遺産分割調停の申立て|費用・書類・進み方

申立ての費用は数千円です。話し合いが止まったら、家庭裁判所を使う選択があります

相続人どうしの話し合いが進まない。連絡しても返事が来ない。

こういうときに使えるのが、家庭裁判所の遺産分割調停です。裁判官と調停委員を交えて話し合う手続きです。

費用は数千円から始められます。申立ては本人でもできます。裁判というより、中立の第三者を入れた話し合いの場です。

話し合いから調停・審判までの道すじ
話し合いから調停・審判までの道すじ(作図: 弁護士による葬儀ガード)

どういう手続きか

遺産分割調停は、相続人が集まって分け方を決められないときに、家庭裁判所で行う話し合いです。

裁判官1名と、調停委員2名が間に入ります。相続人が直接顔を合わせずに進められるのが特徴です。

待合室も分けられ、交互に部屋へ呼ばれて話をします。感情の対立が強い場合でも進めやすい仕組みです。

根拠となる条文 — 調停と審判

共同相続人は、いつでもその協議で遺産の分割をすることができます(民法907条1項)。協議が調わないときや協議ができないときは、各共同相続人は家庭裁判所に分割を請求できます(同条2項)。

遺産の分割に関する処分の審判事件は、家事事件手続法の別表第二に掲げる事項として、調停を行うことができます(家事事件手続法244条)。

調停が成立しない場合、調停の申立ての時に審判の申立てがあったものとみなされ、審判手続に移行します(同法272条4項)。改めて申し立てる必要はありません。

つまり、調停で決まらなくても手続きは続きます。最終的には、裁判所が分け方を決めます。

どこに申し立てるか

管轄は決まっています。自分の住所地ではない点に注意してください。

場面申立先
通常の場合相手方(他の相続人)の住所地の家庭裁判所
相手方が複数いる場合そのうち1人の住所地の家庭裁判所
全員が合意した場合合意で定めた家庭裁判所

相手が遠方の場合、その裁判所まで行くことになります。ただし、電話会議やウェブ会議で参加できることがあります。

遠方を理由にあきらめる必要はありません。申立ての際に、その事情を伝えてください。

相手方が複数いて住所地が分かれている場合は、行きやすい裁判所を選べることがあります。

管轄が分からないときは、最寄りの家庭裁判所に電話して聞いてください。教えてもらえます。

費用はいくらか

費用は多くありません。始めるだけなら数千円です。

  • 収入印紙:1,200円(被相続人1人につき)
  • 郵便切手:裁判所が指定する額(数千円程度)
  • 戸籍などの取得費用:1通450円から750円程度
  • 不動産の登記事項証明書:1通600円程度

弁護士に依頼する場合は、別に費用がかかります。着手金と報酬の形が一般的です。

金額は事務所ごとに違います。日本弁護士連合会が定めた統一の基準は現在ありません。事前に確かめてください。

収入が一定以下であれば、法テラスの立替制度を使える場合があります。まず問い合わせてください。

立て替えてもらった費用は、原則として分割で返します。生活保護を受けている場合は、猶予されることがあります。

必要な書類

準備の中心は、相続人と遺産を確定させることです。書類はそのための資料になります。

書類取得先
申立書(裁判所の書式)家庭裁判所・裁判所ウェブサイト
故人の出生から死亡までの戸籍本籍地の市区町村
相続人全員の戸籍・住民票同上
遺産目録申立人が作成
不動産の登記事項証明書法務局
固定資産評価証明書市区町村
預貯金の残高証明書金融機関

法定相続情報一覧図があれば、戸籍の束の代わりに使えることがあります。法務局が無料で交付します。

遺産目録は、財産の一覧です。不動産・預貯金・有価証券・負債を、分かる範囲で書きます。

分からない財産があっても、申立てはできます。手続きの中で調べることもできます。

金融機関には、相続人の1人からでも残高証明書の発行を求められます。全員の同意は要りません。

不動産は、市区町村で名寄帳を取ると、その市区町村内の物件をまとめて確かめられます。

図で整理: 申立てから成立までの流れ
図で整理: 申立てから成立までの流れ(作図: 弁護士による葬儀ガード)

進み方と期間

申し立ててから、どう進むのかを知っておくと不安が減ります。

期日は、1か月から2か月に1回のペースです。全体では1年程度かかることが多くあります。

争点が少なければ、数回で終わることもあります。逆に、不動産の評価でもめると長引きます。

途中で合意ができれば、そこで終わります。相手が出てこない場合は、審判に移ることがあります。

期日には、都合が悪ければ変更を申し出られます。仕事や介護の事情は、伝えれば考慮されます。

服装に決まりはありません。落ち着いた普段着で差し支えありません。

何が話し合われるか

調停で扱うのは、遺産をどう分けるかです。前提となる事実に争いがあると、進みにくくなります。

  • 相続人は誰か
  • 遺産は何か(範囲)
  • それぞれの評価はいくらか
  • 特別受益や寄与分をどう考えるか
  • 誰が何を取得するか

このうち、相続人の範囲や遺産の範囲に強い争いがある場合は、別に訴訟が必要になることがあります。

生前に引き出された預金の使い込みが問題になる場合も、別の手続きになることがあります。調停の中で話し合われることもあります。

根拠となる条文 — 預貯金の扱い

最高裁判所大法廷平成28年12月19日決定は、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権、定期貯金債権は、相続開始と同時に当然に分割されることはなく、遺産分割の対象になるとしました。

そのため、預貯金も分割の対象として調停で扱われます。

なお、遺産分割の前でも、各相続人は口座ごとに残高の3分の1に法定相続分を掛けた額を単独で払い戻せます(民法909条の2)。金融機関ごとの上限は150万円です。

不動産の評価でもめたとき

調停が長引く原因の多くが、不動産の評価です。金額の考え方が複数あるためです。

同じ土地でも、次のように価格が違います。どれを使うかで、取り分が変わります。

評価の種類使われる場面傾向
固定資産税評価額課税、登記の登録免許税実勢より低め
相続税評価額(路線価)相続税の申告実勢の8割程度
実勢価格売買市場の価格
不動産鑑定争いがある場合費用がかかる

調停では、当事者が合意した価格を使うのが基本です。合意できない場合は、鑑定を行うことがあります。

鑑定には費用がかかります。1件あたり数十万円になることもあり、当事者が負担します。

まず、複数の不動産会社に査定を頼む方法があります。無料で出してもらえることが多く、目安になります。

売って分けると決めれば、評価の争いはなくなります。実際の売却価格で分けられるためです。

住み続けたい相続人がいる場合は、その人が取得し、他に金銭を払う形が選ばれます。

弁護士に頼むかどうか

本人でも申し立てられます。頼むかどうかは、事案の内容で決めてください。

本人で進めやすい依頼を検討したい
遺産が預貯金中心で、金額が明確不動産が複数あり、評価が争いになる
相続人の数が少ない相続人が多い、または連絡が取れない人がいる
争点が分け方だけ特別受益や寄与分が争われている
平日に裁判所へ行ける遠方で出席が難しい

依頼した場合でも、期日に本人が出席することはあります。すべてを任せきりにはできません。

まずは1回、法律相談を受けてみる方法もあります。見通しと費用を聞いてから決められます。

途中から依頼することもできます。自分で始めて、難しくなったら頼む形でも構いません。

相手方に弁護士が付いた場合は、こちらも依頼を検討する場面です。主張の整理が必要になります。

調停が成立したら

合意ができると、調停調書が作られます。これは判決と同じ効力を持ちます。

調書があれば、不動産の相続登記や、預貯金の払い戻しができます。他の相続人の協力は要りません。

  • 調書の写しを取得し、手続きに使う
  • 相続登記には期限がある(不動産の取得を知った日から3年以内)
  • 相続税の申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月

調停が長引くと、相続税の申告期限に間に合わないことがあります。その場合の取扱いがあるため、税理士に相談してください。

未分割のまま申告し、後から修正する方法が用意されています。期限そのものは動きません。

未分割のまま申告すると、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使えないことがあります。

一定の届出をしておけば、後から適用を受けられる仕組みがあります。税理士に確かめてください。

成立しなかった場合

合意ができない場合、審判に移ります。手続きは自動的に続きます。

審判では、裁判所が資料と主張をもとに分け方を決めます。話し合いではなく、判断が示される手続きです。

  • 不動産を売って分ける(換価分割)
  • 1人が取得し、他の相続人に金銭を払う(代償分割)
  • 現物のまま分ける

裁判所は、遺産の種類や性質、相続人の年齢や職業、心身の状態や生活の状況などを考慮して分割を定めます。

審判に不服がある場合は、即時抗告ができます。期間は2週間です。この期間を過ぎると、内容が確定します。

審判まで進むと、こちらの希望どおりにならないこともあります。話し合いで折り合う利点は、そこにあります。

調停の途中で歩み寄る余地があれば、成立させるほうが早く終わることが多くあります。

申立ての前にできること

調停に進む前に、試せることもあります。時間と費用を抑えられます。

  1. 遺産の一覧を作り、全員に同じものを送る
  2. 分け方の案を、書面で提案する
  3. 期限を切って返事を求める(例:3週間以内)
  4. それでも動かなければ、調停を申し立てる

一覧を作るだけで、話が動くことがあります。何がどれだけあるか分からないまま話しても、決まりません。

送るときは、記録が残る方法を使ってください。返事がないことも、後の資料になります。

感情の対立が強い場合は、早めに第三者を入れるほうが結果的に早く終わります。粘って直接交渉するより、負担も軽くなります。

遺産分割調停 — 申し立てる前の確認項目
遺産分割調停 — 申し立てる前の確認項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

まとめ

調停は、話し合いが止まったときの現実的な手段です。

  • 申立先は、相手方の住所地の家庭裁判所
  • 費用は収入印紙1,200円と郵便切手から始められる
  • 遺産の一覧を作ることが、準備の中心

まず一覧を作り、それを全員に送ってください。それだけで動く場合もあります。