公正証書遺言はなぜ検認がいらないのか|作り方と費用

公証人が関与して作るため、内容と成立が公的に確かめられているからです

「公正証書遺言なら検認がいらない」と聞いたけれど、なぜなのか分からない。

理由は単純です。公証人が関与して作成しているため、内容と成立がすでに公的に確かめられているからです。

改めて家庭裁判所で確認する必要がありません。その分、相続開始後の手続きが早く進みます。

公正証書遺言はなぜ検認がいらないのか
公正証書遺言はなぜ検認がいらないのか(作図: 弁護士による葬儀ガード)

検認とは何か

まず、検認の意味から整理します。誤解の多い手続きです。

検認は、家庭裁判所が遺言書の存在と内容を確認し、記録する手続きです。

遺言が有効かどうかを判断するものではありません。ここを取り違えないでください。

目的は、その後の偽造や変造を防ぐことにあります。現状を記録に残す手続きです。

根拠となる条文 — 検認と公正証書遺言の例外

遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければなりません(民法1004条1項)。

ただし、公正証書による遺言については、この規定は適用されません(同条2項)。

封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いがなければ開封できません(同条3項)。

条文にそのまま書かれています。公正証書遺言は、検認の対象外です。

理由は、作成の過程で公証人が関与し、原本が公証役場に保管されるためです。

偽造や変造のおそれが低い。だから、改めて確認する必要がない、という整理です。

検認が不要だと何が変わるか

実務では、大きな差になります。時間と手間が違います。

項目自筆(保管制度なし)公正証書
検認の要否必要不要
かかる期間1〜2か月0
相続人全員への通知ありなし
開封の制限あり(勝手に開けると過料)なし
手続きの開始検認後すぐ

検認には1か月から2か月かかります。その間、預貯金の払い戻しや登記が進みません。

相続税の申告期限は10か月です。2か月を検認に使うと、残りが短くなります。

公正証書であれば、亡くなった翌日からでも手続きに入れます。

金融機関に謄本を提出すれば、払い戻しの手続きが進みます。

不動産の登記も、謄本を添付して申請できます。遺産分割協議書は不要です。

相続人全員の印鑑証明書を集める必要もありません。ここが大きな違いです。

作成の流れ

作成は、公証役場で行います。手順は決まっています。

打ち合わせは、電話やメールでも進められます。何度かやり取りする形が一般的です。

当日は、30分から1時間ほどで終わります。原案ができていれば、確認と署名が中心です。

読み聞かせを受け、内容に間違いがなければ署名し、実印を押します。

その場で正本と謄本が交付されます。原本は公証役場に保管されます。

相談から作成まで、2週間から1か月ほどを見ておいてください。

体が不自由で外出できない場合は、公証人に出張してもらえます。費用は加算されます。

必要な書類

事前にそろえておくと、手続きが早く進みます。

書類誰の分か
印鑑登録証明書(3か月以内)遺言者
戸籍謄本遺言者と相続人の関係が分かるもの
住民票受遺者(相続人以外に渡す場合)
登記事項証明書・固定資産評価証明書不動産がある場合
通帳のコピー預貯金がある場合
証人の身分証明書・住所と職業のメモ証人2人

不動産は、登記事項証明書のとおりに特定します。地番と家屋番号が必要です。

預貯金は、金融機関名・支店名・口座番号まで記載します。

書類の取得には時間がかかります。早めに動いてください。

戸籍は、本籍地の市区町村で取ります。郵送でも請求できます。

近年は、本籍地以外の窓口でも戸籍証明書を取得できる制度が広がっています。窓口で確かめてください。

固定資産評価証明書は、不動産のある市区町村で取ります。手数料は数百円です。

手数料の目安

手数料は、財産の額と、渡す相手の人数で決まります。

目的の価額手数料
100万円以下5,000円
500万円以下11,000円
1,000万円以下17,000円
3,000万円以下23,000円
5,000万円以下29,000円
1億円以下43,000円

この手数料は、渡す相手ごとに計算します。3人に分ける場合は、それぞれの取得額で計算して合算します。

全体の財産が1億円以下の場合は、11,000円が加算されます(遺言加算)。

正本・謄本の交付にも、1枚あたり250円ほどがかかります。

手数料の額は、公証人手数料令で定められています。公証役場によって違いはありません。

遺産3,000万円を1人に相続させる場合、合計で3万円台になることが多くあります。

弁護士や司法書士に原案の作成を依頼すると、その報酬が別に生じます。

報酬の目安は10万円から30万円程度です。財産の内容と、争いの見込みで変わります。

自分で原案を作り、公証人と直接やり取りする方法もあります。費用を抑えられます。

内容が単純であれば、専門家に頼まずに作れます。不動産が複数ある場合などは、相談したほうが安全です。

見積もりを取ってから決めて構いません。複数の事務所に聞いても差し支えありません。

図で整理: 作成から保管までの流れ
図で整理: 作成から保管までの流れ(作図: 弁護士による葬儀ガード)

証人の要件

証人は2人必要です。誰でもよいわけではありません。

根拠となる条文 — 公正証書遺言の方式と証人の欠格

公正証書によって遺言をするには、証人2人以上の立会いのもと、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授し、公証人がこれを筆記して遺言者及び証人に読み聞かせ、または閲覧させることなどが必要です(民法969条)。

未成年者、推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族、公証人の配偶者や四親等内の親族などは、遺言の証人または立会人となることができません(同法974条)。

口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合は、通訳人の通訳による申述または自書によることができます(同法969条の2)。

相続人や、財産をもらう人は証人になれません。その配偶者や子も同じです。

適当な人が見つからない場合は、公証役場で紹介してもらえます。日当が必要です。

弁護士や司法書士に依頼した場合は、その事務所の職員が証人を務めることもあります。

証人には、遺言の内容が知られます。この点も踏まえて選んでください。

守秘義務のある専門家に頼めば、その心配は小さくなります。

友人や知人に頼む場合は、内容を知られてよいかを考えてください。

公証役場で紹介してもらう場合の日当は、1人あたり5,000円から1万円程度が目安です。

亡くなった後の探し方

公正証書遺言があるかどうかは、全国どこの公証役場からでも調べられます。

遺言検索システムに、1989年以降に作成された遺言の情報が登録されています。

  • 相続人であることを示す戸籍
  • 本人確認書類
  • 遺言者の死亡が分かる除籍謄本

これらを持参して、公証役場で照会します。手数料はかかりません。

見つかれば、原本を保管している公証役場で謄本の交付を受けられます。

生前は、遺言者本人しか照会できません。家族が勝手に調べることはできません。

だから、作ったことを家族に伝えておくと確実です。公証役場の名前も伝えてください。

正本と謄本は、遺言者に交付されます。信頼できる人に預けておく方法もあります。

原本は公証役場に保管されるため、正本をなくしても内容は失われません。

自筆+保管制度との比較

もうひとつの方法と比べておきます。どちらにも利点があります。

項目公正証書自筆+法務局の保管制度
費用数万円〜十数万円3,900円
作成公証人が作成自分で手書き
証人2人必要不要
検認不要不要
内容のチェック公証人が確認受けられない
無効になるリスク低い内容次第で残る

費用を抑えたいなら、保管制度です。確実性を重視するなら、公正証書です。

財産が多い場合や、争いが予想される場合は、公正証書のほうが安全です。

判断能力に不安がある場合も、公正証書が向いています。公証人が本人の意思を確かめるためです。

字を書くことが難しい方でも作成できます。公証人が筆記するためです。

耳が不自由な方や、話すことが難しい方も、通訳人を介して作成できます。

自筆が難しくなってきたと感じたら、公正証書を検討してください。

無効を争われることはあるか

公正証書遺言でも、争いが起きることはあります。数は多くありませんが、知っておいてください。

争点になるのは、主に遺言能力です。作成の時点で判断能力があったかどうかです。

認知症の診断を受けていた場合などに、後から争われることがあります。

  • 診療記録・介護記録
  • 要介護認定の資料
  • 作成時の様子(公証人の記録)
  • 遺言の内容の合理性

これらをもとに判断されます。公証人が本人の意思を確かめている点は、有利にはたらきます。

不安がある場合は、作成時に医師の診断書を取っておく方法があります。

長谷川式のような認知機能の検査結果を残す例もあります。争いの予防になります。

遺言を作るときに考えること

制度の話だけでなく、内容についても触れておきます。

遺留分に配慮してください。兄弟姉妹以外の相続人には、最低限の取り分が保障されています。

配偶者と子には遺留分があります。全部を一人に相続させる遺言は、争いのもとになります。

遺言執行者を指定しておくと、手続きが進めやすくなります。金融機関の対応も早くなります。

株式会社鎌倉新書の「第7回 お葬式に関する全国調査」(2026年)によると、葬儀の総額平均は96.73万円でした。

葬儀の希望や費用の出どころを付言事項に書いておくと、家族が迷いません。法的な拘束力はありませんが、意思は伝わります。

なぜこの分け方にしたのかを書いておくと、残された家族が受け入れやすくなります。

介護をしてくれた子に多めに残す場合は、その理由を書いてください。

遺言は、いつでも書き直せます。事情が変われば、新しく作り直して構いません。

内容が抵触する部分は、後の遺言が優先します。古いものを撤回する一文を入れると確実です。

公正証書遺言 — 作る前に確認する項目
公正証書遺言 — 作る前に確認する項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

まとめ

公正証書遺言は、手続きの確実さが強みです。

  • 公証人が作成し、原本を公証役場が保管する
  • 家庭裁判所の検認が不要。すぐに手続きへ移れる
  • 手数料は財産の額で決まる。証人2人が必要

亡くなった後は、遺言検索システムで探せます。落ち着いて進めれば大丈夫です。