銀行の相続手続きに必要な書類|窓口で求められるものを先にそろえる

求められる書類は、遺言の有無と遺産分割協議の有無で変わります

亡くなった人の口座から、お金を出せなくなった。手続きに何が必要なのか分からない。

必要な書類は、遺言があるかどうか遺産分割協議をしたかどうかで変わります。まず、そこを確かめてください。

そして、葬儀費用など急ぐ支払いには、別の方法があります。

遺言と協議書の有無で、必要書類が変わります
遺言と協議書の有無で、必要書類が変わります(作図: 弁護士による葬儀ガード)

口座が凍結される仕組み

金融機関は、口座の名義人が亡くなったことを知ると、その口座を凍結します。

自動的に把握されるわけではありません。遺族からの連絡や、新聞のお悔やみ欄などがきっかけになります。

凍結されると、次のことができなくなります。

  • 預金の引き出し・振込
  • 公共料金などの引き落とし
  • 口座への入金の一部

公共料金の引き落としが止まると、未納になります。伝える前に、支払い方法を切り替えておくほうが安全です。

未納が続くと、供給停止になることがあります。電気やガスが止まると、遺品整理の作業もできません。

切り替えには、電話やウェブの手続きで足りることが多くあります。数日で済みます。

順番としては、支払い方法の切り替えが先、金融機関への連絡が後です。

一方、凍結しないままにしておくと、相続人の一部が勝手に引き出すおそれもあります。状況に応じて判断してください。

相続人の間で意見が対立している場合は、早めに連絡するほうが安全です。後から使い込みが問題になることがあります。

キャッシュカードで引き出せる状態が続くと、誰がいくら引き出したか分からなくなります。

通帳の記録は、後から取り寄せられます。心配な場合は、取引明細の交付を求めてください。

共通して必要になる書類

どの場合でも、次の書類が求められるのが通常です。

書類内容
故人の戸籍謄本出生から死亡までの連続したもの
相続人全員の戸籍謄本現在のもの
相続人全員の印鑑証明書発行から3〜6か月以内
通帳・キャッシュカード手元にあるもの
金融機関の所定の書類相続届など

「出生から死亡まで」が最も手間のかかる部分です。転籍や婚姻があると、複数の役所にまたがります。

印鑑証明書には、有効期限が設けられていることがあります。集めるタイミングに注意してください。

金融機関によって、3か月以内、6か月以内と基準が違います。事前に確かめてください。

相続人が遠方にいる場合は、郵送でやり取りすることになります。往復の時間も見込んでください。

実印の登録をしていない相続人がいる場合は、先に登録が必要です。市区町村の窓口で手続きします。

金融機関ごとに書式が違います。複数の金融機関で手続きする場合、それぞれの書類が必要です。

まず各金融機関に電話して、必要書類の一覧を送ってもらってください。窓口へ行く前に確かめます。

相続専用の窓口を設けている金融機関もあります。支店ではなく、そちらに直接連絡する形です。

書類の記入方法も、事前に確かめておくと二度手間になりません。

遺言がある場合

遺言があると、必要書類が変わります。

  • 遺言書(自筆証書の場合は検認済みのもの)
  • 遺言執行者がいる場合は、その選任を示す書類
  • 故人の死亡が分かる戸籍謄本
  • 預金を受け取る人の印鑑証明書

自筆の遺言書は、家庭裁判所の検認を受ける必要があります。検認前に開封してはいけません。

法務局の保管制度を利用していた遺言書は、検認が不要です。証明書の交付を受けて手続きします。

公正証書遺言も、検認は不要です。そのまま手続きに使えます。

遺言があれば、相続人全員の印鑑証明書は不要になることが多くあります。手続きが軽くなります。

ただし、遺言の内容が一部の財産にしか触れていない場合は、残りについて協議が必要になります。

遺言の対象になっていない財産があるかどうかを、先に確かめてください。

遺留分の問題が生じることもあります。相続人の間で争いがある場合は、弁護士に相談してください。

遺産分割協議書がある場合

遺言がなく、相続人で話し合って分け方を決めた場合です。

  • 遺産分割協議書(相続人全員の署名・実印の押印)
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 故人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本

協議書には、どの口座を誰が取得するかを明記します。金融機関名、支店名、口座番号まで書くのが確実です。

書き方に不備があると、やり直しになります。書式に迷う場合は、金融機関に確かめてから作成してください。

協議がまとまっていない場合は、相続人全員が手続きに関与する形になります。全員の署名と印鑑証明書が必要です。

まとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停という方法があります。第三者を入れて話し合う手続きです。

調停が成立すれば、調停調書が作成されます。これを使って手続きを進められます。

時間はかかりますが、当事者だけで進まない場合には有効な方法です。

図で整理: 戸籍の集め方と一覧図の使い方
図で整理: 戸籍の集め方と一覧図の使い方(作図: 弁護士による葬儀ガード)

法定相続情報一覧図を使う

戸籍の束を、何度も出し直すのは大変です。それを1枚にまとめる制度があります。

法定相続情報一覧図は、法務局に申し出て交付を受けます。相続関係を1枚の図にまとめたものです。

項目内容
申出先法務局(複数の管轄から選べる)
手数料無料
交付枚数必要な数だけ交付を受けられる
使える場面金融機関、法務局、税務署など

複数の金融機関で手続きする場合、この制度を使うと戸籍を何度も提出せずに済みます。

作成には、故人の出生から死亡までの戸籍が必要です。最初に一度だけ集めれば足ります。

司法書士や弁護士に依頼することもできます。自分で申し出ることも可能です。

申出に必要なのは、故人の出生から死亡までの戸籍と、相続人の戸籍、住民票などです。

一覧図の下書きは、自分で作成します。法務局のウェブサイトに様式と記載例があります。

交付までに1〜2週間かかります。手続きを始める前に、余裕をもって申し出てください。

戸籍の集め方

2024年から、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍謄本を請求できる制度が始まりました。

  • 窓口で「広域交付」を利用したい旨を伝える
  • 本人確認書類が必要
  • 請求できる範囲に制限がある(配偶者、直系尊属・卑属など)

兄弟姉妹の戸籍については、広域交付の対象外とされています。従来どおり、本籍地に請求します。

郵送で請求する場合は、往復で2週間程度かかることがあります。余裕をもって始めてください。

転籍を繰り返している場合、5〜10通になることもあります。1通ずつたどっていく作業です。

古い戸籍は手書きで、読みにくいことがあります。窓口で確かめながら進めてください。

「この戸籍の前はどこですか」と聞けば、次に請求すべき役所を教えてもらえます。

自分で集めるのが難しい場合は、司法書士や弁護士に依頼できます。費用はかかりますが、確実です。

急ぐ支払いには仮払い制度

葬儀費用など、すぐに必要な支払いがある場合の制度です。

根拠となる条文 — 預貯金の仮払い

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、相続開始の時の債権額の3分の1に法定相続分を乗じた額について、単独で権利を行使することができるとされています(民法909条の2)。

同一の金融機関に対して行使できる額の上限は、法務省令で150万円と定められています。

最高裁は平成28年12月19日大法廷決定において、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権および定期貯金債権は、相続開始と同時に当然に分割されることはなく、遺産分割の対象となるとしました。仮払い制度は、この判例を前提に設けられたものです。

手続きには、故人の出生から死亡までの戸籍と、相続人であることを示す書類が必要です。

金融機関ごとに150万円が上限です。複数の金融機関に口座があれば、それぞれで請求できます。

相続放棄を検討している場合は、引き出す前に相談してください。使い方によっては、放棄ができなくなることがあります。

もっとも、相当な範囲の葬儀費用に充てた場合について、相続財産の処分にあたらないとした裁判例もあります。

大阪高等裁判所平成14年7月3日決定が、その判断を示しています。判断は事案によって分かれます。

使い道が分かる記録を必ず残してください。領収書と、いくらを何に充てたかのメモです。

手続きにかかる期間

書類がそろってから、実際に払い戻されるまでの期間です。

段階目安
戸籍の収集2週間〜1か月
法定相続情報一覧図の交付1〜2週間
金融機関への提出即日
審査・払い戻し2週間〜1か月

全体で1〜2か月かかることが多くあります。葬儀費用の支払期限には、まず間に合いません。

だから、急ぐ支払いには仮払い制度や立替えを使い、本手続きは並行して進めることになります。

複数の金融機関がある場合は、同時に進めてください。1つずつ順番に行うと、時間がかかります。

どの金融機関に口座があるかは、通帳やキャッシュカード、郵便物から分かります。

通帳が見つからない場合でも、心当たりのある金融機関に照会できます。相続人であることを示す書類が必要です。

貸金庫がある場合は、開扉にも手続きが必要です。相続人全員の立会いを求められることがあります。

相続税の申告との関係

相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。

金融機関からは、残高証明書の交付を受けられます。申告に必要になるため、手続きの際に依頼してください。

  • 死亡日時点の残高証明書
  • 既経過利息の計算書
  • 過去の取引明細(求められる場合)

これらは、相続人であることを示す書類があれば取得できます。手続きと同時に依頼すると効率的です。

申告が必要かどうかは、基礎控除の額で決まります。多くの場合、申告そのものが不要になります。

判断がつかない場合は、税務署か税理士に確かめてください。無料の相談会が開かれることもあります。

葬儀費用は、遺産総額から差し引ける場合があります。国税庁のタックスアンサーNo.4129が範囲を整理しています。

領収書は、費目ごとに分かる形で保管してください。「一式」のままだと、仕分けができません。

銀行の相続手続き — そろえる書類の確認項目
銀行の相続手続き — そろえる書類の確認項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

まとめ

必要書類は、遺言と協議書の有無で決まります。

  • 共通して必要なのは、故人の出生から死亡までの戸籍
  • 法定相続情報一覧図を作れば、複数の金融機関で使い回せる
  • 急ぐ支払いには、仮払い制度(同一金融機関で150万円まで)

全体で1〜2か月かかります。早めに戸籍を集め始めてください。