている場合は、払い戻しを受ける前に弁護士へ確かめてください。
受け取って使ってしまうと、単純承認とみなされるおそれがあります。
判断に迷う場合は、取消しの手続きだけ行い、払い戻しは保留する方法もあります。
金額が小さければ、実務上問題になりにくいところです。数千円の払い戻しであれば、心配は少ないでしょう。
一方、数十万円のツアー代金であれば、慎重に判断してください。
記録は必ず残してください。いつ、いくら払い戻されたかを書き留めておきます。
あわせて整理する証明書類
パスポート以外にも、返納や解約が必要なものがあります。まとめて確かめてください。
| 書類・カード | 手続き | 期限 |
|---|---|---|
| 健康保険証 | 資格喪失届とともに返却 | 14日以内 |
| 介護保険被保険者証 | 資格喪失届とともに返却 | 14日以内 |
| マイナンバーカード | 市区町村へ返納(死亡届で失効) | 特になし |
| 運転免許証 | 警察署へ返納(任意) | 特になし |
| 障害者手帳 | 市区町村へ返納 | 特になし |
期限があるのは、健康保険証と介護保険証です。役所での手続きとあわせて行ってください。
パスポートと運転免許証は、期限がありません。落ち着いてからで構いません。
四十九日が済んでから、まとめて片付ける家庭が多くあります。それで差し支えありません。
ただし、有効期限の残っている書類は、保管場所を決めておいてください。
紛失すると、悪用の心配が残ります。ひとつの封筒にまとめておくと安心です。
一覧に書き出して、済んだものに印をつけていくと、抜けを防げます。
家族で分担すると、負担が軽くなります。誰が何をするかを決めてください。
役所での手続きは、まとめて済ませられます。必要書類を電話で確かめてから行ってください。
戸籍や住民票は、複数の手続きで使います。多めに取っておくと二度手間を防げます。
手続きの優先順位
一度に全部を済ませようとしないでください。順番があります。
- 死亡届・火葬許可(7日以内)
- 年金の停止(10日/14日以内)
- 健康保険・介護保険の資格喪失(14日以内)
- 世帯主変更届(14日以内)
- 葬祭費・埋葬料の申請(2年以内)
- パスポート・免許証の返納(期限なし)
パスポートの返納は、優先度としては高くありません。四十九日を過ぎてからでも構いません。
ただし、忘れやすい手続きでもあります。一覧に書き出しておいてください。
株式会社鎌倉新書の「第7回 お葬式に関する全国調査」(2026年)によると、葬儀の総額平均は96.73万円でした。手続きの費用は、これとは別に生じます。
相続手続きで使う書類との違い
パスポートは、相続の手続きには使えません。ここを誤解しないでください。
相続で必要になるのは、戸籍と住民票の除票です。身分証明書ではありません。
| 手続き | 必要な書類 |
|---|---|
| 相続人の確定 | 故人の出生から死亡までの戸籍 |
| 住所の確認 | 住民票の除票(本籍の記載あり) |
| 相続人の確認 | 相続人全員の現在の戸籍 |
| 名義変更 | 印鑑証明書、遺産分割協議書 |
これらは、市区町村の窓口で取得します。郵送でも請求できます。
法定相続情報一覧図を作れば、以後の手続きで戸籍の束が不要になります。法務局で無料で交付されます。
パスポートに書かれた本籍の記載は、平成22年以降のものにはありません。
戸籍を探す手がかりとしては、住民票の除票のほうが確実です。
住民票の除票は、最後の住所地の市区町村で取得します。保存期間は150年です。
本籍の記載を希望する旨を、請求書に書いてください。省略されることがあります。
海外で亡くなった場合
故人が海外で亡くなった場合は、手続きが変わります。現地の在外公館が窓口になります。
死亡の届出は、その事実を知った日から3か月以内に行います。国内より期間が長く設定されています。
- 現地の医師による死亡証明書を取得する
- 在外公館に死亡の届出をする
- 遺体または遺骨の搬送方法を決める
- 現地での火葬を選ぶこともできる
遺体を日本へ搬送する場合、費用は100万円から300万円になることがあります。
現地で火葬し、遺骨を持ち帰る方法もあります。費用は大きく下がります。
海外旅行保険に加入していれば、搬送費用が補償されることがあります。契約内容を確かめてください。
クレジットカードに付帯する保険でも、補償されることがあります。カード会社に確かめてください。
現地の手続きには、通訳や現地業者の手配が必要です。在外公館が案内してくれます。
日本の葬儀社にも、海外からの搬送を扱う会社があります。複数に見積もりを取ってください。
遺骨として持ち帰る場合は、現地の火葬証明書と、在外公館の証明が必要になります。
飛行機で運ぶ際は、航空会社に事前に連絡してください。手荷物として持ち込める場合があります。
まとめ
パスポートの返納は、急ぐ手続きではありません。
- 都道府県のパスポート窓口で、手数料は無料
- 死亡が確認できる書類と、本人確認書類を持参する
- 記念に残したいときは、その旨を伝える
期限のある手続きを先に済ませてください。落ち着いて進めれば大丈夫です。
