相続人の調査方法|戸籍で確定させる手順
「家族だから分かっている」では足りません。戸籍でたどるのが手続きの前提です
預金の解約に行ったら、「戸籍を全部そろえてください」と言われた。何のことか分からない。
これは、相続人を確定するための作業です。家族が知っている範囲ではなく、戸籍でたどって確かめる必要があります。
作業は地味ですが、順番どおりに進めれば終わります。手順を整理しておきましょう。
なぜ戸籍が必要なのか
「相続人は自分と弟の2人です」と言っても、金融機関や法務局は受け付けません。
理由は簡単です。家族が知らない相続人がいる可能性を、書類で否定する必要があるためです。
実際、次のような例があります。
- 前の配偶者との間に子がいた
- 認知した子がいた
- 養子縁組をしていた
- すでに亡くなった子に、子(孫)がいた
どれも珍しいことではありません。本人が家族に話していないこともあります。
戸籍をたどれば、これらはすべて記録に残っています。だから、戸籍で確かめます。
一人でも相続人が抜けていると、遺産分割協議は無効になります。やり直しになります。
登記や預金の解約も、やり直しになります。時間も費用も無駄になります。
だから、最初に戸籍でしっかり確定させます。急がば回れの作業です。
相続放棄をした人がいる場合は、相続放棄申述受理証明書も必要になります。
必要な戸籍の範囲
集めるものは決まっています。次の2つです。
| 誰の分か | 何を | 目的 |
|---|---|---|
| 故人 | 出生から死亡までの連続した戸籍 | 子の有無を確かめる |
| 相続人全員 | 現在の戸籍(戸籍謄本または抄本) | 生存を確かめる |
故人の戸籍は「連続していること」が要点です。抜けがあると受け付けてもらえません。
戸籍は、次のような理由で作り替えられます。
- 結婚して新しい戸籍を作った
- 転籍(本籍を移した)
- 法律の改正で様式が変わった(改製)
- 家督相続などの制度が変わった
だから、1人の戸籍が3通から6通になることは普通です。
明治・大正生まれの方の場合、さらに通数が増えます。制度の改正を何度も経ています。
古い戸籍は手書きで、旧字体が使われています。読めなくても、窓口で確かめれば足ります。
戦災で戸籍が焼失している地域もあります。その場合は、告知書が発行されます。
集め方の順番
さかのぼる方向で進めます。新しいものから古いものへ、です。
最後の本籍地は、住民票の除票(本籍地の記載あり)で確かめられます。
戸籍には「○○から転籍」「○○で除籍」といった記載があります。そこが次の請求先です。
読みにくい古い戸籍もあります。窓口で「相続に使います」と伝えれば、教えてもらえます。
近年は、本籍地以外の市区町村でも戸籍証明書を取得できる制度が広がっています。窓口で確かめてください。
この制度を使えば、最寄りの窓口で全国の戸籍をまとめて請求できることがあります。
対象や範囲には条件があります。事前に電話で確かめると、二度手間を防げます。
コンピュータ化される前の古い戸籍は、対象外のことがあります。その場合は本籍地へ請求します。
手書きの戸籍は、読み取りに時間がかかります。窓口で職員に確かめてください。
郵送で請求する
遠方の市区町村には、郵送で請求できます。手順は決まっています。
| 同封するもの | 備考 |
|---|---|
| 請求書 | 市区町村のホームページから入手 |
| 本人確認書類のコピー | 運転免許証など |
| 手数料(定額小為替) | 郵便局で購入 |
| 返信用封筒 | 切手を貼り、宛先を記入 |
| 関係が分かる戸籍のコピー | 自分が相続人であることを示す |
定額小為替は、郵便局で買えます。1枚あたり200円の発行手数料がかかります。
戸籍の通数が分からない場合は、多めに同封し、「不足分は連絡してください」と書き添えます。
余った分は返却されます。「相続手続きのため、出生から死亡までのすべて」と書けば、まとめて出してもらえます。
往復で1週間から2週間かかります。複数の市区町村にまたがると、1か月ほど見ておいてください。
相続税の申告期限は10か月です。戸籍集めに1か月を使っても、まだ余裕があります。
一方、相続放棄を考えている場合は、3か月の期限があります。急いでください。
戸籍がそろわなくても、相続放棄の申述は先に行えます。後から追完できます。
費用の目安
手数料は、種類によって決まっています。
- 戸籍謄本 450円
- 除籍謄本 750円
- 改製原戸籍 750円
- 住民票の除票 300円前後
- 定額小為替の発行手数料 1枚200円
1人分をそろえると、3,000円から6,000円ほどになることが多くあります。
相続人が多い場合や、転籍が多い場合は、1万円を超えることもあります。
司法書士や弁護士に依頼すると、代行してもらえます。費用は3万円から10万円が目安です。
仕事を休んで窓口に通うことを考えると、依頼したほうが結果として安く済むこともあります。
自分で始めてみて、難しければ途中から依頼する形でも構いません。
誰が相続人になるのか
集めた戸籍から、相続人を確定します。順位は決まっています。
根拠となる条文 — 相続人の範囲と順位
被相続人の子は、相続人となります(民法887条1項)。子が相続開始以前に死亡したときなどは、その子(孫)が代襲して相続人となります(同条2項)。
子がいない場合、直系尊属が相続人となり、直系尊属もいない場合は兄弟姉妹が相続人となります(民法889条1項)。
被相続人の配偶者は、常に相続人となります。子・直系尊属・兄弟姉妹がいる場合は、これらの者と同順位です(民法890条)。
上の順位の人が1人でもいれば、下の順位の人は相続人になりません。
子が1人でもいれば、故人の親や兄弟姉妹は相続人になりません。ここを取り違えやすいところです。
法定相続分も、条文で決まっています。
| 相続人の組み合わせ | 配偶者 | ほかの相続人 |
|---|---|---|
| 配偶者と子 | 2分の1 | 2分の1を子の人数で分ける |
| 配偶者と直系尊属 | 3分の2 | 3分の1を分ける |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 4分の3 | 4分の1を分ける |
| 配偶者のみ | 全部 | — |
知らない相続人が出てきたら
調査の結果、面識のない相続人が判明することがあります。慌てないでください。
まず、住所を確かめます。戸籍の附票を取れば、住民登録上の住所が分かります。
その住所へ、手紙を送るところから始めます。いきなり訪問しないでください。
- 誰が亡くなったか
- 自分は誰か(関係を説明する)
- 遺産の内容の概要
- 連絡してほしい旨と、連絡先
丁寧な手紙であれば、返事が来ることが多くあります。相手も驚いています。
やり取りが難しい場合は、弁護士に間に入ってもらう方法があります。
相手にも法定相続分の権利があります。これは動かせません。
はんこ代として一定の金額を渡し、協議に応じてもらう形が取られることもあります。
金額に決まりはありません。遺産の規模と、相手の理解によります。
行方が分からない相続人がいる場合
住所をたどっても連絡がつかないことがあります。制度が用意されています。
根拠となる条文 — 不在者財産管理人と失踪宣告
従来の住所または居所を去った者(不在者)がその財産の管理人を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人等の請求により、財産の管理について必要な処分を命ずることができます(民法25条1項)。
不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができます(民法30条1項)。
失踪の宣告を受けた者は、7年の期間が満了した時に死亡したものとみなされます(民法31条)。
不在者財産管理人を選任すれば、その管理人が遺産分割協議に加わります。
失踪宣告は、7年の要件があります。時間はかかりますが、確定的な解決になります。
どちらも家庭裁判所への申立てが必要です。弁護士に相談してください。
不在者財産管理人の選任には、予納金が必要になることがあります。数十万円になる例もあります。
遺産の額と、かかる費用を見比べて判断してください。
判断能力が低下している相続人がいる場合は、成年後見人の選任が必要になります。
相続人に含まれない人
戸籍を見るときに、迷いやすい立場を整理しておきます。
| 立場 | 相続人になるか |
|---|---|
| 内縁の配偶者 | ならない |
| 離婚した元配偶者 | ならない |
| 元配偶者との間の子 | なる |
| 配偶者の連れ子(養子縁組なし) | ならない |
| 養子 | なる |
| 認知された子 | なる |
| 胎児 | 生まれれば相続人になる |
離婚しても、子との親子関係は続きます。ここを見落とすと、協議が無効になります。
連れ子は、養子縁組をしていなければ相続人になりません。戸籍で確かめてください。
内縁の配偶者は相続人になりませんが、特別縁故者として財産を受け取れる場合があります。
同性のパートナーも、現行法では相続人になりません。遺言で対応する形になります。
相続人になれない立場の方に財産を残したい場合は、生前に遺言を作ってください。
法定相続情報一覧図を作る
戸籍の束を、手続きのたびに提出するのは大変です。便利な制度があります。
法定相続情報一覧図は、相続関係を1枚にまとめた図です。法務局が認証します。
- 戸籍一式をそろえる
- 一覧図を作成する(様式は法務局のホームページにある)
- 申出書とともに法務局へ提出する
- 認証された写しの交付を受ける(無料)
交付は無料です。必要な枚数を請求できます。
以後、金融機関や法務局での手続きは、この1枚で足ります。戸籍の束を持ち歩かずに済みます。
相続税の申告にも使えます。手続きが多い家庭では、作っておく価値があります。
作成は、自分でもできます。様式に沿って、氏名・生年月日・続柄を書き込むだけです。
申出は、故人の本籍地・最後の住所地・申出人の住所地などを管轄する法務局で行えます。
郵送でも申し出られます。返信用の封筒を同封してください。
後から追加で必要になった場合も、5年間は再交付を受けられます。
株式会社鎌倉新書の「第7回 お葬式に関する全国調査」(2026年)によると、葬儀の総額平均は96.73万円でした。葬儀費用の精算でも、相続人の確定が前提になります。
まとめ
相続人の調査は、順番どおりに進めれば終わります。
- 故人の出生から死亡までの戸籍を、さかのぼって集める
- 相続人全員の現在の戸籍もそろえる
- 法定相続情報一覧図を作れば、以後の手続きが楽になる
時間がかかる作業です。早めに始めれば大丈夫です。
