相続税の申告が不要なケース|判断の順番

基礎控除を下回れば不要です。ただし、特例を使う場合は必要になります

遺産はそれほど多くない。相続税の申告は必要なのだろうか。

判断の順番は決まっています。まず基礎控除と比べてください。下回れば、原則として申告は不要です。

ただし、例外があります。特例を使って税額をゼロにする場合は、申告が必要です。ここを取り違えると、あとで税が生じます。

申告が必要かどうかは、この順番で判断する
申告が必要かどうかは、この順番で判断する(作図: 弁護士による葬儀ガード)

判断の順番

考える順番は3ステップです。上から順に確かめてください。

  1. 遺産の総額を集計する
  2. 基礎控除と比べる
  3. 特例を使う必要があるかを確かめる

2で下回っていて、3が「不要」なら、申告は要りません。

2で上回っている場合は、申告が必要です。税額がゼロになるかどうかは別の話です。

2で下回っていても、3で特例が必要なら申告します。ここが間違えやすい点です。

基礎控除の計算

まず、基準になる金額を出します。式はひとつだけです。

基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人の数

法定相続人の数基礎控除の額
1人3,600万円
2人4,200万円
3人4,800万円
4人5,400万円
根拠となる条文 — 遺産に係る基礎控除

相続税の課税価格の合計額から、3,000万円と600万円に相続人の数を乗じた金額との合計額を控除することとされています(相続税法15条1項)。

この相続人の数は、相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数によります(同条2項)。

被相続人に養子がある場合、相続人の数に算入する養子の数は、実子があるときは1人、実子がないときは2人までとされています(同条2項各号)。

相続放棄をした人も、人数に入れます。放棄によって控除額が減ることはありません。

養子には上限があります。実子がいれば1人、いなければ2人までです。

遺産の集計

比べる相手は、遺産の総額です。集計を間違えると、判断も間違います。

加えるもの差し引くもの
現金・預貯金借入金
不動産(土地・建物)未払いの医療費
株式・投資信託未払いの税金
生命保険金(非課税枠を超えた分)葬儀費用
死亡退職金(非課税枠を超えた分)
一定期間内の生前贈与

生命保険金と死亡退職金には、非課税の枠があります。500万円×法定相続人の数です。

相続人が3人なら、それぞれ1,500万円までは加えません。超えた分だけを集計します。

墓地・墓石・仏壇は、非課税財産です。加えません。

香典も加えません。相続財産ではないためです。

一定期間内の生前贈与は、加える必要があります。令和6年以降の贈与は、加算される期間が段階的に7年へ延長されています。

相続時精算課税を使った贈与は、期間にかかわらず全額を加えます。届出の有無を確かめてください。

贈与の記録は、通帳や贈与契約書に残っています。家族に確かめてください。

葬儀費用は差し引けます

葬儀費用は、課税価格から差し引けます。判断が微妙な場合は効いてきます。

株式会社鎌倉新書の「第7回 お葬式に関する全国調査」(2026年)によると、葬儀の総額平均は96.73万円でした。

100万円前後を差し引ける計算になります。基礎控除との差が小さければ、結論が変わることもあります。

控除できるものと、できないものが分かれています。

控除できる控除できない
通夜・告別式の費用香典返しの費用
火葬・埋葬・納骨の費用墓石・墓地の購入費
遺体の搬送費用初七日以降の法要の費用
読経料・戒名料などのお布施医学上または裁判上の特別の処置費用

この区分は、国税庁のタックスアンサー No.4129 に示されています。

お布施は領収書が出ないことが多いところです。日付・金額・寺院名をメモに残してください。

図で整理: 遺産を集計して比べる手順
図で整理: 遺産を集計して比べる手順(作図: 弁護士による葬儀ガード)

申告が必要になる特例

ここが分かれ目です。次の特例を使う場合は、税額がゼロでも申告が必要です。

  • 配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分まで)
  • 小規模宅地等の特例(自宅の評価を最大8割減)
  • 特定計画山林の特例
  • 農地等の納税猶予
根拠となる条文 — 特例の適用と申告

配偶者に対する相続税額の軽減は、相続税の申告書にその適用を受ける旨を記載し、計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り適用されます(相続税法19条の2第3項)。

小規模宅地等についての課税価格の計算の特例も、申告書にその適用を受ける旨を記載し、明細書等を添付した場合に限り適用されます(租税特別措置法69条の4第7項)。

相続税の申告書は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に提出しなければなりません(相続税法27条1項)。

つまり、「特例を使えば基礎控除以下になる」という場合は、申告が必要です。

「特例を使わなくても基礎控除以下」という場合は、申告は不要です。

この違いが、判断の中心です。順番を守れば、迷いません。

「税金がかからないなら何もしなくてよい」と考えると、後から税が生じることがあります。

自宅の評価が高い家庭では、とくに注意してください。特例なしでは基礎控除を超えることがあります。

判断が微妙なときは、特例なしの金額で比べてください。それが判断の基準になります。

申告が不要な典型例

実際にどんな家庭が不要になるのか、例を挙げます。

  1. 遺産が預貯金1,500万円のみ、相続人が子2人(基礎控除4,200万円)
  2. 遺産が自宅2,000万円と預貯金800万円、相続人が配偶者と子1人(基礎控除4,200万円)
  3. 遺産が3,000万円、生命保険金1,000万円、相続人が3人(保険は非課税枠内)

いずれも、特例を使わずに基礎控除を下回ります。申告は不要です。

国税庁の統計によると、相続税の課税対象となった被相続人は、亡くなった方全体の1割弱で推移しています。

つまり、9割以上の家庭では申告が不要です。過度に心配する必要はありません。

申告が必要になる典型例

反対に、必要になる例も挙げておきます。

理由
自宅の評価が5,000万円、相続人2人基礎控除4,200万円を超える
特例で評価が1,000万円に下がる特例を使うため申告が必要
配偶者が全部相続して税額ゼロ税額軽減を使うため申告が必要
生命保険金が非課税枠を大きく超える超えた分が課税対象になる

都市部で持ち家がある家庭では、対象になることがあります。土地の評価が高いためです。

まず、固定資産税の納税通知書を見てください。土地と建物の評価額が書かれています。

ただし、相続税の評価はこれとは別です。土地は路線価、建物は固定資産税評価額が基本です。

路線価は、国税庁のホームページで確かめられます。路線価に地積を掛けて概算できます。

申告しなかった場合

必要なのに申告しなかった場合、どうなるかも知っておいてください。

  • 無申告加算税がかかる(税額の一定割合)
  • 延滞税がかかる(納付が遅れた期間に応じて)
  • 特例が使えず、税額が大きくなる

税務署は、金融機関や登記の情報を把握しています。申告漏れは分かる仕組みになっています。

意図的な隠ぺいがあった場合は、重加算税が課されることもあります。

期限を過ぎてから気づいた場合でも、自主的に申告すれば加算税が軽くなります。早めに動いてください。

税務調査は、申告期限から数年後に行われることがあります。書類は5年から7年保管してください。

申告が不要だった場合も、遺産の一覧と領収書は残しておいてください。後から分割の話が出ることがあります。

家族への説明にも使えます。数字が見えれば、話がまとまりやすくなります。

迷ったときの確かめ方

判断がつかないときは、確かめる手段があります。費用はかかりません。

  1. 税務署に電話して、制度の説明を聞く
  2. 税理士の初回無料相談を使う
  3. 税務署の相談窓口を予約する
  4. 国税庁のホームページで確かめる

税務署は、制度の説明であれば無料で答えてくれます。個別の判断は税理士の領域です。

相談の前に、遺産の一覧を作ってください。項目と金額が並んでいれば、話が早く進みます。

判断が微妙な場合は、税理士に依頼するほうが安全です。費用は遺産総額の0.5%から1%程度が目安です。

相続に詳しい税理士を選んでください。税理士にも得意な分野があります。

初回の相談を無料で行う事務所もあります。複数に聞いて比べても構いません。

自治体の無料相談会で、税理士に相談できることもあります。予約制のことが多いところです。

財産の調べ方

集計の前に、遺産の全体像が必要です。手がかりは身の回りに残っています。

調べる先分かること
通帳・キャッシュカード取引のある金融機関
郵便物証券会社、保険会社、借入先
固定資産税の納税通知書所有する不動産
名寄帳(市区町村)同一市区町村内の不動産
信用情報機関借入れの有無

金融機関には、相続人であれば残高証明書の発行を求められます。戸籍と本人確認書類が必要です。

残高は、亡くなった日の時点のものを取ってください。申告に使うのはこの日の残高です。

不動産は、市区町村で名寄帳を取ると漏れが減ります。登記事項証明書も法務局で取れます。

証券会社の口座は、取引報告書や電子交付の通知で分かります。ネット証券は郵便物が少ないため、注意してください。

生前贈与の有無は、通帳の入出金から追えます。まとまった出金があれば、行き先を確かめてください。

期限を確かめる

申告が必要な場合は、期限があります。過ぎると加算税や延滞税が生じます。

手続き期限
相続放棄・限定承認相続の開始を知った時から3か月
準確定申告相続の開始を知った日の翌日から4か月
相続税の申告・納付相続の開始を知った日の翌日から10か月

10か月は、思ったより短い期間です。四十九日、一周忌と過ごすうちに半年が過ぎます。

不動産の評価や、遺産分割の話し合いに時間がかかります。早めに着手してください。

遺産分割がまとまらない場合でも、未分割のまま申告する方法があります。期限は延びません。

その場合、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付してください。後から特例を使えます。

分割が決まったら、更正の請求を行います。期限は、分割の日の翌日から4か月以内です。

納めすぎた分は還付されます。手続きを忘れないでください。

申告の要否 — 判断する前の確認項目
申告の要否 — 判断する前の確認項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

まとめ

判断は順番どおりに進めれば迷いません。

  • 遺産を集計し、基礎控除と比べる
  • 下回っていて、特例が不要なら申告は不要
  • 特例を使うなら、税額がゼロでも申告する

迷ったら税務署に電話してください。落ち着いて確認すれば大丈夫です。