限定承認とは|借金が多いか分からないときの選択肢

相続財産の範囲でだけ借金を引き継ぐ方法です。ただし相続人全員でそろって申し立てます

財産と借金、どちらが多いのか分からない。放棄すると財産まで失うし、承認すると借金を背負う。

その間にある選択肢が、限定承認です。相続で得た財産の範囲でだけ、借金を引き継ぐ方法です。

ただし、条件と手間があります。使いどころを知っておいてください。

3つの選択肢の関係
3つの選択肢の関係(作図: 弁護士による葬儀ガード)

3つの選択肢のなかの位置づけ

相続には、3つの選択肢があります。

選択内容
単純承認財産も債務も、すべて引き継ぐ
限定承認引き継いだ財産の範囲でだけ、債務を負担する
相続放棄財産も債務も、いっさい引き継がない

限定承認は、真ん中に位置します。財産が残れば受け取れますが、足りなければそこまでです。

自分の財産から持ち出す必要はありません。ここが、単純承認との大きな違いです。

一方、放棄と違って、財産が残る可能性があります。ここが、放棄との違いです。

どれを選ぶかは、財産と負債のどちらが多いかで決まります。まず、その概要を調べてください。

負債の有無は、郵便物、通帳の履歴、信用情報機関への照会などで調べられます。時間がかかることもあります。

調べたうえで、明らかに負債が多ければ放棄、明らかに財産が多ければ単純承認になります。

制度の内容

条文を見ておきます。

根拠となる条文 — 限定承認

相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができます(民法922条)。

相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみ行うことができます(民法923条)。

限定承認をしようとするときは、3か月の熟慮期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければなりません(民法924条)。

「全員が共同して」という要件が、実務上の大きなハードルになります。

一人でも反対すれば、限定承認はできません。連絡が取れない相続人がいる場合も同じです。

なお、すでに放棄をした人は相続人ではなくなるため、その人を除いた全員でそろえば足ります。

連絡が取れない相続人がいる場合は、限定承認が使えません。その場合は、各自が判断することになります。

行方が分からない場合は、不在者財産管理人の選任を申し立てる方法もあります。ただし、時間がかかります。

3か月の期限との兼ね合いを考えると、現実的でないこともあります。伸長の申立てを検討してください。

どんな場面で使うか

限定承認が向いているのは、次のような場面です。

  • 財産と負債のどちらが多いか分からない
  • どうしても残したい財産がある(自宅、事業用資産など)
  • 後から負債が出てくる可能性がある
  • 保証債務の有無がはっきりしない

とくに、自宅を残したい場合に検討されます。限定承認では、相続人が優先的に取得できる仕組みがあるためです。

ただし、その場合も金銭を支払う必要があります。無償で残せるわけではありません。

負債のほうが明らかに多いなら、放棄のほうが簡単です。手続きの重さが違います。

逆に、財産のほうが明らかに多いなら、単純承認で足ります。あえて限定承認をする理由はありません。

限定承認が意味を持つのは、判断がつかない場面です。後から負債が出てくる不安がある場合です。

その不安が現実的かどうかを、まず調べてください。調査で解消することもあります。

手続きの流れ

申述してからも、やることが続きます。

3番目の公告は、官報に掲載する形で行います。期間は2か月を下ることができないとされています。

公告の費用は、申立てをした相続人が負担します。官報掲載料がかかります。

分かっている債権者には、個別に催告する必要もあります。漏れがあると責任を問われることがあります。

この段階から、実務上の負担が大きくなります。弁護士に依頼する人が多いのは、この部分です。

弁済は、決められた順序に従って行います。順序を誤ると、責任を問われることがあります。

財産に不動産などがある場合は、換価が必要になります。原則として競売の方法によります。

相続人が自ら取得したい場合は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を支払う方法があります。

いずれにしても、手続きに数か月から1年以上かかることがあります。時間の見込みも考えてください。

相続人が複数いる場合は、代表者を決めて手続きを進めます。誰が担うかも、事前に決めておいてください。

財産目録の作成

申述の際に、相続財産の目録を提出します。ここが実務上の負担になります。

記載するもの
積極財産預貯金、不動産、有価証券、自動車
消極財産借入金、未払金、保証債務
その他生命保険(受取人による)、退職金

3か月以内に、これらを調べて一覧にする必要があります。調査に時間がかかることも多くあります。

間に合わない場合は、家庭裁判所に期間の伸長を申し立ててください。期限が来る前に手続きします。

目録に故意に記載しなかった財産があると、単純承認とみなされることがあります。正確に作成してください。

分からない財産がある場合は、その旨を記載します。隠したと見られないことが大切です。

後から財産が判明した場合も、速やかに家庭裁判所に報告してください。放置すると問題になります。

作成に不安がある場合は、弁護士に依頼するほうが確実です。手続き全体を任せられます。

図で整理: 申述から清算までの流れ
図で整理: 申述から清算までの流れ(作図: 弁護士による葬儀ガード)

税金の問題

見落とされやすい点です。限定承認をすると、税務上の扱いが変わります。

根拠となる条文 — みなし譲渡所得課税

限定承認に係る相続により居住者の有する山林または譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなされます(所得税法59条1項1号)。

つまり、不動産や有価証券などについて、時価で譲渡したものとして扱われます。値上がりしていれば、その分に所得税がかかることになります。

この所得税は、故人の最後の所得として準確定申告の対象になります。申告の期限は、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です(所得税法125条1項)。

購入時より値上がりした不動産がある場合、税額が大きくなることがあります。

もっとも、限定承認では相続財産の範囲でのみ負担するため、税を自分の財産から払う必要は生じないのが通常です。

とはいえ、計算は複雑です。限定承認を検討する場合は、税理士にも相談してください。

準確定申告の期限は4か月です。限定承認の手続きと並行して進める必要があります。

申告を忘れると、加算税などが生じることがあります。期限を記録しておいてください。

弁護士と税理士の両方に関わってもらう形が現実的です。費用も見込んでおいてください。

使われる件数が少ない理由

制度としては用意されていますが、実際の利用は多くありません。理由は3つです。

  1. 相続人全員の同意が必要(一人でも反対すればできない)
  2. 手続きが重い(財産目録、公告、清算)
  3. 税金の問題が生じることがある

放棄であれば、一人でできます。手続きも比較的簡単です。

負債が明らかに多いなら、放棄を選ぶほうが実務的です。限定承認は、判断がつかない場合の選択肢と考えてください。

弁護士に依頼する場合、費用もかかります。財産の規模と、手間・費用の見合いで判断してください。

財産の規模が小さい場合、費用のほうが上回ることもあります。その場合は、放棄を選ぶほうが合理的です。

判断の材料として、まず概算の見積もりを取ってください。法律相談の段階で聞けます。

法テラスでは、条件を満たせば無料の相談を受けられます。費用の立替制度もあります。

期限を過ぎないために

3か月という期限は、限定承認でも同じです。

根拠となる条文 — 熟慮期間とその伸長

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認、限定承認または放棄をしなければなりません(民法915条1項本文)。

この期間は、利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができます(同項ただし書)。

相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号)。処分をすると、限定承認も放棄もできなくなります。

調査に時間がかかる場合は、伸長を申し立ててください。期限が来る前に行う必要があります。

その間、故人の財産に手をつけないでください。処分すると、選択肢が消えます。

葬儀費用については、相当な範囲の支出が処分にあたらないとした裁判例があります。ただし、記録は必ず残してください。

大阪高等裁判所平成14年7月3日決定が、その判断を示しています。相当な範囲であることが前提です。

金額が大きい場合や、使い道が葬儀以外に及ぶ場合は、評価が変わることがあります。

判断がつかない支出は、自分の財布から立て替えるほうが安全です。後から精算する方法もあります。

検討するときの進め方

順番を示します。

順番やること
1財産と負債の概要を調べる
2どちらが多いかを見極める
3明らかに負債が多ければ、放棄を検討
4判断がつかなければ、限定承認を検討
5相続人全員の意向を確かめる
6弁護士・税理士に相談する

5番目で全員の同意が得られなければ、限定承認はできません。その場合、各自が放棄するかどうかを判断することになります。

調査の途中で期限が近づいたら、伸長を申し立ててください。判断を急ぐより、時間を確保するほうが安全です。

伸長の申立ては、相続人ごとに行います。一人が申し立てても、他の人の期間は延びません。

費用は収入印紙800円と郵便切手です。申立書の書式は、裁判所の窓口やウェブサイトで手に入ります。

期限が来る前に手続きしてください。過ぎてしまうと、主張の組み立てが必要になります。

限定承認 — 検討するときの確認項目
限定承認 — 検討するときの確認項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

まとめ

限定承認は、判断がつかないときの選択肢です。

  • 相続財産の範囲でだけ債務を負担する制度
  • 相続人全員でそろって、3か月以内に申述する
  • 手続きが重く、税金の問題もある。専門家に相談してから決める

期限が近い場合は、まず伸長の申立てを検討してください。