葬儀の請求書は誰宛てにするか|名義で変わること

宛名は「支払う人」ではなく「契約した人」です。ここがずれると後で困ります

葬儀社から「請求書のお宛名はどうしますか」と聞かれ、迷っていませんか。

結論から言います。請求書の宛名は、契約をした人にするのが原則です。支払う人の名前ではありません。

ただし、後の手続きに影響します。相続税の申告、立替金の請求、会社の弔慰金。どれも宛名が関わります。先に整理しておきましょう。

請求書の宛名は、何に影響するのか
請求書の宛名は、何に影響するのか(作図: 弁護士による葬儀ガード)

宛名は契約者の名前が原則

請求書は、契約に基づいて出される書類です。だから、宛名は契約の相手方になります。

多くの場合、契約者は喪主です。喪主が申込書に署名し、そのまま宛名になります。

一方で、契約者と実際に払う人が違うこともあります。長男が契約し、費用は次男が出す、という形です。

このとき、宛名を次男にすると、契約関係と書類が食い違います。後から説明が必要になります。

原則は契約者名です。そのうえで、支払った人が分かる記録を別に残してください。

振込であれば、振込人の名義が記録に残ります。これが支払いの証拠になります。

現金で払った場合は、領収書の但し書きに一言添えてもらう方法があります。頼んで差し支えありません。

契約者と喪主が違う場合

契約者と喪主が別人になるのは、珍しいことではありません。次のような場面です。

  • 喪主は高齢の配偶者、契約と手続きは子が行った
  • 喪主は長男だが、遠方に住んでおり、近くの次男が契約した
  • 故人が生前契約をしていた(契約者は故人)
  • 身元保証会社が契約した

生前契約の場合は、契約者が故人です。この場合の扱いは、契約の内容によります。

葬儀社に「契約者は誰になっていますか」と聞いてください。申込書の控えでも確かめられます。

契約者が分かれば、宛名は自然に決まります。迷う場面は少なくなります。

相続税の申告への影響

相続税の申告をする場合、葬儀費用は課税価格から差し引けます。ここで書類が効いてきます。

控除できる控除できない
通夜・告別式の費用香典返しの費用
火葬・埋葬・納骨の費用墓石・墓地の購入費
遺体の搬送費用初七日以降の法要の費用
読経料・戒名料などのお布施医学上または裁判上の特別の処置費用

この区分は、国税庁のタックスアンサー No.4129 に示されています。

控除は、実際に負担した相続人が受けます。だから、誰が払ったかが分かる必要があります。

宛名が別人でも、支払いの記録があれば説明できます。振込の控えを保管してください。

税務署から問い合わせがあった場合に備え、領収書と振込記録はセットで残してください。

相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月です。書類を探す時間も含めて考えてください。

申告が不要な場合でも、書類は残しておくほうが安全です。後から分割の話が出ることがあります。

保管の期間は、申告期限から5年から7年を目安にすると安心です。税務調査の対象期間に対応します。

立替金を請求する場合

葬儀費用を一人で立て替え、後から他の相続人に分担を求める場面があります。

このときも、宛名と支払い記録の両方が材料になります。どちらか一方では足りません。

3番を忘れないでください。香典を差し引いた「手出しの実額」が、請求の出発点になります。

香典を引かずに請求すると、話がこじれます。先に引いておくほうが、結果として早く進みます。

香典帳が残っていれば、それが最も確かな記録です。金額と氏名が並んでいます。

一覧表は、項目・支払先・金額の3列で足ります。手書きでも構いません。

領収書のコピーを添えて渡すと、説明が省けます。数字が見えれば、話は進みます。

誰が負担するのかという問題

そもそも葬儀費用を誰が負担するかについて、直接の条文はありません。

裁判例では、葬儀を主宰した喪主が負担するという考え方が有力です。

参考になる裁判例 — 葬儀費用の負担者

東京地方裁判所は平成19年7月27日の判決で、葬儀費用は特段の事情がない限り、葬儀を主宰した者が負担すると判断しました。

名古屋高等裁判所は平成24年3月29日の判決で、原則として喪主が負担すべきものとしつつ、相続人間に合意があればそれによると示しています。

東京地方裁判所は令和3年9月28日の判決でも、葬儀を主宰した者が負担するという整理を前提としています。

つまり、宛名が誰であっても、最終的な負担者は話し合いで決められます。

宛名は「誰が契約したか」を示すものであって、「誰が最終的に負担するか」を決めるものではありません。

ここを分けて考えると、家族の話し合いが進みやすくなります。

株式会社鎌倉新書の「第7回 お葬式に関する全国調査」(2026年)によると、葬儀の総額平均は96.73万円でした。

100万円前後の負担をどう分けるかは、家族にとって小さな話ではありません。

だからこそ、書類の名義と支払いの記録をそろえておく意味があります。感情ではなく事実で話せます。

図で整理: 宛名を決める順番
図で整理: 宛名を決める順番(作図: 弁護士による葬儀ガード)

会社が費用を出す場合

会社が社葬の費用を負担する場合や、弔慰金とは別に費用を出す場合があります。

この場合、宛名を会社名にする必要があることがあります。経理処理のためです。

宛名場面
会社名社葬・合同葬で会社が費用を負担する
喪主個人個人葬。会社は弔慰金を別に支給する
両方に分ける会社負担分と遺族負担分がある

社葬の費用は、社会通念上相当と認められる範囲で、会社の損金に算入できるとされています。

国税庁のタックスアンサー No.5389 に、その考え方が示されています。経理担当者に確かめてください。

分けて請求してもらう場合は、契約の段階で葬儀社に伝えてください。後からの分割は手間がかかります。

宛名を変えたいとき

一度発行された請求書の宛名を変えることは、多くの場合できます。早めに頼んでください。

  • 発行前なら、電話で伝えるだけで済む
  • 発行後でも、再発行に応じる会社が多い
  • 領収書の宛名も、同時に変えられることがある

ただし、税務上の書類として使う場合は、二重発行を避ける必要があります。

古い請求書を返却するよう求められることがあります。会社の指示に従ってください。

変更を頼むときは、理由を添えると通りやすくなります。「相続税の申告で使うため」で十分です。

日数が経つほど、経理の処理が済んでしまいます。気づいた時点で連絡してください。

メールで頼むと、依頼の記録が残ります。電話の場合は、日時と担当者名をメモしてください。

領収書の但し書き

領収書は、宛名と同じくらい但し書きが大事です。何の代金かが書かれている必要があります。

  • 「葬儀一式代として」
  • 「通夜・告別式費用として」
  • 「火葬料として」

「お品代」とだけ書かれていると、内容が分かりません。申告の場面で説明が必要になります。

お布施のように領収書が出ないものもあります。この場合は、日付・金額・相手先をメモに残してください。

寺院にお願いすれば、受領証を出してもらえることがあります。頼んで差し支えありません。

出してもらえない場合でも、控除は受けられます。メモの記載が根拠になります。

メモには、日付・金額・寺院名・目的を書いてください。封筒の写しを残す方法もあります。

心づけや車代も同じ扱いです。渡した相手と金額を記録してください。

支払い方法と記録

支払い方法によって、残る記録が変わります。後のことを考えるなら、記録の残る方法が有利です。

方法残る記録
銀行振込振込人・日付・金額
クレジットカード利用明細(名義人が分かる)
現金領収書のみ
故人の口座から取引履歴(要注意)

故人の口座から支払う場合は、注意が必要です。相続放棄を考えている人がいると、問題になり得ます。

根拠となる条文 — 相続財産の処分と単純承認

相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号)。

相続の承認または放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にしなければなりません(同法915条1項)。

もっとも、社会通念上相当な範囲の葬儀費用の支出については、単純承認にあたらないと判断された例があります(大阪高等裁判所平成14年7月3日決定、家月55巻1号82頁)。

金額が大きい場合や、判断に迷う場合は、支出の前に弁護士へ確かめてください。

分割して支払う場合

請求額を、複数の相続人で分けて支払う方法もあります。あらかじめ決めておくと楽になります。

葬儀社が分割の請求に応じるかは、会社によります。契約の段階で相談してください。

方法内容注意
1人がまとめて払う後から相続人間で精算立替金の記録が要る
人数で分けて請求各自が自分の分を払う葬儀社の同意が要る
遺産から払う相続人全員の合意が前提相続放棄との関係に注意
保険金から払う受取人が支払う受取人固有の財産になる

いちばん多いのは、最初の形です。あとで精算する前提で、まず1人が払います。

このとき、宛名はその人にしておくと説明が楽になります。契約者と一致していれば理想的です。

保険金を充てる場合、死亡保険金は受取人固有の財産として扱われるのが通常です。遺産分割の対象にはなりません。

つまり、受取人が自由に使えるお金です。葬儀費用に充てることに制約はありません。

決め方の順番

迷ったら、次の順で決めてください。ほとんどの場合、これで片づきます。

  1. 契約者が誰かを確かめる(申込書の控え)
  2. 会社が負担する分があるかを確かめる
  3. 相続税の申告があるかを確かめる
  4. 支払う人と契約者が違うなら、記録の残る方法で払う
  5. 領収書の但し書きを確かめる

国民生活センターが2026年6月3日に公表した資料によると、葬儀サービスに関する相談は2025年度に917件で、うち52.6%が料金に関するものでした。

宛名の問題は、後から効いてきます。急いでいる場面でも、1分で決められる項目です。

迷ったら、契約者名にしておくのが無難です。後から変更を頼むこともできます。

判断に迷うときは、葬儀社の担当者に事情を伝えてください。同じ相談を何度も受けています。

請求書の宛名 — 決める前に確認する項目
請求書の宛名 — 決める前に確認する項目(作図: 弁護士による葬儀ガード)

まとめ

宛名は小さな項目に見えて、後の手続きに響きます。

  • 宛名は契約者名が原則。喪主と違うなら契約者を書く
  • 支払った人が分かる記録を、別に残す
  • 会社負担分があるなら、契約の段階で分けてもらう

決め方は決まっています。落ち着いて確認すれば大丈夫です。