ペースメーカーは火葬前に申告する|手順と理由

高温で破裂するおそれがあります。必ず葬儀社と火葬場に伝えてください

故人がペースメーカーを入れていた。火葬のとき、何か手続きが要るのだろうか。

必ず申告してください。これは費用の話ではなく、安全の話です。

高温で破裂し、炉や作業者を傷つけるおそれがあります。伝え方と手順を整理しておきましょう。

体内の医療機器は、なぜ申告が必要なのか
体内の医療機器は、なぜ申告が必要なのか(作図: 弁護士による葬儀ガード)

なぜ申告が必要なのか

火葬炉の中は、800度から1,200度になります。この温度で、機器の電池が反応します。

ペースメーカーにはリチウム電池が使われています。高温で破裂することがあります。

破裂すると、次のような影響が生じます。

  • 火葬炉が損傷する(修理に多額の費用がかかる)
  • 作業をしている職員が負傷する
  • 火葬が中断し、日程が動く
  • 遺骨に影響が出ることがある

炉の損傷について、遺族が費用を求められた例もあります。申告しなかった場合です。

隠す理由はどこにもありません。伝えれば、適切に対応してもらえます。

誰に、いつ伝えるか

伝える相手は2か所です。どちらにも伝えてください。

相手タイミング方法
葬儀社打ち合わせのとき口頭+書面
火葬場火葬の予約・申請のとき申請書に記入

葬儀社が火葬場へ伝えてくれることが多くあります。それでも、自分でも確かめてください。

火葬許可申請書や、火葬場の使用申込書に、記入欄があります。

「体内に医療機器がありますか」といった項目です。該当する場合は、必ず記入します。

言い忘れそうなら、打ち合わせの最初に伝えてください。順番を待つ必要はありません。

葬儀社の担当者は、必ず確認する項目として扱っています。聞かれる前に伝えても構いません。

家族の誰かが知っていれば足ります。全員が把握している必要はありません。

伝えた内容は、メモに残しておいてください。担当者が交代した場合に役立ちます。

摘出が必要かどうか

対応は、火葬場の方針で分かれます。地域差があります。

  1. そのまま火葬する(多くの火葬場)
  2. 摘出を求める(一部の火葬場)
  3. 医師の確認書類を求める

多くの火葬場は、申告があればそのまま受け入れます。炉の運転を調整して対応します。

一方、摘出を求める火葬場もあります。この場合、医師に依頼して取り出してもらいます。

摘出は、病院や、葬儀社が手配する医師が行います。費用は2万円から5万円が目安です。

エンバーミングを行う施設で、あわせて摘出できることもあります。

どちらになるかは、火葬場に確かめるのがいちばん確実です。葬儀社が代わりに聞いてくれます。

摘出には、遺族の承諾が必要です。書面に署名を求められることがあります。

摘出を希望しない場合は、その旨を伝えてください。受け入れる火葬場を探す形になります。

近隣に選択肢がない場合もあります。事情を説明し、対応を相談してください。

申告が必要なその他の機器

ペースメーカー以外にも、伝えたほうがよいものがあります。

機器・材料申告理由
ペースメーカー必要電池が破裂するおそれ
植込み型除細動器(ICD)必要同上
補助人工心臓必要電池・機器の構造
人工関節・ボルト伝えるとよい遺骨に残る
人工乳房(シリコン)伝えるとよい燃焼時の影響
義歯・インプラント伝えるとよい金属が残る
放射性物質を用いた治療必要医療機関の指示に従う

上の3つは、破裂のおそれがあるため必須です。

人工関節などは、破裂の心配はありません。ただし、遺骨に残るため、伝えておくと収骨が円滑です。

放射線を用いた治療を受けていた場合は、医療機関の指示があります。確かめてください。

図で整理: 申告から火葬までの流れ
図で整理: 申告から火葬までの流れ(作図: 弁護士による葬儀ガード)

入っているかどうかの確かめ方

「入っていたかもしれない」という段階でも、確かめる方法があります。

ペースメーカーを入れている方には、手帳が交付されています。財布や引き出しを探してください。

手帳には、機種・植込みの日・病院名が書かれています。火葬場への説明に使えます。

障害者手帳を持っている場合もあります。心臓機能障害の記載があれば、手がかりになります。

分からない場合でも、「可能性がある」と伝えれば足ります。火葬場が判断します。

医療機関に問い合わせる場合は、故人の氏名と生年月日を伝えてください。

診療情報の開示には、相続人であることを示す書類が必要なことがあります。

急ぐ場合は、事情を説明してください。口頭で教えてもらえることもあります。

胸元に手術の痕がある場合は、その可能性を伝えるだけでも手がかりになります。

法律上の位置づけ

火葬そのものについては、法律に定めがあります。

根拠となる条文 — 火葬の許可と火葬場の管理

埋葬または火葬は、死亡または死産の後24時間を経過した後でなければ行うことができません(墓地埋葬法3条)。ただし、感染症法に定める一類感染症等の場合などの例外があります。

埋葬・火葬を行おうとする者は、市町村長の許可を受けなければなりません(同法5条1項)。

火葬場の管理者は、火葬許可証の交付を受けずに火葬を行ってはならないとされています(同法14条2項)。また、火葬場の管理者は、正当の理由がなければ火葬の求めを拒んではならないとされています(同法13条)。

医療機器の申告そのものについて、直接の条文はありません。

火葬場ごとの使用規則や、条例で定められています。施設の規則に従ってください。

規則に反した場合、損害の負担を求められることがあります。申告を怠らないでください。

根拠となる条文 — 損害を与えた場合の責任

故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条)。

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき、または債務の履行が不能であるときは、債権者はこれによって生じた損害の賠償を請求することができます(民法415条1項)。

火葬場の使用にあたっては、施設の使用規則に従うことが求められます。申告義務に反した結果として損害が生じた場合、その負担を求められることがあります。

条文を持ち出す話ではありません。伝えれば済むことです。

不安があれば、「念のため確かめてください」と葬儀社に頼んでください。

申告しなかった場合

万一、申告を忘れたまま火葬が始まった場合はどうなるか。

炉の中で破裂すると、火葬が中断します。安全の確認が行われます。

炉の損傷があれば、修理の費用が生じます。数百万円になることもあります。

その負担を遺族が求められることがあります。故意でなくても、責任を問われる場面です。

  • 火葬が中断し、日程が動く
  • 安置の日数が延び、費用が増える
  • 炉の修理費用を求められることがある

いずれも避けたい事態です。申告は1分で終わります。

思い出したら、その時点で伝えてください。火葬の直前でも構いません。

「今さら言いにくい」と感じる必要はありません。事故を防ぐほうが大切です。

火葬場の職員も、直前の申告に慣れています。対応してもらえます。

感染症があった場合

医療機器とは別に、申告が必要な場面があります。感染症です。

一類感染症など、法令で定められた感染症で亡くなった場合は、火葬の時期の扱いが変わります。

通常は死亡から24時間を経過しないと火葬できません。一定の感染症では、この制限が適用されません。

  • 医療機関から遺族へ説明がある
  • 納体袋の使用を求められることがある
  • 面会や対面が制限されることがある
  • 火葬場への事前連絡が必要になる

葬儀の形式にも影響します。安置や通夜ができない場合があります。

医療機関の指示に従ってください。葬儀社にも、そのまま伝えて差し支えありません。

不安に感じる場面ですが、手順は定まっています。担当者に確かめながら進めてください。

収骨のときの注意

人工関節やインプラントは、火葬の後も残ります。収骨のときに目にします。

驚かないよう、先に知っておいてください。職員が説明してくれます。

  • 人工関節・ボルト — 金属として残る
  • インプラント — 残ることがある
  • ペースメーカー(摘出しなかった場合) — 溶けるか、残ることがある

残った金属は、火葬場が処理します。骨壺には入れないのが通常です。

希望があれば、確かめてください。地域や施設の方針によります。

なお、収骨した遺骨を誰が引き取るかについては、考え方が定まっています。

参考になる判例 — 遺骨は誰に帰属するか

最高裁判所は平成元年7月18日の判決(家月41巻10号128頁)で、遺骨は慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属すると判断しました。

祭祀を主宰すべき者は、被相続人の指定があればその者、指定がないときは慣習により、慣習が明らかでないときは家庭裁判所が定めるとされています(民法897条)。

遺骨は相続財産として分割の対象になるものではなく、祭祀承継者が引き継ぐという整理です。

家族の間で引き取り手が決まらない場合は、この考え方が基準になります。

争いになりそうなときは、弁護士に相談してください。

株式会社鎌倉新書の「第7回 お葬式に関する全国調査」(2026年)によると、葬儀の総額平均は96.73万円でした。摘出の費用は、これとは別に生じます。

事前に確かめておくこと

家族に医療機器がある場合は、元気なうちに確かめておくと安心です。

  1. ペースメーカー手帳の保管場所を家族に伝える
  2. 機種と植込みの日を控えておく
  3. かかりつけの病院と担当医を書き留めておく
  4. エンディングノートに記載する

いざというときに、家族が探さずに済みます。数分で書ける内容です。

お薬手帳と一緒に保管しておくと、見つけやすくなります。

国民生活センターが2026年6月3日に公表した資料によると、葬儀サービスに関する相談は2025年度に917件で、うち52.6%が料金に関するものでした。

摘出の費用が請求されている場合は、内訳を確かめてください。実費かどうかを聞けます。

医師への支払いであれば、領収書があるはずです。求めて差し支えありません。

葬儀社が立て替えている場合は、実費がそのまま請求されるのが通常です。

上乗せがないかを確かめてください。金額が大きい場合は、明細を求めてください。

ペースメーカーの申告 — 火葬の前に確認する項目
ペースメーカーの申告 — 火葬の前に確認する項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

まとめ

医療機器の申告は、安全のための手続きです。

  • 葬儀社と火葬場の両方に伝える。申請書にも記入する
  • 摘出の要否は、火葬場の方針による
  • ペースメーカー手帳を探し、機種と植込みの日を伝える

伝えれば、適切に対応してもらえます。落ち着いて進めれば大丈夫です。