内縁の妻に相続権はあるか|受け取れるものと備え方

相続人にはなれません。ただし、遺族年金や賃借権など、受け取れるものはあります

長年一緒に暮らしてきた。籍は入れていない。相手が亡くなったら、私はどうなるのか。

はっきりお伝えします。内縁の配偶者に、相続権はありません。法律上の配偶者だけが相続人になります。

ただし、受け取れるものはあります。遺族年金、住まいの賃借権、遺言による遺贈。備えておけば守れる部分も多くあります。

受け取れるもの、受け取れないもの
受け取れるもの、受け取れないもの(作図: 弁護士による葬儀ガード)

なぜ相続人にならないのか

相続人になれる範囲は、法律で決まっています。事実上の関係の長さは考慮されません。

根拠となる条文 — 相続人の範囲

被相続人の配偶者は、常に相続人となります(民法890条)。ここでいう配偶者は、婚姻の届出をした法律上の配偶者を指します。

婚姻は、戸籍法の定めに従って届け出ることによって効力を生じます(同法739条1項)。届出をしていない関係は、婚姻とは扱われません。

最高裁判所平成12年3月10日決定(民集54巻3号1040頁)は、内縁関係が一方の死亡によって解消した場合に、財産分与に関する規定を類推適用することはできないとしました。

つまり、離婚のときの財産分与のような形で、死亡後に請求することもできません。

長く一緒に暮らし、生活を支えてきたとしても、それだけでは法律上の権利になりません。

厳しい結論ですが、先に知っておくことが備えにつながります。制度を使えば、守れる部分があります。

事実婚を選んだ理由はさまざまです。制度に合わせる必要はなく、備え方を知っておけば足ります。

それでも受け取れるもの

相続権がないことと、何も受け取れないことは違います。制度を並べて確かめてください。

受け取れる可能性があるもの条件
遺贈(遺言による財産)遺言が必要
生命保険金受取人に指定されていること
遺族年金事実婚と認められること
借家の賃借権相続人がいない場合など
特別縁故者としての分与相続人がいない場合
死亡退職金就業規則の定めによる

このうち、生前に準備できるのは遺言と保険の受取人指定です。ここが最も確実な備えになります。

遺族年金は、亡くなった後に申請します。事実婚の証明が必要になります。

申請の窓口は、年金事務所または市区町村です。まず電話で、必要な資料を確かめてください。

審査に時間がかかることがあります。生活費の見通しは、別に立てておいてください。

遺族年金は受け取れることがあります

公的年金では、事実上の婚姻関係も配偶者として扱われることがあります。

根拠となる条文 — 事実婚と配偶者

厚生年金保険法では、配偶者には、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むとされています(厚生年金保険法3条2項)。

国民年金法にも、同様の定めがあります(国民年金法5条8項)。遺族基礎年金や遺族厚生年金の対象になり得ます。

ただし、生計を維持されていたことが必要です。収入の要件も定められており、実際の受給には審査があります。

証明のために、次のような資料が求められます。日ごろから残しておくと役に立ちます。

  • 住民票(同一世帯であること、続柄が「未届の妻」など)
  • 健康保険の被扶養者になっていた記録
  • 生活費の送金や、共同の口座の記録
  • 家賃や公共料金の名義と支払いの記録
  • 連名の郵便物、親族や近隣の証言

住民票の続柄は、届出によって「夫(未届)」「妻(未届)」と記載できます。これは有力な資料になります。

住まいをどうするか

内縁の配偶者にとって、最も切実なのが住まいです。借家か持ち家かで扱いが違います。

根拠となる条文 — 借家の承継

居住用建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合、その当時、婚姻または縁組の届出をしていないが事実上夫婦または養親子と同様の関係にあった同居者は、賃借人の権利義務を承継します(借地借家法36条1項)。

相続人がいる場合は、賃借権は相続人に承継されます。もっとも、同居していた内縁配偶者を保護するため、相続人の明渡請求を権利の濫用として認めなかった裁判例があります。

なお、承継したくない場合は、死亡を知った後1か月以内に反対の意思を表示できます(同項ただし書)。

持ち家の場合、名義が相手にあれば相続財産になります。相続人が現れると、明渡しを求められることがあります。

このため、住まいの確保は生前の備えが最も大切です。遺言で居住用の不動産を遺贈する方法があります。

配偶者居住権という制度もありますが、これは法律上の配偶者のための制度です。内縁の配偶者には使えません。

図で整理: 生前にできる備え
図で整理: 生前にできる備え(作図: 弁護士による葬儀ガード)

遺言で備える

最も確実な備えが遺言です。内縁の配偶者へ財産を渡すには、これが基本になります。

自筆でも作れますが、公正証書のほうが確実です。方式の不備で無効になるおそれがありません。

法務局の保管制度を使えば、自筆証書遺言でも検認が不要になります。費用を抑えたい場合の選択肢です。

遺留分に注意してください。子や親がいる場合、遺言があっても金銭の請求を受けることがあります。

その分を見込んで、金銭を用意しておく方法もあります。争いを避ける準備になります。

遺言には、なぜその内容にしたのかを付言として書けます。法的な効力はありませんが、争いを和らげることがあります。

遺言執行者を決めておくと、手続きが進めやすくなります。専門家に頼むこともできます。

相続人がいない場合

相手に相続人が1人もいない場合は、別の道があります。

家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立て、その手続きの中で特別縁故者として財産の分与を求められます。

  • 生計を同じくしていた者
  • 療養看護に努めた者
  • その他、特別の縁故があった者

内縁の配偶者は、これに当たる典型例です。長年の同居と看護があれば、認められる可能性があります。

申立てには期間の制限があります。清算人の選任と公告の手続きを経てから、3か月以内に申し立てます。

手続きは長くかかります。1年程度を見込んでください。弁護士や司法書士に相談するのが確実です。

葬儀と祭祀は担えます

相続権がないことと、葬儀を行えるかどうかは別です。ここは安心してください。

  • 喪主を務めることができる
  • 葬儀社と契約し、費用を負担できる
  • 祭祀を承継し、遺骨を管理することもできる

祭祀を主宰すべき者は、故人の指定、慣習、家庭裁判所の指定の順で決まります。血縁は必須ではありません。

ただし、親族との間で対立することがあります。生前に、誰が葬儀を行うかを書面で残しておくと確実です。

死後事務委任契約を結んでおく方法もあります。葬儀や納骨、行政手続を委任する契約です。

遺言と一緒に、公正証書で作っておくと確実です。費用は数万円から数十万円が目安です。

健康保険と給付の扱い

制度によって、事実婚が認められる範囲が違います。整理しておきます。

制度事実婚の扱い
遺族年金認められることがある
健康保険の被扶養者認められることがある
埋葬料生計を維持されていれば受け取れることがある
相続認められない
相続税の配偶者控除使えない

税の場面では、事実婚は配偶者として扱われません。遺贈を受けた場合、相続税は2割加算の対象になります。

金額が大きい場合は、税理士に確かめてください。負担が想定と変わることがあります。

国民生活センターが2026年6月3日に公表した資料によると、葬儀サービスに関する相談は2025年度に917件で、うち52.6%が料金に関するものでした。立場が弱いと、契約でも不利になりがちです。

亡くなった直後にすること

備えがある場合も、ない場合も、直後の動き方は共通します。順に確かめてください。

まず、病院や施設から連絡を受けられる立場かどうかが問題になります。緊急連絡先になっていれば、連絡が来ます。

その後の流れは、次のようになります。

  1. 遺体の搬送と安置を手配する(喪主として契約できる)
  2. 死亡診断書を受け取り、死亡届を提出する
  3. 葬儀の内容と日程を決める
  4. 相手の親族に連絡する
  5. 遺言の有無を確かめる

死亡届の届出人になれるのは、親族、同居者、家主、地主などです。同居していれば、届出人になれます。

親族との関係が難しい場合でも、連絡は入れておいてください。後から知らされていないと言われる事態を避けられます。

公正証書遺言があるかどうかは、公証役場で検索できます。ただし、照会できるのは相続人などに限られます。

財産の名義に注意する

一緒に築いた財産でも、名義が相手にあれば相続財産になります。ここが最も現実的な問題です。

名義亡くなった後の扱い
自分の名義自分の財産のまま
相手の名義相続財産になる
共有名義相手の持分が相続財産になる
相手名義の口座凍結される。引き出せない

生活費を一緒の口座で管理していた場合、その口座が相手の名義であれば凍結されます。

当面の生活費は、自分の名義の口座に確保しておいてください。分けておくだけで、困る場面が減ります。

高額な買い物をした際の負担割合も、記録に残しておくと役に立ちます。領収書と振込の記録です。

いま、できること

備えは、元気なうちにしかできません。優先順位を付けて進めてください。

  1. 公正証書遺言を作る(最も効果が大きい)
  2. 生命保険の受取人に指定する
  3. 住民票の続柄を「未届の妻」「未届の夫」にする
  4. 死後事務委任契約を結ぶ
  5. 生活を共にしていた記録を残す(家計、送金、郵便物)

1つ目と2つ目だけでも、状況は大きく変わります。まずここから始めてください。

3つ目は、遺族年金の申請で効いてきます。手続きは市区町村の窓口でできます。

相手の家族との関係が難しい場合ほど、書面が力を持ちます。話し合いの記録も残してください。

不安が強い場合は、一度弁護士に相談してください。何が足りないかを整理してもらえます。

内縁の配偶者 — いま確認する項目
内縁の配偶者 — いま確認する項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

まとめ

相続権はありませんが、備えられることは多くあります。

  • 公正証書遺言を作り、生命保険の受取人に指定する
  • 住民票の続柄を「未届の妻」「未届の夫」にする
  • 生活を共にしていた記録を残しておく

亡くなった後にできることは限られます。いま動くことが、いちばん確実です。