兄弟で相続がもめたとき|こじらせない進め方
主張がぶつかる前に、財産の一覧を配ってください。数字がそろうと、話は動きます
「長男が実家をもらうのは当然だ」「介護をしたのは私だ」。話し合いが進まない。
相続でもめる原因は、たいてい決まっています。情報が共有されていないことと、感情と法律が混ざっていることです。
最初にすべきことは、主張ではありません。財産の一覧を作って、全員に同じものを配ることです。ここから始めてください。
もめる原因の型
相談を受ける場面は、いくつかの型に分かれます。自分がどれに当たるかを確かめてください。
| 型 | 中身 |
|---|---|
| 不動産が中心 | 分けられない。誰が住むか、売るかで割れる |
| 介護の貢献 | 世話をした人が、多く求める |
| 生前の援助 | 学費や住宅資金を受けた人がいる |
| 財産が見えない | 同居していた人しか内容を知らない |
| 使い込みの疑い | 生前に引き出された預金がある |
複数が重なっていることも多くあります。まず、何が争点なのかを紙に書き出してください。
争点が3つあるなら、3つに分けて話します。まとめて話すと、決まるものも決まりません。
最初にすること
主張の前に、情報をそろえてください。ここを飛ばすと、必ず不信が生まれます。
同居していた人が財産を把握している場合、他の相続人は不安になります。隠していると受け取られがちです。
だからこそ、聞かれる前に出すことが有効です。開示する側にとっても、疑いを避ける手段になります。
一覧を配るときは、資料の写しも添えてください。数字だけだと、根拠を疑われます。
送る方法は、記録が残る形にしてください。返事がないことも、後の資料になります。
一覧に漏れがあっても構いません。「分かっている範囲」と書いて、後から足していけば足ります。
介護の貢献をどう扱うか
「自分だけが介護した」という思いは、正当なものです。制度としては、寄与分で扱われます。
根拠となる条文 — 寄与分と特別受益
共同相続人の中に、被相続人の事業に関する労務の提供や財産上の給付、療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者があるときは、その寄与分を加えた額をもってその者の相続分とします(民法904条の2第1項)。
一方、共同相続人の中に、婚姻もしくは養子縁組のためまたは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、その贈与の価額を加えたものを相続財産とみなして相続分を計算します(同法903条1項)。
遺産の分割は、遺産に属する物または権利の種類および性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態および生活の状況その他一切の事情を考慮して行います(同法906条)。
寄与分が認められるには、通常の親族の扶助を超える貢献が必要とされています。同居していただけでは足りません。
主張するなら、記録が要ります。次のような資料を集めてください。
- 介護の期間と内容が分かる記録(介護日誌、ケアプラン)
- 要介護度が分かる書類
- 仕事を辞めた場合は、その事実が分かる資料
- 立て替えた費用の領収書
感情ではなく、期間と内容と金額で示してください。そのほうが、相手にも伝わります。
なお、相続人以外の親族が介護した場合には、特別寄与料を請求できる制度があります。子の配偶者などが対象です。
生前の援助をどう扱うか
「兄は家を建ててもらった」という主張です。これは特別受益として扱われます。
対象になるのは、婚姻や養子縁組のため、または生計の資本としての贈与です。生活費の援助のすべてが当たるわけではありません。
| 特別受益にあたりやすい | あたりにくい |
|---|---|
| 住宅の購入資金 | 通常の生活費の援助 |
| 事業の開業資金 | 少額の小遣い |
| 高額な学費(他の子と差がある場合) | 一般的な教育費 |
| 多額の結婚資金 | 慣習的な範囲の祝い |
証明できるかどうかが、実際の分かれ目になります。振込の記録や、贈与契約書があると主張しやすくなります。
なお、故人が「持ち戻しを免除する」意思を示していた場合は、計算に含めないことがあります。
古い話ほど、資料が残っていません。強く主張するほど、こじれやすい論点でもあります。
どこまで主張するかは、得られる金額と、関係に与える影響の両方で判断してください。
使い込みの疑いがあるとき
生前に、同居の家族が預金を引き出していた。この相談は多くあります。
まず、事実を確かめてください。取引履歴を取り寄せれば、いつ、いくら引き出されたかが分かります。
- 金融機関に取引履歴を請求する(相続人1人でも可)
- 引き出しの時期と金額を一覧にする
- 本人の介護費用や生活費と照らす
介護費用や医療費に使われていれば、問題にはなりません。使途を説明できるかどうかが分かれ目です。
説明がつかない部分については、不当利得の返還や損害賠償を求める余地があります。これは遺産分割とは別の手続きになることがあります。
疑いだけで責めると、関係が壊れます。まず履歴を見て、事実を確かめてから話してください。
引き出しの時期が、入院や施設入所と重なっていれば、費用に充てられた可能性が高くなります。
領収書を出してもらえるか聞いてみてください。出てくれば、その時点で解決します。
実家をどう分けるか
もめる原因の中心が、実家です。分けられない財産だからです。方法は3つあります。
| 方法 | 内容 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 現物分割 | そのまま1人が取得する | 他に十分な財産がある |
| 代償分割 | 取得する人が、他に金銭を払う | 住み続けたい人がいる |
| 換価分割 | 売却して、代金を分ける | 誰も住まない |
住み続けたい人がいる場合は、代償分割が選ばれます。ただし、金銭を用意できるかが問題になります。
用意できない場合は、分割払いにする方法もあります。合意の内容を、必ず書面にしてください。
誰も住まないなら、売って分けるのが最も分かりやすい方法です。評価の争いも起きません。
価格の目安は、複数の不動産会社に査定を頼めば分かります。無料で出してもらえることが多くあります。
共有のまま残す方法は、おすすめしません。次の相続で、権利者がさらに増えます。
遺言があった場合
遺言があると、原則としてその内容で承継されます。分け方の話し合いは不要になります。
ただし、内容に納得できない場合の選択肢があります。
- 遺留分侵害額請求をする(知った時から1年以内)
- 遺言そのものの効力を争う(判断能力や方式の不備)
- 相続人全員が合意すれば、遺言と異なる分け方もできる
遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に認められています。期限が短いため、まず意思を書面で伝えてください。
遺言の効力を争うには、証拠が必要です。診断書や、作成当時の状況を示す資料を集めることになります。
争うかどうかを決める前に、遺留分の請求だけは期限内に行っておくのが安全です。
話し合いの進め方
決まらない話し合いには、共通の特徴があります。避け方を知っておいてください。
- 全員に同じ資料を配る(口頭で説明しない)
- 提案は書面にする(「私はこう分けたい」を具体的に)
- 期限を切る(例:3週間以内に意見をください)
- 感情の話と、金額の話を分ける
- その場で結論を出そうとしない
集まって話すと、感情がぶつかりやすくなります。書面のやり取りのほうが、冷静に進むことがあります。
「介護してくれてありがとう」と伝えることも大切です。認められていないという思いが、対立の根にあることがあります。
一方で、感謝と金額は別の話です。分けて扱ってください。
調停を使う
話し合いが止まったら、家庭裁判所の遺産分割調停を使えます。負担は思ったより小さいものです。
- 費用は収入印紙1,200円と郵便切手から
- 申立ては本人でもできる
- 相手と顔を合わせずに進められる
- 調停委員が間に入り、整理してくれる
「裁判所に持ち込むと関係が壊れる」と感じる人がいます。ただ、直接ぶつかり続けるほうが、関係を損なうこともあります。
第三者が入ることで、感情の応酬が止まります。結果的に、早く終わることが多くあります。
調停でまとまらない場合は、審判に移り、裁判所が分け方を決めます。手続きは自動的に続きます。
弁護士に頼む目安
自分で進めるか、依頼するか。次の点を目安にしてください。
| 自分で進めやすい | 依頼を検討したい |
|---|---|
| 遺産が預貯金中心 | 不動産が複数ある |
| 相続人が少ない | 相手に弁護士が付いた |
| 争点が分け方だけ | 寄与分・特別受益・使い込みが絡む |
| 連絡が取れている | 連絡が取れない、感情の対立が激しい |
まず1回、法律相談を受けてみる方法もあります。見通しと費用を聞いてから決められます。
費用は事務所ごとに違います。日本弁護士連合会が定めた統一の基準は現在ありません。事前に確かめてください。
収入が一定以下であれば、法テラスの立替制度を使える場合があります。問い合わせてみてください。
放置しないでください
もめたまま止めておくと、負担が増えます。期限のある手続きもあります。
- 相続税の申告は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月
- 相続登記は、不動産の取得を知った日から3年
- 時間が経つと相続人が増え、話がさらに複雑になる
分割がまとまらなくても、相続人申告登記という簡易な手続きで登記の義務は果たせます。1人でもできます。
相続税は、未分割のまま申告し、後から修正する方法があります。期限そのものは動きません。
国民生活センターが2026年6月3日に公表した資料によると、葬儀サービスに関する相談は2025年度に917件で、うち52.6%が料金に関するものでした。葬儀の費用も、後の対立の火種になりがちです。
領収書と香典の一覧を早めに共有しておくと、この火種は小さくできます。
葬儀費用は、原則として遺産分割の対象外です。ただし、全員が合意すれば遺産から控除して分けられます。
不足額を数字で示せば、話は進みます。感情ではなく、精算表を出してください。
まとめ
順番を変えるだけで、話が動くことがあります。
- 主張の前に、財産の一覧を全員へ配る
- 介護は寄与分、生前の援助は特別受益として、記録で示す
- 止まったら、調停を使う
期限のある手続きもあります。感情の整理を待たずに、手続きだけは進めてください。
