相続人がいないとき|相続財産清算人の選任

放っておくと誰も動けません。家庭裁判所に清算人を選んでもらう手続きがあります

身寄りのない親族が亡くなった。あるいは、相続人全員が相続放棄をした。

この状態を放っておくと、誰も財産を動かせません。家賃の精算も、部屋の片付けも進みません。

制度は用意されています。家庭裁判所に相続財産清算人を選んでもらう手続きです。順に見ていきましょう。

相続人がいないとき、財産はどうなるのか
相続人がいないとき、財産はどうなるのか(作図: 弁護士による葬儀ガード)

「相続人がいない」とはどんな状態か

まず、この言葉の意味を確かめます。次の場合が該当します。

  1. 配偶者・子・親・兄弟姉妹のいずれもいない
  2. 相続人全員が相続放棄をした
  3. 相続人全員が相続欠格または廃除により相続権を失った

2番は珍しくありません。借金が多い場合、全員が放棄することがあります。

このとき、相続人が「いない」状態になります。財産を管理する人がいなくなります。

戸籍で確かめる必要があります。「いないはず」では手続きが進みません。

故人の出生から死亡までの戸籍を集め、相続人がいないことを示します。

戸籍は、転籍や改製のたびに作り替えられています。3通から6通になることが普通です。

兄弟姉妹の有無を確かめるには、故人の両親の戸籍も必要です。範囲が広くなります。

集めるのに1か月ほどかかります。早めに始めてください。

司法書士や弁護士に依頼することもできます。費用は数万円が目安です。

放っておくとどうなるか

誰も何もできない状態が続きます。実際に困るのは、周りの人です。

  • 賃貸住宅の家賃が発生し続ける
  • 部屋の片付けができない
  • 預金が凍結されたまま
  • 不動産の管理ができない
  • 債権者が回収できない

大家、債権者、施設の運営者。こうした人たちが動けなくなります。

だから、利害関係のある人が申立てをします。手続きを始める役目です。

親族であっても、相続放棄をしていれば相続人ではありません。ただし、利害関係人として申し立てられます。

相続財産清算人とは

家庭裁判所が選任する、財産を管理・清算する人です。弁護士が選ばれることが多くあります。

根拠となる条文 — 相続財産清算人の選任

相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人とされます(民法951条)。

家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければなりません(民法952条1項)。

選任の公告があった後、6か月以上の期間を定めて、相続人があるならばその期間内に権利を主張すべき旨を公告することとされています(同条2項)。

令和5年の改正で、「相続財産管理人」から「相続財産清算人」に名称が変わりました。

清算人の役割は、財産を調査し、債務を支払い、残りを処理することです。

具体的には、次のような仕事をします。

仕事内容
財産の調査預貯金・不動産・債務を確かめる
財産の管理家賃の支払い、不動産の維持
債務の弁済債権者へ支払う
換価不動産などを売却して現金化する
分与特別縁故者へ財産を分ける(裁判所の審判による)
国庫帰属残った財産を国に引き継ぐ

申立てができる人

誰でも申し立てられるわけではありません。利害関係が必要です。

  • 債権者(貸金業者、大家、病院など)
  • 特別縁故者になり得る人(内縁の配偶者、療養看護をした人)
  • 遺言で財産を受け取る人(受遺者)
  • 特定の財産を買いたい人(隣地の所有者など)
  • 成年後見人だった人
  • 検察官

自治体が申し立てることもあります。空き家の管理が問題になる場合などです。

申立先は、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

住所が分からない場合は、財産の所在地を管轄する家庭裁判所になります。

申立書の書式は、裁判所のホームページで入手できます。記入例も掲載されています。

費用と予納金

いちばん現実的な問題が、費用です。まとまった金額が必要になります。

費目金額の目安
収入印紙800円
連絡用の郵便切手数千円
官報公告料5,000円前後
予納金20万円〜100万円

予納金は、清算人の報酬や実費に充てられます。財産が少ない場合に必要になります。

財産が十分にあれば、予納金が不要になったり、少額で済んだりします。

手続きが終わって余りが出れば、返還されます。ただし、全額が戻るとは限りません。

金額は、財産の内容と管理の手間で決まります。裁判所が判断します。

申立ての前に、家庭裁判所へ相談してください。見込みを教えてもらえます。

予納金が用意できない場合、手続きを始められません。ここが実務上の壁になります。

債権者が申し立てる場合は、回収できる見込みと予納金を比べて判断します。

回収額が予納金を下回るなら、申し立てない選択もあります。現実的な判断です。

自治体が公費で対応する制度がある地域もあります。窓口で確かめてください。

図で整理: 清算人の選任から国庫帰属まで
図で整理: 清算人の選任から国庫帰属まで(作図: 弁護士による葬儀ガード)

手続きの流れと期間

手続きには時間がかかります。急ぐ性質のものではありません。

令和5年の改正で、公告が同時に行えるようになりました。以前より期間が短縮されています。

それでも、選任から終了まで10か月以上かかるのが通常です。1年を超えることもあります。

途中で相続人が見つかれば、手続きは終了します。その相続人が財産を引き継ぎます。

見つかった相続人は、そこから3か月以内に相続放棄を検討できます。

清算人が行った行為は、原則としてそのまま効力を持ちます。

手続きの進み具合は、清算人に問い合わせれば教えてもらえます。

特別縁故者への分与

法律上の相続人でなくても、財産を受け取れる場合があります。

根拠となる条文 — 特別縁故者に対する分与

相続人の捜索の公告期間内に相続人としての権利を主張する者がなかった場合、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に清算後残存すべき相続財産の全部または一部を与えることができます(民法958条の2第1項)。

この請求は、公告期間の満了後3か月以内にしなければなりません(同条2項)。

処分されなかった相続財産は、国庫に帰属します(民法959条)。

該当し得るのは、次のような人です。

立場該当の可能性
内縁の配偶者高い
事実上の養子高い
献身的に療養看護した人高い
長年同居していた友人事情による
世話をしていた施設の職員職務を超えた関わりがあれば

3か月の期限に注意してください。公告期間の満了後、すぐに動く必要があります。

分与されるかどうか、いくら分与されるかは、裁判所が判断します。全額とは限りません。

証拠が必要です。同居の実態、介護の記録、金銭の負担の記録をそろえてください。

「親しかった」だけでは足りません。生活の実態が求められます。

分与の額は、財産の額、縁故の程度、他に縁故者がいるかで変わります。

全額が分与されることもあれば、一部にとどまることもあります。

特別縁故者の準備

該当しそうな場合は、早めに準備を始めてください。記録が結論を左右します。

  • 住民票(同一世帯であったこと)
  • 写真、手紙、日記
  • 介護の記録、通院の付き添いの記録
  • 生活費を負担した記録(振込・領収書)
  • 葬儀を主宰したことが分かる資料

葬儀を執り行ったことも、縁故を示す事情のひとつになります。

株式会社鎌倉新書の「第7回 お葬式に関する全国調査」(2026年)によると、葬儀の総額平均は96.73万円でした。負担した費用の記録は残してください。

弁護士に相談すると、必要な資料を整理してもらえます。早い段階での相談をおすすめします。

特別縁故者の申立て自体は、本人でも行えます。書式は家庭裁判所にあります。

ただし、認められるかどうかは事情によります。資料の作り方で結果が変わることがあります。

分与された財産には、相続税がかかります。基礎控除の計算では、法定相続人がいないため3,000万円が基準になります。

税額の2割加算の対象にもなります。金額が大きい場合は、税理士に確かめてください。

葬儀と納骨は誰が行うのか

清算人が選任されるまでには時間がかかります。葬儀は待てません。

実際には、親族や知人、施設の職員が行うことが多くあります。

費用を立て替えた場合は、後から清算人に請求できます。領収書を残してください。

状況実務での対応
親族がいる(相続放棄した人を含む)親族が主宰することが多い
誰もいない市区町村が火葬を行う
施設で亡くなった施設が手配し、後で精算

引き取る人がいない場合、市区町村が埋葬または火葬を行うこととされています。

墓地埋葬法9条に、その定めがあります。費用は、故人の遺留金品から充てられます。

遺骨は、一定期間は自治体が保管します。その後、合葬墓などに納められます。

相続放棄をした人が葬儀を行っても、それだけで放棄が無効になるわけではありません。

ただし、故人の預金から支払うと問題になり得ます。自分のお金で立て替えてください。

生前にできる対策

そもそも、この手続きを避ける方法があります。生前に準備する形です。

  1. 遺言を作り、財産を渡す相手を指定する
  2. 死後事務委任契約を結び、手続きを頼む
  3. 任意後見契約とあわせて備える
  4. 生命保険の受取人を指定する

遺言があれば、清算人の手続きを経ずに財産を渡せます。いちばん簡単な対策です。

自筆証書遺言なら、法務局の保管制度が使えます。手数料は3,900円です。

死後事務委任契約では、葬儀・納骨・部屋の片付けまで頼めます。預託金の管理方法を確かめてください。

身寄りのない方が増えています。元気なうちに決めておく価値があります。

遺言を作るときは、遺言執行者も指定してください。手続きを進める人が決まります。

財産を渡す相手がいない場合は、団体への寄附を指定する方法もあります。

いずれの場合も、家族や知人に「遺言を作った」と伝えておいてください。

法務局の保管制度では、死亡時に指定した人へ通知が届く設定もできます。

相続人がいないとき — 進める前の確認項目
相続人がいないとき — 進める前の確認項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

まとめ

相続人がいない場合は、手続きを始める人が必要です。

  • 利害関係人が、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる
  • 予納金が必要になる。20万円から100万円が目安
  • 特別縁故者は、公告期間の満了後3か月以内に申し立てる

生前の遺言で、この手続きは避けられます。落ち着いて準備すれば大丈夫です。