葬儀社を訴えるには|訴訟の前にできることと進め方

訴訟は最後の手段です。その前に費用も時間もかからない方法があります

「訴えるしかない」と思ったとき、実際に何をすればよいのか。

先に伝えておきたいことがあります。訴訟は最後の手段です。その手前に、費用も時間もかからない方法がいくつもあります。

ただ、順番を知っておけば、どの段階にいるのかが分かります。訴訟まで含めた道筋を、順に見ていきます。

訴訟にたどり着くまでの段階
訴訟にたどり着くまでの段階(作図: 弁護士による葬儀ガード)

訴える前に、必ず通る3つの段階

いきなり訴状を書く必要はありません。順番があります。

段階やること費用
1葬儀社へ書面で説明と返金を求める郵送料のみ
2消費生活センターに相談・あっせん無料
3調停・ADRで話し合う数千円〜1万円程度
4訴訟を起こす印紙代・弁護士費用

多くの事案は、1か2で解決します。書面で求めるだけで対応が変わることは、実際によくあります。

段階を踏むことには、別の意味もあります。訴訟になったとき、「話し合いを尽くした」という経緯が残るからです。

急ぐ必要がないなら、順番に進めてください。時効の期間が迫っている場合だけ、判断を早める必要があります。

段階を進めるほど、相手の対応も変わります。書面が届いた時点で担当部署が変わることは珍しくありません。

現場の担当者と話が通じないときは、会社の代表者宛てに書面を出す方法もあります。宛先を変えるだけで動くことがあります。

何を請求するのかを、先に決める

訴訟では「何を根拠に、いくら請求するのか」を特定します。ここが決まらないと、先に進めません。

葬儀のトラブルでよくあるのは、次の3つです。

  1. 払いすぎた分を返してほしい — すでに支払った金額の返還を求める
  2. 請求されている金額を払う義務がないことを確かめたい — 債務がないことの確認を求める
  3. 約束と違ったことによる損害を賠償してほしい — 契約違反による賠償を求める

1と2は、支払い済みか未払いかで分かれます。すでに払っているなら1、まだ払っていないなら2です。

金額は、費目ごとに積み上げます。「全体的に高い」では請求になりません。「この項目の◯万円は根拠がない」という形にします。

特定するには、見積書と請求書を並べる作業が要ります。増えた行に印をつけ、金額を合計してください。

その作業を終えると、争点が自然に絞られます。争っているのは全体ではなく、特定の数項目だと分かることが多いはずです。

根拠になる法律の考え方

請求の根拠は、事案によって変わります。よく使われる3つを挙げます。

根拠となる条文 — 返還や賠償を求める根拠

契約が取り消された場合や、支払う理由がないのに支払った場合、受け取った側は利益を返還する義務を負います(民法703条、704条)。不当利得の返還請求と呼ばれます。

契約の内容に従った履行がされなかった場合には、それによって生じた損害の賠償を請求できます(民法415条1項)。

解約に伴う違約金の条項については、同種の契約の解除で事業者に生じる平均的な損害の額を超える部分が無効になります(消費者契約法9条1項1号)。最高裁判所平成18年11月27日判決(民集60巻9号3437頁)は、平均的な損害の意味について、解除の事由や時期などで区分した同種契約の損害額の平均を指すと判断しました。

どの構成を取るかで、主張すべきことが変わります。迷う場合は、弁護士に一度相談するほうが早道です。

相談の段階では、書類を持って行くだけで足ります。構成を自分で決めておく必要はありません。

なお、契約の相手が誰かも確かめてください。葬儀を担当した会社と、契約書に記名された会社が違うことがあります。

紹介サイトを経由した場合は、契約の相手が施行した葬儀社なのか、紹介した会社なのかで請求先が変わります。

書面で請求する(内容証明)

訴訟の前に、書面で請求します。ここで解決することも多くあります。

書面に書くのは、次の5つです。

  • 契約の内容(いつ、誰が、どの契約をしたか)
  • 問題としている事実(何が説明と違ったか)
  • 請求する金額と、その内訳
  • 支払いの期限(2週間程度が一般的)
  • 応じない場合に法的手続きを取る旨

内容証明郵便で送ると、いつ・どんな内容を送ったかが記録に残ります。配達証明を付ければ、届いた日も残ります。

内容証明には字数と行数の制限がありますが、郵便局の窓口で確認できます。電子内容証明を使えば、自宅からでも送れます。

控えは必ず保管してください。送った書面の内容そのものが、後の手続きで証拠になります。

訴訟の種類と、選び方

請求する金額によって、使える手続きが変わります。

手続対象特徴
少額訴訟60万円以下の金銭請求原則1回の期日で判決
通常訴訟(簡易裁判所)140万円以下期日を重ねて審理
通常訴訟(地方裁判所)140万円超期日を重ねて審理
民事調停金額の制限なし話し合いで合意を目指す

少額訴訟は、同じ簡易裁判所で年に10回までという制限があります。相手が希望すれば通常訴訟に移ります。

金額が140万円を超えると、地方裁判所の管轄になります。弁護士に依頼するかどうかも、この規模から現実的な検討事項になります。

費用はどのくらいかかるか

裁判所に納める手数料は、請求する金額に応じて決まります。収入印紙で納めます。

請求額印紙代の目安
10万円1,000円
50万円5,000円
100万円10,000円
300万円20,000円

このほかに、書類を送るための郵便切手を数千円分納めます。金額は裁判所によって異なります。

弁護士に依頼する場合は、着手金と報酬が別にかかります。金額が小さいと、費用のほうが上回ることもあります。

費用が心配な場合は、法テラスの相談を利用する方法があります。収入などの条件を満たせば、費用の立替えを受けられる制度もあります。

勝訴した場合、印紙代などの訴訟費用は相手の負担とされるのが原則です。ただし、弁護士費用まで当然に相手に請求できるわけではありません。

そのため、請求額と費用の見合いを先に考える必要があります。弁護士に相談するときは、見込みと費用の両方を確かめてください。

図で整理: 請求額と手続きの対応関係
図で整理: 請求額と手続きの対応関係(作図: 弁護士による葬儀ガード)

勝敗を分けるのは証拠です

裁判では、主張する側が事実を示す必要があります。「言った」だけでは足りません。

葬儀のトラブルで役に立つのは、次の資料です。

  • 契約書と約款(差し替えがあれば全部)
  • 見積書(版が複数あれば、日付順にすべて)
  • 請求書・領収書・振込の控え
  • 担当者とのメール、メッセージアプリの履歴
  • 打ち合わせのメモ(日時・担当者名入り)
  • 録音(自分が参加した会話の録音は原則として問題ない)

とくに、見積書の版が複数あることが意味を持ちます。どの時点で何が追加されたかを、時系列で示せるからです。

証拠が足りないと感じても、あきらめる必要はありません。相手方に文書の提出を求める手続きもあります。

葬儀社の側にも、施行の記録や発注書が残っています。それらを提出させることで、事実関係がはっきりすることがあります。

手元の資料が少ないうちから、記憶を書き出しておいてください。時間が経つほど、細部は失われます。

訴えられる期間には限りがあります

いつまでも請求できるわけではありません。期間の制限があります。

根拠となる条文 — 消滅時効

債権は、権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法166条1項)。

契約の取消しを主張する場合は、より短い制限があります。誤認や困惑による取消権は、追認をすることができる時から1年、契約の時から5年で消滅します(消費者契約法7条1項)。

裁判上の請求をすると、時効の完成が猶予されます(民法147条1項)。催告の書面を送った場合は、そこから6か月間、完成が猶予されます(同法150条1項)。

期限が近いときは、催告の書面を送るだけでも意味があります。6か月の猶予ができるからです。

自分の事案がどの期間に当たるかは、事情によって変わります。迷ったら、早めに相談してください。

判決が出た後のこと

勝訴しても、自動的にお金が戻るわけではありません。相手が支払わなければ、次の手続きが必要です。

強制執行は、相手の財産を特定して行います。銀行口座、売掛金、不動産などが対象になります。

対象必要な情報
預金金融機関名と支店名
不動産所在地
売掛金取引先の名称

取引のある金融機関が分からない場合、裁判所を通じて情報を取得する手続きもあります。ただし、手間と費用がかかります。

相手が営業を続けている会社なら、任意に支払われることが多いのも実情です。判決が出た段階で交渉が動くこともあります。

判決の内容は、そのまま強制執行の根拠になります。改めて争う必要はありません。

相手が分割払いを申し出てきた場合は、書面で取り決めてください。口約束にすると、また同じことの繰り返しになります。

訴訟を選ばないという判断もある

費用と時間を考えると、訴訟が最善とは限りません。

請求額が数万円なら、印紙代と手間のほうが大きくなることもあります。その場合でも、消費生活センターのあっせんは無料で使えます。

判断の目安を挙げます。

  1. 請求額が数十万円以上で、証拠がそろっている → 訴訟を検討
  2. 請求額が小さいが、説明を求めたい → あっせん・調停
  3. 相手が話し合いに応じない → 調停を経て訴訟
  4. 時効が迫っている → 早急に弁護士へ相談

どの段階でも、必要な準備は同じです。書類をそろえ、経緯を時系列で書き出してください。

葬儀社への請求 — 訴える前の確認項目
葬儀社への請求 — 訴える前の確認項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

まとめ

訴訟は道の終わりであって、入口ではありません。順番に進めば、途中で解決することが多くあります。

  • まず書面で説明と返金を求め、消費生活センターに相談する
  • 請求する根拠と金額を、費目ごとに特定する
  • 契約書・見積書・請求書・やり取りの記録をそろえる

時効の期間だけは注意してください。迷ったら、早めに相談することが結論を早めます。