葬儀費用を生前に準備する|贈与と預金の注意点

名義は誰にするか。ここを決めておかないと、いざというとき使えません

「葬儀の費用は残しておくから」と親から聞いている。でも、どこにどう置けばよいか分からない。

いちばん大事なのは名義です。故人名義の口座は、亡くなると凍結されます。そのままでは使えません。

準備の方法はいくつかあります。それぞれに利点と注意点があります。順に見ていきましょう。

葬儀費用を準備する4つの方法
葬儀費用を準備する4つの方法(作図: 弁護士による葬儀ガード)

口座は凍結されます

まず、いちばん多い誤解から解きます。「親の口座から出せばよい」とは限りません。

金融機関が死亡の事実を把握すると、その口座は凍結されます。入出金ができなくなります。

凍結される理由は、相続人全員の財産を守るためです。1人が勝手に引き出すことを防いでいます。

解除するには、相続の手続きが必要です。戸籍をそろえ、相続人全員の同意を示す形になります。

この手続きには数週間から数か月かかります。葬儀の支払いには間に合いません。

つまり、故人名義の口座に置いておくだけでは、いざというときに使えないおそれがあります。

仮払いの制度

とはいえ、まったく引き出せないわけではありません。制度があります。

根拠となる条文 — 預貯金の仮払い

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、相続開始時の債権額の3分の1に、その相続人の法定相続分を乗じた額について、単独で権利を行使することができます(民法909条の2)。

同一の金融機関に対して権利を行使できる金額の上限は、150万円とされています(民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令)。

家庭裁判所に対して、遺産の分割の審判または調停の申立てをしたうえで、預貯金の全部または一部の仮分割を求める方法もあります(家事事件手続法200条3項)。

たとえば、預金1,200万円、相続人が子2人の場合を考えます。

1,200万円の3分の1は400万円です。これに法定相続分の2分の1を掛けると200万円になります。

ただし、同じ金融機関では150万円が上限です。したがって、引き出せるのは150万円です。

株式会社鎌倉新書の「第7回 お葬式に関する全国調査」(2026年)によると、葬儀の総額平均は96.73万円でした。150万円あれば、多くの場合は足ります。

手続きには、戸籍と本人確認の書類が必要です。数日から2週間ほどかかります。

必要な戸籍は、故人の出生から死亡までの連続したものです。集めるのに時間がかかります。

法定相続情報一覧図を作っておくと、金融機関ごとに戸籍を出す手間が省けます。法務局で無料で交付されます。

複数の金融機関に口座がある場合は、それぞれで150万円まで引き出せます。

生前贈与で渡しておく

元気なうちに、子へお金を渡しておく方法があります。名義が変われば、凍結の影響を受けません。

ただし、贈与税の問題があります。金額によっては税が生じます。

根拠となる条文 — 贈与税の基礎控除と持ち戻し

贈与税の課税価格から、暦年ごとに110万円を控除することとされています(相続税法21条の5、租税特別措置法70条の2の4)。

相続または遺贈により財産を取得した者が、相続開始前一定期間内に被相続人から贈与を受けていた場合、その財産の価額を相続税の課税価格に加算します(相続税法19条1項)。

令和6年1月1日以後の贈与については、加算される期間が段階的に7年へ延長されています(国税庁タックスアンサー No.4161)。

年間110万円までは、贈与税がかかりません。数年に分けて渡す方法があります。

ただし、相続税の申告が必要な家庭では、一定期間内の贈与が相続財産に加算されます。

節税を目的にする場合は、税理士に相談してください。この記事の範囲を超えます。

葬儀費用の準備という点では、金額が大きくなければ問題になりにくいところです。

毎年同じ額を同じ日に渡していると、まとまった贈与と見られることがあります。

贈与のたびに、贈与契約書を作っておくと確実です。日付と金額、双方の署名を残します。

振込で渡すと、記録が残ります。現金で手渡すと、後から証明しにくくなります。

子の口座に「預けておく」形

贈与ではなく、預かってもらう形にする方法もあります。ただし、注意が必要です。

親のお金を子の口座に入れ、親が管理しているような場合は、名義預金とみなされることがあります。

名義預金と判断されると、相続財産に含まれます。相続税の対象になります。

  • 通帳と印鑑を誰が管理しているか
  • 実際に子が自由に使えるか
  • 贈与の意思と受諾があったか

この3点で判断されます。形だけ名義を変えても、実態が伴わなければ意味がありません。

葬儀費用として渡すのであれば、実際に子が管理する形にしてください。

生命保険を使う

いちばん確実なのが、生命保険です。凍結の影響を受けません。

死亡保険金は、受取人固有の財産として扱われるのが通常です。遺産分割の対象にもなりません。

方法受け取りまでの日数凍結の影響
生命保険請求から5日〜1週間受けない
仮払い制度数日〜2週間上限150万円
相続手続き後の払い戻し数週間〜数か月受ける
生前贈与即時(すでに手元にある)受けない

保険金の請求には、死亡診断書のコピーと保険証券が必要です。準備しておいてください。

受取人が指定されているかを確かめてください。「法定相続人」となっている場合は、手続きが増えます。

少額短期保険(葬儀保険)は、高齢でも入りやすい商品です。保険金は50万円から300万円程度です。

告知の項目が少なく、持病があっても入れる商品があります。保険料は年齢とともに上がります。

掛け捨てのため、長生きすると払込総額が保険金を上回ることがあります。ここは計算してください。

すでに加入している保険があるなら、まずその内容を確かめてください。新たに入る必要がないこともあります。

図で整理: 準備の方法を選ぶ手順
図で整理: 準備の方法を選ぶ手順(作図: 弁護士による葬儀ガード)

互助会という方法

月々の掛金を積み立て、葬儀の代金に充てる制度です。古くからある仕組みです。

積立額で葬儀の全額がまかなえるわけではありません。差額の支払いが生じるのが通常です。

根拠となる条文 — 前払式特定取引と保全措置

葬儀のための費用を、2か月以上の期間にわたり3回以上に分割して受領する取引は、前払式特定取引として割賦販売法の規律を受けます(割賦販売法2条6項)。

この取引を業として行う者は、経済産業大臣の許可を受けなければなりません(同法11条)。

許可を受けた事業者は、前受金の2分の1に相当する額について、保全措置を講じなければならないとされています(同法18条の3)。

保全措置があるため、会社が倒産しても一定の範囲は保護されます。それでも全額ではありません。

解約する場合は、手数料が引かれるのが一般的です。契約の前に、返金の条件を確かめてください。

引っ越しで使えなくなることもあります。使える地域も確かめてください。

死後事務委任契約

身寄りが少ない場合は、死後の手続きを頼む契約があります。葬儀の手配も含められます。

弁護士や司法書士、専門の事業者と結びます。費用は預託金として先に預けます。

  • 葬儀・納骨の手配
  • 役所への届出
  • 公共料金や賃貸の解約
  • 遺品の整理

預託金の管理方法を確かめてください。分別して管理されているかが要点です。

契約の内容は、書面にして残します。家族がいる場合は、内容を伝えておいてください。

国民生活センターが2026年6月3日に公表した資料によると、葬儀サービスに関する相談は2025年度に917件で、うち52.6%が料金に関するものでした。

相続放棄を考えている場合

家族の中に相続放棄を考えている人がいるときは、注意が必要です。

故人の預貯金から葬儀費用を出すと、財産を処分したと見られるおそれがあります。

根拠となる条文 — 相続財産の処分と単純承認

相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号)。

相続の承認または放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にしなければなりません(同法915条1項)。

もっとも、社会通念上相当な範囲の葬儀費用の支出については、単純承認にあたらないと判断された例があります(大阪高等裁判所平成14年7月3日決定、家月55巻1号82頁)。

金額と使途が判断の分かれ目になります。過大な支出は避けてください。

支出したときは、領収書と使途のメモを必ず残してください。後から説明できる状態にします。

判断に迷う場合は、支出の前に弁護士へ確かめてください。あとから戻せない行為です。

生命保険金は、受取人固有の財産です。相続放棄をしても受け取れます。この点でも保険は使いやすい方法です。

準備しておくとよい書類

お金だけでなく、書類の準備も大事です。探す手間が減ります。

書類置いておく理由
保険証券請求に必要。保険会社と証券番号
互助会の会員証使えるかどうかの確認
事前見積もり金額の目安が分かる
遺影用の写真家族が探さなくて済む
連絡先の一覧訃報を伝える相手

一つの封筒にまとめ、家族が見つけられる場所に置いてください。

エンディングノートに書き残す方法もあります。法的な効力はありませんが、意思は伝わります。

保管場所を家族に伝えておいてください。本人だけが知っていると、いざというときに使えません。

金庫に入れる場合は、鍵の場所も伝えてください。開けられないと意味がありません。

貸金庫は、亡くなると開けられなくなります。重要な書類は入れないほうが安全です。

デジタルで保管する場合は、パスワードの引き継ぎ方法も決めておいてください。

準備の順番

迷ったら、次の順で進めてください。すべてを一度にやる必要はありません。

  1. 事前見積もりを取り、金額の目安を知る
  2. その金額を、どこから出すかを決める
  3. 口座の名義と、引き出せる方法を確かめる
  4. 保険の受取人を確かめる
  5. 書類を一つの封筒にまとめる

1番から始めるのが確実です。金額が見えないと、いくら準備すればよいか決まりません。

事前見積もりを無料で出す会社は多くあります。契約の義務はありません。

数年で価格は変わります。目安として持ちつつ、必要になったときに出し直してもらってください。

家族で希望を話しておくことも、準備のひとつです。形式と規模が決まれば、金額も見えます。

「家族葬でよい」と本人が言っていれば、遺族は迷いません。これは金額以上に効きます。

話しにくい話題ですが、元気なうちのほうが話しやすいものです。

生前の準備 — 決めておく項目
生前の準備 — 決めておく項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

まとめ

準備で大事なのは、金額よりも「使える形にしておくこと」です。

  • 故人名義の口座は凍結される。仮払いには上限がある
  • 生命保険は、受取人が請求すればすぐに受け取れる
  • 事前見積もりを取り、金額の目安を家族と共有する

書類は一つの封筒にまとめてください。落ち着いて準備すれば大丈夫です。