家族葬で香典を辞退するとき|伝え方と費用への影響
辞退すれば返礼の手間は減りますが、費用の負担はそのぶん重くなります
家族葬にするので、香典は辞退しようと思う。でも、どう伝えればよいのか分からない。
辞退すること自体は、珍しくありません。ただし、費用の負担はそのぶん重くなります。
先に、判断の材料を整理してください。伝え方にも、決まった形があります。
辞退するかどうかの判断材料
決める前に、影響を知っておいてください。
| 項目 | 辞退する場合 | 受け取る場合 |
|---|---|---|
| 費用の負担 | 全額を遺族が負担 | 一部を香典で賄える |
| 香典返しの手間 | 不要 | 必要(金額に応じて選ぶ) |
| 当日の受付 | 簡素になる | 記帳と受け取りの人手が要る |
| 参列者の気持ち | 「何もできない」と感じる人もいる | 弔意を形にできる |
株式会社鎌倉新書の「第7回 お葬式に関する全国調査」(2026年)によると、葬儀費用の総額の平均は96.73万円です。
香典で賄える割合は、参列者の数と関係によって変わります。家族葬では人数が少ないため、賄える割合も小さくなります。
同じ調査による内訳の平均は、基本料金72.02万円、飲食費11.67万円、返礼品費13.03万円です。
香典を辞退すれば、返礼品費は減ります。ただし、基本料金と飲食費は残ります。
差し引きでどうなるかは、参列者の人数によります。人数の見込みが立ってから判断してもかまいません。
一方、香典返しの手間は小さくありません。金額に応じて品を選び、送る作業が生じます。
どちらを選んでも構いません。負担の重さで判断してください。
決めたら、家族の間で共有してください。認識がずれると、当日に対応がばらつきます。
葬儀社にも、早い段階で伝えてください。受付の設営や、返礼品の数量に関わります。
一度決めたら、途中で変えないほうが混乱しません。訃報を出した後の変更は、伝わりません。
訃報での伝え方
いちばん大切なのは、はっきり書くことです。
曖昧に書くと、相手が迷います。持参してよいのか分からず、結局持ってくることになります。
そのまま使える書き方を挙げます。
- 「誠に勝手ながら、御香典・御供花の儀は固くご辞退申し上げます」
- 「故人の遺志により、御香典は辞退させていただきます」
「固く」という語を入れると、意図がはっきり伝わります。遠慮の表現と受け取られにくくなります。
香典だけでなく、供花や供物も辞退する場合は、まとめて書いてください。分けて書くと、片方だけ持参されます。
供花は、注文した人が支払うのが原則です。ただし、葬儀社が喪主にまとめて請求する運用もあります。
辞退しない場合は、誰に請求が行くのかを確かめてください。当日に混乱しません。
弔電については、辞退しないことが多くあります。負担が生じないためです。
当日に持参された場合
はっきり伝えても、持参する方はいます。対応を先に決めておいてください。
| 対応 | 内容 |
|---|---|
| 受け取らない | 丁重にお断りし、そのままお返しする |
| 受け取る | 例外として受け取り、後で香典返しを送る |
| 一部だけ受け取る | 親族からのみ受け取るなど、線を引く |
どの対応を取るかを、受付の担当者に伝えておいてください。担当者がその場で判断できないと、対応がばらつきます。
受付を葬儀社に依頼する場合も、同じです。事前に方針を伝えてください。
判断に迷う場面が出たときに、誰に確かめればよいかも決めておきます。喪主が式の最中で動けないこともあります。
代わりに判断する人を決めておくと、当日が落ち着きます。
受け取らない場合の言い方も、決めておくと安心です。「お気持ちだけ頂戴いたします」で足ります。
一方、目上の方や、どうしてもと言われる場合は、受け取ったほうが角が立たないこともあります。その場合は、記録を残して後で香典返しを送ります。
記録は、氏名・住所・金額の3点があれば足ります。後で品を選ぶときに使います。
住所が分からない場合は、その場で聞いてください。後から調べるのは手間になります。
受け取った香典は、その場で保管する担当を決めておいてください。金銭を扱うため、複数人で確かめるのが安心です。
親族からの香典をどうするか
親族については、別に考える家庭もあります。
「一般の方は辞退するが、親族からは受け取る」という運用です。これも問題ありません。
ただし、線引きを家族の間で共有してください。当日に受付で迷うと、対応がばらつきます。
親族に伝えるときは、直接連絡するほうが確実です。訃報の文面とは別に、電話などで伝えてください。
線引きの理由を説明する必要はありません。「一般の方には辞退をお伝えしています」と伝えれば足ります。
親族の中でも、遠い親族については判断が分かれます。どこで切るかを、家族で決めてください。
決めた線引きは、受付の担当者に紙で渡しておくと確実です。口頭だけだと伝わりません。
香典は誰のものか
法的な位置づけを知っておくと、判断が楽になります。
根拠となる裁判例 — 葬儀費用を負担するのは誰か
香典は、葬儀の主宰者に対する贈与と理解されるのが一般的です。故人の財産ではないため、相続財産には含まれないと考えられています。
葬儀費用の負担については、東京地方裁判所平成19年7月27日判決が、葬儀を自己の責任と計算において手配し挙行した葬儀主宰者が負担すべきものとしました。
名古屋高等裁判所平成24年3月29日判決は、通夜や告別式の費用は儀式を主宰した者が、遺体の火葬・埋葬の費用は祭祀を主宰すべき者が負担すべきものとしました。東京地方裁判所令和3年9月28日判決も、葬儀を主宰したと認められる者が負担すべきものと判断しています。
香典が故人の財産でないということは、相続放棄をしても受け取れると考えられています。
また、香典を葬儀費用に充てても、相続財産の処分にはあたらないのが通常です。
相続放棄を検討している場合、この点は重要です。故人の預金から出すより、香典を充てるほうが安全です。
故人の預金から葬儀費用を出すと、相続財産の処分と評価されるおそれがあります。
もっとも、相当な範囲の葬儀費用の支出について、処分にあたらないとした裁判例もあります。大阪高等裁判所平成14年7月3日決定です。
いずれにしても、記録は必ず残してください。領収書と、いくらを何に充てたかの一覧です。
相続税での扱い
香典と香典返しは、税の場面でも扱いが分かれます。
国税庁のタックスアンサーNo.4129は、香典返戻費用を、差し引けない葬式費用として挙げています。
墓石や仏壇の購入費用、初七日以降の法要の費用も、対象外とされています。
葬儀のときにまとめて支払っていても、費目ごとに分けて整理してください。領収書の記載が「一式」だと、仕分けができません。
明細の交付を、葬儀社に求めてください。相続税の申告で使う旨を伝えると、応じてもらいやすくなります。
つまり、香典返しの費用は、相続税の計算で遺産総額から差し引けません。
一方、通夜や告別式の飲食費は、葬式費用として扱われます。費目ごとに記録を分けておいてください。
香典そのものは、社会通念上相当な範囲であれば、贈与税や所得税の課税対象とならないのが通常です。
社会通念を大きく超える高額な香典については、扱いが異なることがあります。判断に迷う場合は、税理士に確かめてください。
領収書が出ない支払いについては、支出の事実を明らかにできる記録があれば差し支えないという運用が示されています。
日付・相手・金額・目的をメモに残しておいてください。それが記録になります。
辞退した場合の費用の準備
香典が入らない分、手元の資金が必要になります。
- 支払期限がいつかを、契約の段階で確かめる
- 公的給付(葬祭費・埋葬料)の入金時期を確かめる
- 生命保険金の請求を早めに進める
- 足りない場合は、支払期限の相談をする
葬祭費や埋葬料は、申請から入金まで1〜2か月かかります。葬儀の支払期限には間に合わないことが多くあります。
その事情を、契約の段階で葬儀社に伝えておいてください。後から言うより、条件を組み替えてもらいやすくなります。
生命保険金は、比較的早く入金されます。書類がそろえば、数日から2週間程度で支払われることが多くあります。
故人がどの保険に入っていたかは、通帳の引き落とし履歴から追えます。保険証券が見つからない場合は、生命保険協会の照会制度が使えます。
故人の預金は、金融機関が死亡を把握すると引き出せなくなります。仮払いの制度もありますが、書類の準備に時間がかかります。
支払期限は法律で決まっているものではありません。契約で決まるため、相談の余地があります。
契約の段階で、「請求書はいつ発行され、いつまでに支払うのですか」と聞いてください。
分割やカードが使えるかも、あわせて確かめておきます。決まったことは書面に残してもらってください。
担当者が代わると、口約束は引き継がれません。書面かメールに残すことが大切です。
辞退しない場合の準備
受け取る場合は、受付の体制が必要です。
一覧は、香典返しを送る際に使います。金額に応じて品を選ぶためです。
香典返しは、四十九日を過ぎたころに送るのが一般的です。地域によって時期が異なります。
金額の目安は、いただいた額の3分の1から半分程度とされることが多くあります。決まりではありません。
葬儀社や返礼品の業者に相談すると、地域の慣習を教えてもらえます。
即日返しの場合は、当日に同じ品を渡します。高額の香典をいただいた方には、後日あらためて送る形になります。
金銭を扱うため、担当は複数人にするほうが安心です。一人に任せきりにしないでください。
数える作業は、式が終わってからでかまいません。当日は、保管を確実にすることが優先です。
金額を確かめるときは、2人以上で行い、記録に残してください。後から食い違いが出るのを防げます。
親族間のことであっても、記録を残すことに意味があります。透明性が信頼につながります。
まとめ
辞退するかどうかは、喪主が決めてかまいません。
- 辞退すれば返礼の手間は減るが、費用の負担は増える
- 訃報には「固くご辞退申し上げます」とはっきり書く
- 当日に持参された場合の対応を、先に決めて受付に伝える
香典は故人の財産ではありません。葬儀費用に充てても問題ありません。
