亡くなった人の運転免許証|返納の手続き

返納は義務ではありません。ただし、放置すると悪用のおそれがあります

引き出しから、親の運転免許証が出てきた。これはどうすればよいのだろうか。

まず、落ち着いてください。返納は法律上の義務ではありません。期限もありません。

ただし、放置すると悪用されるおそれがあります。手続きは簡単なので、早めに済ませておくのが安心です。

亡くなった人の証明書類はどう扱うか
亡くなった人の証明書類はどう扱うか(作図: 弁護士による葬儀ガード)

返納は義務ではありません

まず、この点をはっきりさせておきます。返さなくても罰則はありません。

免許の効力は、本人が亡くなった時点で失われます。返納しなくても、効力は生じません。

根拠となる条文 — 免許証の返納

免許が取り消され、または効力が停止されたときは、その者は速やかに免許証を公安委員会に返納しなければならないとされています(道路交通法107条1項)。

運転免許は本人に与えられる資格であり、本人の死亡によってその効力を失います。そのため、亡くなった方の免許証を運転に用いることはできません。

死亡した場合の遺族による返納については、明文の義務規定は置かれていません。各都道府県警察は、悪用を防ぐ観点から任意の返納を案内しています。

つまり、返納は任意です。それでも、返しておくほうが安全です。理由は次のとおりです。

放置するとどうなるか

免許証は、日本でもっとも広く使われる身分証明書です。だから、リスクがあります。

  • 盗難にあい、身分証明書として使われる
  • 携帯電話の契約や、口座の開設に悪用される
  • 貸金業者の借入れに使われる

実際に悪用された場合、後始末は家族の負担になります。

契約の取消しを求める手続きは、時間も手間もかかります。防ぐほうが簡単です。

自宅で保管していても、遺品整理の際に紛失することがあります。

数分で終わる手続きです。早めに済ませておくと安心です。

とくに、一人暮らしだった方の部屋を片付ける場合は、注意してください。

書類が散逸しやすい場面です。証明書類だけは、先にまとめて保管してください。

遺品整理の業者に任せる前に、自分の目で探しておくことをおすすめします。

手続きの場所と持ち物

返納は、警察署か運転免許センターで行います。手数料はかかりません。

持ち物備考
亡くなった方の運転免許証本体
死亡が確認できる書類死亡診断書のコピー、除籍謄本など
手続きをする人の本人確認書類運転免許証など
印鑑求められることがある

死亡が確認できる書類は、死亡診断書のコピーで足りることが多くあります。

事前に電話で確かめると確実です。地域によって扱いが異なることがあります。

郵送で受け付ける警察もあります。遠方の場合は、問い合わせてください。

代理の人が持っていくこともできます。委任状を求められることは、通常ありません。

窓口は、交通課または運転免許窓口です。受付の時間を確かめてから行ってください。

手続きは5分ほどで終わります。予約は不要のことがほとんどです。

手元に残したいとき

「思い出として残しておきたい」という声は多くあります。対応してもらえます。

返納の際に「記念に残したい」と伝えてください。無効の穴を開けたうえで返してもらえます。

自治体や警察によって扱いが異なります。事前に確かめてください。

有効期限が切れるまで待って、自然に失効させる方法もあります。ただし、その間の管理は必要です。

金庫や、鍵のかかる引き出しに保管してください。

家族で相談してから決めて構いません。急ぐ手続きではありません。

写真に撮って残し、本体は返納するという選択もあります。管理の負担が減ります。

どの形でも構いません。悪用されない状態にしておくことが目的です。

図で整理: 返納する書類の順番
図で整理: 返納する書類の順番(作図: 弁護士による葬儀ガード)

あわせて整理するもの

亡くなった後に手続きが必要な証明書類は、免許証だけではありません。

書類・カード手続き期限
マイナンバーカード市区町村へ返納(自動的に失効)特になし
健康保険証資格喪失届とともに返却14日以内
介護保険被保険者証資格喪失届とともに返却14日以内
後期高齢者医療被保険者証資格喪失届とともに返却14日以内
パスポート都道府県の窓口へ返納特になし
障害者手帳市区町村へ返納特になし

健康保険証と介護保険証は、期限があります。役所での手続きとあわせて行ってください。

マイナンバーカードは、死亡届の提出により失効します。返納は任意ですが、返すよう案内されることが多くあります。

パスポートも、失効の手続きを行います。返納すれば、無効の処理をして返してもらえます。

障害者手帳や、療育手帳も返納の対象です。市区町村の窓口で確かめてください。

図書館の利用者カードや、自治体の各種カードも、返却を求められることがあります。

すべてを一度に済ませる必要はありません。役所へ行くときに、まとめて持参してください。

持っていくものを一覧にしておくと、二度手間を防げます。

車そのものの手続き

免許証を返納しても、車の名義はそのままです。別に手続きが必要です。

車は相続財産です。相続人が引き継ぎ、名義を変更します。

軽自動車の場合は、軽自動車検査協会で手続きします。必要書類が異なります。

売却や廃車をする場合も、いったん相続人へ名義を移すのが原則です。

自動車保険は、名義変更をしないと補償を受けられないことがあります。早めに連絡してください。

移転登録には、遺産分割協議書または遺産分割協議成立申立書が必要です。

査定額が100万円以下の普通自動車であれば、申立書による簡易な手続きが使えます。

必要な書類は、運輸支局のホームページで確かめられます。行政書士に依頼することもできます。

相続放棄を考えている場合は、車を処分しないでください。財産の処分と見られるおそれがあります。

根拠となる条文 — 移転登録と相続財産の処分

自動車の所有者が変更したときは、新所有者は、その事由があった日から15日以内に移転登録の申請をしなければならないとされています(道路運送車両法13条1項)。

相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号)。

相続の承認または放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にしなければなりません(同法915条1項)。

車を売却して代金を受け取ると、処分にあたる可能性が高くなります。

放棄を考えているなら、動かさずにそのままにしてください。判断に迷うときは弁護士へ確かめてください。

車に乗り続ける場合

家族が同じ車に乗り続けることもあります。この場合、保険の扱いに注意が必要です。

自動車保険(任意保険)は、記名被保険者が亡くなると、そのままでは補償が及ばないことがあります。

保険会社に連絡し、契約者と記名被保険者の変更手続きを行ってください。

  • 契約者の変更(保険料を払う人)
  • 記名被保険者の変更(主に運転する人)
  • 車両の名義変更(運輸支局での手続き)

自賠責保険も、名義変更が必要です。車検証の名義と合わせます。

手続きが済むまでの間に事故が起きると、補償を受けられないおそれがあります。

「まだ名義が変わっていないのですが」と保険会社に伝えてください。対応を教えてもらえます。

悪用を防ぐためにできること

証明書類以外にも、確かめておきたいものがあります。

  1. クレジットカード(解約の連絡)
  2. キャッシュカード(口座の凍結)
  3. 携帯電話(解約または承継)
  4. 各種の会員証・ポイントカード

クレジットカードは、カード会社に連絡すれば解約できます。未払いの残高は相続の対象です。

自動引き落としの契約が残っていないかも確かめてください。明細に手がかりがあります。

年会費が発生し続けることもあります。早めに連絡してください。

家族カードも、本会員が亡くなると使えなくなります。生活費に使っていた場合は、代わりを用意してください。

携帯電話は、解約すると番号が使えなくなります。連絡先の確認が済んでから行ってください。

デジタルの契約も忘れないでください。サブスクリプションは、放置すると課金が続きます。

株式会社鎌倉新書の「第7回 お葬式に関する全国調査」(2026年)によると、葬儀の総額平均は96.73万円でした。手続きの費用は、これとは別に生じます。

免許証から分かること

返納の前に、記載内容を確かめておいてください。手続きに使える情報があります。

免許証には、本籍が記載されていません。平成24年以降に交付されたものは、ICチップに記録されています。

一方、住所の履歴は裏面に記載されています。転居の記録が残っています。

記載手続きでの使いみち
氏名・生年月日各種手続きの本人確認
住所(裏面の履歴を含む)戸籍の附票との照合
交付年月日・番号保険の契約内容の確認
免許の種類車両の処分の判断

住所の履歴は、戸籍を集めるときの手がかりになります。転籍先を推測できることがあります。

返納の前に、両面をコピーするか写真に撮っておいてください。後で役に立ちます。

なお、免許証を身分証明書として使うことはできません。本人が亡くなっているためです。

相続の手続きでは、戸籍と住民票の除票を使います。免許証は代わりになりません。

手続きの優先順位

一度に全部を済ませようとしないでください。順番があります。

優先度手続き期限
死亡届・火葬許可7日以内
年金の停止10日/14日以内
健康保険・介護保険の資格喪失14日以内
世帯主変更届14日以内
葬祭費・埋葬料の申請2年以内
免許証・パスポートの返納期限なし

免許証の返納は、優先度としては高くありません。落ち着いてからで構いません。

ただし、忘れやすい手続きでもあります。一覧に書き出しておくと確実です。

役所に行く用事があるときに、まとめて済ませる形が効率的です。

警察署は、役所とは別の場所にあります。行く機会を別に作る必要があります。

近所の交番では受け付けていないことが多いところです。警察署の窓口へ行ってください。

平日の日中しか受け付けていない場合があります。時間を確かめてから出かけてください。

免許証の返納 — 出かける前の確認項目
免許証の返納 — 出かける前の確認項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

まとめ

免許証の返納は、義務ではありませんが済ませておくと安心です。

  • 警察署か運転免許センターで、手数料は無料
  • 死亡が確認できる書類と、本人確認書類を持参する
  • 記念に残したいときは、その旨を伝える

車の名義変更は別の手続きです。落ち着いて順番に進めれば大丈夫です。