借金は相続されるのか|調べ方と3つの選択肢
借金も相続の対象です。ただし、引き継がない方法が用意されています
亡くなった人に借金があるかもしれない。自分が払うことになるのか。
答えは、借金も相続の対象になります。ただし、引き継がない方法が用意されています。
大切なのは、期限内に調べて判断することです。3か月という期限があります。
借金も相続の対象です
相続では、財産だけでなく債務も引き継がれます。
根拠となる条文 — 相続の対象と債務の承継
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。ただし、被相続人の一身に専属したものは除かれます(民法896条)。
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。
最高裁昭和34年6月19日判決は、金銭債務のように可分な債務について、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され、各共同相続人がその承継した債務を負担するという趣旨を示しました。
つまり、借金は法定相続分に応じて分けられ、それぞれが負担することになります。
相続人の間で「長男が全部引き継ぐ」と決めても、債権者に対しては主張できないのが原則です。債権者が同意すれば別です。
だから、遺産分割協議だけで借金の問題は解決しません。放棄や限定承認を検討する必要があります。
もっとも、相続人の間での取り決め自体は有効です。実際に払った人が、他の相続人に求償できます。
問題になるのは、債権者との関係です。債権者は、法定相続分に応じて各相続人に請求できます。
だから、「話し合いで決めたから安心」とは言えません。ここを誤解しないでください。
まず、借金の有無を調べる
判断するには、まず調べる必要があります。方法は複数あります。
| 調べ方 | 分かること |
|---|---|
| 信用情報機関への照会 | 銀行・カード・消費者金融からの借入 |
| 郵便物の確認 | 請求書、督促状、契約の案内 |
| 通帳の履歴 | 定期的な返済の記録 |
| 契約書類の確認 | 保証債務、個人間の借入 |
| 確定申告書の控え | 事業上の債務 |
信用情報機関は、3つに分かれています。銀行系、クレジット系、消費者金融系です。
すべてに照会するのが確実です。1つだけでは、把握できない借入があります。
郵便物は、しばらく届き続けます。すぐに転送や解約をせず、一定期間は受け取れる状態にしておいてください。
督促状は、借入の存在を知る手がかりになります。捨てずに保管してください。
通帳の履歴からも分かります。毎月同じ日に同じ金額が引き落とされていれば、返済の可能性があります。
相続人であれば照会できます。必要書類は機関ごとに異なるため、それぞれのウェブサイトで確かめてください。
回答までに数週間かかることがあります。早めに申し込んでください。
3か月の期限を考えると、四十九日を待たずに動く必要があります。借金の心当たりがあるなら、早めに照会してください。
照会には、故人の死亡が分かる戸籍と、相続人であることを示す書類が必要です。戸籍集めと並行して進めてください。
回答が届いたら、内容を保管してください。放棄や限定承認の判断材料になります。
保証債務に注意する
もっとも見つけにくいのが、保証債務です。
他人の借金の保証人になっていた場合、その義務も相続されます。信用情報には現れないことがあります。
- 契約書や保証書が、自宅に残っていないか
- 金融機関からの郵便物に、保証に関するものがないか
- 事業をしていた場合、取引先への保証がないか
- 親族や知人から、保証を頼まれていなかったか
主債務者が返済を続けている間は、請求が来ません。だから、存在に気づかないまま3か月が過ぎることがあります。
後から判明した場合でも、放棄が認められる余地があります。ただし、主張の組み立てが必要になります。
心当たりがある場合は、早めに弁護士に相談してください。
事業をしていた場合は、とくに注意が必要です。取引先や金融機関への保証が残っていることがあります。
確定申告書の控えや、決算書があれば確かめてください。債務の状況が記載されています。
税理士が関与していた場合は、その税理士に事情を聞くのが早道です。状況を把握していることがあります。
3つの選択肢
調べたうえで、どうするかを決めます。
| 選択 | 内容 | 手続き |
|---|---|---|
| 単純承認 | 財産も債務もすべて引き継ぐ | 手続き不要 |
| 限定承認 | 引き継いだ財産の範囲でだけ債務を負担 | 相続人全員で家庭裁判所へ申述 |
| 相続放棄 | 財産も債務も引き継がない | 一人でも家庭裁判所へ申述 |
明らかに借金のほうが多いなら、放棄が簡単です。一人でも申し立てられます。
判断がつかない場合は、限定承認という選択肢があります。ただし、相続人全員でそろって申し立てる必要があります。
一人でも反対すれば、限定承認はできません。連絡が取れない相続人がいる場合も同じです。
手続きも重く、財産目録の作成、官報での公告、債権者への弁済といった作業が続きます。
税金の問題が生じることもあります。検討する場合は、弁護士と税理士の両方に相談してください。
何もしなければ、単純承認したものとして扱われます。3か月が経過すれば、そうなります。
財産のほうが明らかに多いなら、それで問題ありません。手続きも不要です。
問題になるのは、判断がつかないまま期限が過ぎる場合です。何もしなかった結果として、借金を背負うことになります。
だから、まず調べることが大切です。調べたうえで、何もしないという判断ならそれで構いません。
期限は3か月
期限を過ぎると、選択肢がなくなります。
根拠となる条文 — 熟慮期間と単純承認
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認、限定承認または放棄をしなければなりません(民法915条1項本文)。この期間は、家庭裁判所に申し立てて伸長することができます。
相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号)。
最高裁昭和59年4月27日判決は、次のような趣旨を示しました。相続財産が全く存在しないと信じ、そう信じたことに相当な理由がある場合。このときは、3か月の期間が相続財産の存在を認識した時から起算されるというものです。
調査に時間がかかる場合は、期間の伸長を申し立ててください。期限が来る前に行う必要があります。
期限を過ぎてから督促状が届いた場合でも、あきらめないでください。起算点を争える余地があります。
督促状が届いた日付を記録し、封筒も保管してください。主張の材料になります。
消印の日付が、いつ知ったかを示す資料になります。封筒を捨てないでください。
債権者に対しては、「相続放棄を検討中です」と伝えてください。支払いを約束しないことが大切です。
一部でも支払うと、承認したと見られるおそれがあります。慌てて払わないでください。
期限内にやってはいけないこと
判断が済むまでは、故人の財産に手をつけないでください。
- 預金を引き出して使う
- 遺品を処分する、持ち帰る
- 不動産を売却する、名義を変える
- 故人の借金を、故人の財産から返済する
最後の項目に注意してください。良かれと思って返済すると、処分と評価される可能性が高くなります。
債権者から請求が来ても、「相続放棄を検討中です」と伝えて待ってもらってください。慌てて払わないことが大切です。
葬儀費用については、相当な範囲の支出が処分にあたらないとした裁判例があります。大阪高等裁判所平成14年7月3日決定です。
ただし、金額と使い道によって判断が分かれます。記録は必ず残してください。
領収書と、いくらを何に充てたかの一覧を作ってください。日付、支払先、金額、内容の4項目で足ります。
引き出した金額と支払った金額に差があるなら、その差額は使わずに保管してください。
判断がつかない支出は、自分の財布から立て替えるほうが安全です。後から精算する方法もあります。
次順位の相続人への影響
放棄をすると、次の順位の人が相続人になります。
| 順位 | 相続人 |
|---|---|
| 常に | 配偶者 |
| 第1順位 | 子(およびその代襲相続人) |
| 第2順位 | 直系尊属(父母・祖父母) |
| 第3順位 | 兄弟姉妹(およびその子) |
子が全員放棄すれば、故人の親に移ります。親がいなければ、兄弟姉妹に移ります。
次順位の人の起算点は、「自分が相続人になったことを知った時」です。放棄した人から連絡がなければ、知りようがありません。
だから、放棄をしたら、次順位の親族に必ず伝えてください。伝えないと、その人が期限を過ぎてしまいます。
高齢の親や、事情を知らない甥・姪に負担が回ることもあります。早めの連絡が大切です。
伝えるときは、放棄をした事実と、その人が相続人になったことを説明します。期限があることも伝えてください。
相続関係が複雑な場合は、弁護士に整理してもらうほうが確実です。誰が相続人になるかを確かめられます。
全員が放棄すると、相続財産清算人の選任という手続きに進みます。予納金が必要になることがあります。
相談できる窓口
一人で判断しなくて構いません。
| 窓口 | できること |
|---|---|
| 家庭裁判所 | 放棄・限定承認の申述、期間の伸長 |
| 弁護士 | 調査、手続き、債権者への対応 |
| 法テラス | 条件を満たせば無料相談・費用の立替 |
| 信用情報機関 | 借入の照会 |
期限が迫っている場合は、優先して動いてください。期限を過ぎると、主張の組み立てが必要になります。
相談に行くときは、督促状、契約書、通帳、郵便物を持参してください。書類がそろえば、判断が早く進みます。
信用情報機関からの回答が届いていれば、それも持参してください。借入の全体像が分かります。
いつ相続の開始を知ったかも、伝えてください。期限の起算点になります。
一人で抱え込まないでください。同じ状況で悩む人は多く、相談先も用意されています。
まとめ
借金は相続されますが、引き継がない方法があります。
- 信用情報機関に照会し、郵便物と通帳も確かめる
- 保証債務は見つけにくい。契約書と郵便物を探す
- 引き継がないなら、3か月以内に放棄か限定承認を申し立てる
判断が済むまで、故人の財産に手をつけないでください。
