孤独死の特殊清掃費用を請求されたら|負担の範囲と確認の手順
金額の前に、誰が負担する費用なのかを確かめます。立場によって結論が変わります
身内が一人暮らしの部屋で亡くなり、発見が遅れた。管理会社から、特殊清掃の費用を請求された。
金額を見て驚く方が多い場面です。ただ、支払う前に確かめることがあります。自分がどの立場で請求されているのかです。
相続人として請求されているのか、連帯保証人としてなのか。立場によって、できることが変わります。
特殊清掃とは何をするのか
特殊清掃は、通常の清掃では対応できない汚損や臭気を除去する作業です。
作業の内容は、状況によって大きく変わります。発見までの日数、季節、部屋の広さが影響します。
| 作業 | 内容 |
|---|---|
| 汚損部分の除去 | 床材・畳・下地の撤去 |
| 消臭・消毒 | 薬剤散布、オゾン処理 |
| 害虫の駆除 | 発生している場合 |
| 残置物の撤去 | 家財の搬出・処分 |
| 内装の復旧 | 壁紙・床材の張り替え |
このうち、内装の復旧は原状回復の話に重なります。特殊清掃の費用と、原状回復の費用は分けて考える必要があります。
請求書が一枚にまとまっていると、その区別がつきません。だから、作業ごとの明細を求めることに意味があります。
費用は、状況によって数十万円から百万円を超えることまであります。金額の幅が大きいのは、作業量が大きく変わるためです。
だからこそ、金額だけを見て「相場と比べて高い」と判断するのは難しい分野です。見るのは、作業内容と単価です。
「何平方メートルを、いくらで、どの作業をしたのか」。この形で示してもらえば、検討できます。
誰が負担するのか
負担の関係は、契約と相続の二つの筋で決まります。
- 借主の地位を相続した人は、契約上の義務を承継する
- 連帯保証人は、契約に基づいて責任を負う
- 貸主は、通常損耗にあたる部分を自ら負担する
亡くなった方が借主だった場合、その地位は相続の対象になります。相続すれば、原状回復義務も引き継ぎます。
一方、通常の使用による傷みは、そもそも借主の負担ではありません。この点は、亡くなった場合でも変わりません。
根拠となる条文 — 原状回復義務の範囲
賃借人は、賃借物を受け取った後に生じた損傷について原状回復の義務を負いますが、通常の使用によって生じた損耗と経年変化は除かれます(民法621条)。
損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときも、原状回復の義務を負いません(同条ただし書)。
敷金は、賃貸借が終了して賃借物の返還を受けたときに、賃料等の債務を差し引いた残額を返還しなければならないとされています(民法622条の2第1項1号)。
病気で急に亡くなったことが「責めに帰することができない事由」に当たるかは、争いのあるところです。発見が遅れた事情によって、評価が変わり得ます。
たとえば、家族が定期的に連絡を取っていたが偶然発見が遅れた場合と、長年連絡を絶っていた場合では、事情が異なります。
もっとも、この点だけで結論が決まるわけではありません。契約の内容や、実際に生じた損傷の程度も見られます。
争う場合は、経緯を時系列で書き出しておいてください。いつ最後に連絡を取り、いつ発見されたのかが基礎になります。
相続放棄を検討している場合
負債のほうが多い、あるいは金額が読めない場合、相続放棄という選択があります。
根拠となる条文 — 相続放棄の期限と単純承認
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続の承認または放棄をしなければなりません(民法915条1項)。この期間は、家庭裁判所に申し立てて伸長してもらうことができます。
相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号)。
最高裁昭和59年4月27日判決は、相続財産が全く存在しないと信じ、そう信じたことに相当な理由がある場合について、3か月の期間は相続財産の全部または一部の存在を認識した時から進行するという趣旨を示しました。
放棄を検討している間は、遺品を処分しないでください。処分と評価されると、放棄ができなくなることがあります。
管理会社から片付けを求められても、その点を説明してください。「相続放棄を検討中のため、家財に手をつけられません」と伝えれば足ります。
なお、相続放棄をしても、連帯保証人としての義務は残ります。ここは切り分けて考えてください。
自分が保証人になっているかどうかは、賃貸借契約書で確かめられます。写しがなければ、管理会社に交付を求めてください。
家賃債務保証会社が入っている契約では、個人の連帯保証人がいないこともあります。その場合、保証会社が支払った分は相続人に請求されます。
相続放棄をすれば、その請求も承継しません。立場を確かめることが、判断の出発点になります。
見積もりは複数社から取れます
特殊清掃の費用は、業者によって差があります。管理会社が手配した業者に限る必要はありません。
| 確かめること | 内容 |
|---|---|
| 作業範囲 | どこまでを清掃し、どこから復旧か |
| 単価と数量 | 面積あたりか、一式か |
| 廃棄物の処理 | 処分費が含まれるか |
| 作業日数 | オゾン処理などの日数 |
| 追加が出る条件 | 開けてみないと分からない部分の扱い |
すでに作業が終わっている場合は、比較ができません。だから、着手前に見積もりを求めることが重要です。
急がされることもありますが、着手前に金額を確かめると伝えてかまいません。臭気の問題があるとしても、見積もりを取る時間はあります。
現場を見ないと出せない見積もりもあります。それでも、概算と、追加が出る条件は聞けます。
作業の途中で追加が必要になったときは、着手前に連絡してもらう取り決めをしてください。口頭ではなく、書面かメールで残します。
写真を撮っておくことも頼んでください。作業前・作業中・作業後の記録があれば、後から内容を確かめられます。
保険で賄われる場合があります
近年、賃貸物件向けの保険に、孤独死に伴う費用を補償する特約が付いていることがあります。
- 貸主が加入する家主向けの保険
- 借主が加入していた借家人賠償責任保険
- 少額短期保険の孤独死保険
補償の対象は、原状回復費用、遺品整理費用、家賃の損失など、商品によって異なります。
まず、管理会社に「保険は適用されますか」と確かめてください。加入していれば、請求の前に手続きが取られるはずです。
故人が加入していた保険がある場合は、契約書類を探してください。火災保険に特約が付いていることがあります。
保険で賄われる部分があれば、請求される金額はその分減ります。確認せずに支払うと、後から調整するのが難しくなります。
保険金の請求には期限があります。事故から一定期間内に手続きが必要とされているのが通常です。
保険会社への連絡が早いほど、現場の記録も残ります。作業に入る前に連絡できれば、なお確実です。
相続放棄を検討している場合、保険金の受け取りが処分と評価されないかにも注意が必要です。受け取る前に相談してください。
高額な請求を受けたときの手順
金額に納得できないときは、順番に確かめます。
全額の支払いを止めると、こちらが遅れている側になります。争いのある部分を特定して伝えるほうが、話が進みます。
作業前後の写真があれば、必ずもらってください。何をしたのかを確かめる材料になります。
廃棄物の処理についても、伝票の写しを求められます。何をどれだけ処分したかが分かります。
遺品の中に、形見として残したいものがある場合は、着手前に伝えてください。作業が始まると取り出せなくなります。
ただし、相続放棄を検討している場合は、持ち出さないでください。処分と評価されるおそれがあります。
告知に関する扱い
「事故物件になったので損害を賠償してほしい」と言われることがあります。
国土交通省が2021年10月に公表した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が参考になります。
同ガイドラインは、賃貸借について、自然死や日常生活の中での不慮の死は原則として告げなくてよいとしています。ただし、特殊清掃等が行われた場合には、おおむね3年間は告げるものとされています。
- 告知が必要な期間は限られている
- 賃料の減額分を当然に全額請求できるわけではない
- 主張する側が、損害の内容と金額を示す必要がある
金額の根拠が示されない請求には、内訳を求めてください。根拠のない一律の請求は、そのまま受け入れる必要がありません。
減額分を請求する場合、通常は「いくらの家賃を、何か月分、何割減額したか」という形で示されます。
その計算が示されないなら、まず計算方法を聞いてください。数字が出てくれば、検討ができます。
次の入居者が通常の家賃で入居していれば、損害が生じていないことになります。その点も確かめる余地があります。
相談できる窓口
一人で判断しなくて構いません。相談できる場所があります。
| 窓口 | できること |
|---|---|
| 消費者ホットライン(188) | 契約・請求に関する相談 |
| 家庭裁判所 | 相続放棄の申述、期間の伸長 |
| 都道府県の住宅相談窓口 | 賃貸借に関する助言 |
| 弁護士 | 負担範囲・金額の判断 |
相続放棄の期限が迫っている場合は、優先して動いてください。期限を過ぎると、選択肢が減ります。
3か月で判断できないときは、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てられます。期限が来る前に手続きしてください。
相談に行くときは、賃貸借契約書、請求書、明細、やり取りの記録を持参してください。書類がそろえば、判断が早く進みます。
一人で抱え込まず、早い段階で相談してください。金額が大きい分野ですが、確かめられることは多くあります。
まとめ
請求を受けたら、金額より先に立場を確かめてください。
- 相続人か、連帯保証人かで結論が変わる
- 作業ごとの明細を求め、特殊清掃と原状回復を仕分ける
- 保険の適用があるかを、管理会社と故人の契約の両方で確かめる
相続放棄を考えるなら、期限があります。遺品に手をつける前に相談してください。
